時空トラベラー THE TIME TRAVELER'S PHOTO ESSAY

歴史の現場を巡る旅 旅のお供はいつも電脳写真機

秋のニューヨーク アート散歩 ー アート表現手段を我らの手に!ー

2012年10月16日 | ニューヨーク/ロンドン散策
 今年の秋のニューヨークツアーは、私達夫婦にとってなかなかにノスタルジックな出来事であった。思いがけないところで思いがけない人にばったり出会ったり、旧友の家族とリラックスしたディナーを楽しんだり、昔の職場の仲間が集まってくれたり、ニューヨークが私にとってかけがえの無い故郷になっている事に改めて気付かされた旅であった。もちろん結婚してこちらで暮らしている娘夫婦に会えるという事が,13時間の飛行という長旅にもかかわらず、旅立ちを決断させる最大のインセンティブである事は間違いない(妻にとっては特に)。

 また、今回のニューヨークへのショートトリップはアートな旅でもあった。フォトグラファーとしての活動に取り組んでいる娘夫婦が参加している、The New York Art Book Fair 2012がちょうどLong Island CityのMOMA PS1で開催されていており、彼等の案内でツアーを楽しむことが出来た。写真やデザインや絵画そのものだけでなく、写真集や画集、デザインブックといった「本」がそもそも,新しいアート表現となっていることに気付かされる。特に最近のトレンドになっているZineやSelf publishing作品が数多く出展されており大変興味深い。

 IT(Information Technology)の発展、とりわけ、PCやスマートホン、安価で高性能なデジタルカメラ、高精細インクジェットプリンターといったデバイスや、高速インターネット、ソーシャルネットサービス(SNS)、デスクトップパブリッシング(DTP)、ストーレージサービス、クラウドサービスなどの技術とサービス、その可用性(availablity)が急速に発達したことが、こうしたトレンドに拍車をかけている事は間違いない。

 例えば、今までは写真家が写真集を世に出すためには、出版社にまず認められなくてはならなかった。出版は大変にコストのかかる「事業」であった。つまり、平たく言うと、出版物として商業的に成功する作品のみが世にでる。このため、学生や写真を志す若手や、私のようなシロウトフォトグラファーの数多くの、ユニークな作品や表現が世の中に知れる事はまず無かった。インターネット基盤とした、いわゆる「ネット」がこうした、いわばロングテール作品を数多くの人々に観てもらう新たな媒体となった。いこのネットがマーケティングの世界でロングテール市場とロングテールニーズをマッチングさせる媒体となっている事は世に知られているが、これはこうしたアートの世界でも同じ事。出版社や新聞や放送のような一方通行のマスメディアに対する、インターネットそれをベースとした双方向型ソーシャルメディアが生まれたインパクトは大きい。そこではあらゆるUser Generated Contentsが主流になる。あたらしい表現者が新しい表現を自由に発表し流通させる事が出来る。

 こうなると、アートブックやフォトブックは、廃れるどころか、ますます表現者の手に戻ってくる。それがZineであったりSelf Publishingであったり、Digital Fotobookであったりする。また、さらにはその最終成果物だけでなく、その制作過程にある、校正版やアイデアノートのような物がまたアート表現の一つになる。この世界の伝道師、Victor Siraは、これを「book dummy」と呼んでいるが、これがまた面白い作品だ。これまでの出版概念では絶対なかった。

 このようにメディアを表現者の手に取り戻し、多様な表現手段を駆使する新しいアートの世界が広がっている。こういう表現手段にあらたな価値が見出されてきている。これは、ネットでのいわばバーチャル世界の表現と,自作の印刷物となり、書店店頭に並ぶという、リアルの世界での表現が共存する事を意味している。そのインタラクティブな関係性がまた新たな表現世界を生み出す。

 そして、意外に日本では知られていない事は、日本はこの分野では先駆的なのだということ。しかも、こうしたアートシーンは東京ばかりではなく,京都や福岡といった特色ある地方都市での活動が注目されてきているということ。今回のNY Art Book Fair 2012でも福岡の若者達の作品と活動が取り上げられていた。また、去年秋、金沢の21世紀美術館を訪問した時には、Zineの特別企画展が催されていた。アートの「地方分権」は当然なトレンドだろう。世の中に認められるためには東京へ出て、メジャーデビューしなくては,というモデルは前世紀的なモデルになりつつある。

 かつて、生産手段を労働者の手に取り戻し、自由を我らに、富の再配分を公平に、というカール・マルクスの主張は、21世紀になってもまだ実現出来ていないが、表現手段をアーチストの手に取り戻し、自由な表現、表現機会を公平に、は実現に向けて着々と進んでいる。テクノロジーイノベーションがアートイノベーションを生み出している。

 もちろんアーティストが商業的に成功して生活が豊かになるかどうかは、別の問題である。しかし、これも新たな事業モデルが生まれつつある。Google やAppleが提供する「プラットフォーム」がロングテール市場ののビジネス革命を引き起こしている。音楽におけるCDや、ビデオのようなパッケージメディア、書籍,雑誌や新聞、テレビのようなオールドメディアが、その事業モデルの大きな変換点に立たされている時に、こうしたネット文化がビジネスに大きなインパクトを与えている事は間違いない。テレビでやっているから素晴らしい。大手出版社から出されている本だから面白い、有名人だからスゴイ、という与えられた一方通行の評価基準ではなく、自ら発信者であり受け手でもある「我々」が持つべき価値の評価基準にもイノベーションが求められている。マネーはそれについてくる。それがビジネスモデルイノベーションだ。

 こうしてニューヨークの街を歩いていると,この街にはそこここにアートが潜んでいる。ともすれば観光案内や絵はがき的になりがちな風景や、街の佇まいを,自分なりの視点で写真に切り取ってみる楽しみが増えた。私のようなシロウトフォトグラファーにとって自分なりの表現手段を獲得出来るという事、そしてそれを大勢の人々に観てもらうことが出来るという事は,とてもワクワクドキドキする。


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(ニューヨークともしばしの別れ。マンハッタン、JFK空港を望む)

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(撮影機材:Fujifilm X10, X-Pro1, 35mm, 18mm,60mm Macro.このセットは街歩きのベストパートナーだ)



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