その日は梅雨の晴れ間の35℃の猛暑であった。しかも柳川駅で電車を降りるなり、突然のにわか雨に見舞われ、幸先の悪さを嘆いたものだが、やがて雨は止み青空に。今度はジリジリと太陽が照りつける猛暑。しかし不思議に雨の後の蒸し風呂のような不快さではない。水辺の街だからだろうか。意外に涼やかな風が吹きわたる。柳川はクリークが町中に張り巡らされ、城下町と町人町、沖端の漁港がセットになった独特の景観を有する街だ。旧立花家の邸宅である御花や、北原白秋の生家・資料館が観光の2大ポイントだが、なんといっても水郷の川下りとうなぎのせいろう蒸しが柳川を有名にしている。そのほかにも最近は武家屋敷の公開や、城下町の街並みが復元整備され、街並み散策ファンにも十分魅力的になった。そういえば琴奨菊も柳川出身だった。
西鉄柳川駅(最近リニューアルされていい感じに。駅の建物がグッドデザイン賞を受賞したそうだ)近くの河岸から御花まで、約一時間の川下りの船が出ている。柳川にはこれまで何度か来たことがあるが、実はこれまで一度も川下りしたことがなかった。今回が初めての体験だ。静かな水面に船頭さんの名調子。川面の涼風と岸辺に生い茂る楠の木の緑陰に心癒される時間が流れる。真っ青な空と白い雲、赤いカンナとネムノキの花の綿毛。狭くて低い石橋の下をくぐるちょっとしたアドベンチャー。気温の割には涼しささえ感じる。これまでクリーク沿いの遊歩道を散策したことはあったが、ゆったりと水上から眺める風景にはまた別の情緒がある。もちろん遊歩道から川下りを楽しむ人々を眺めるのも悪くない。こうして立花家邸宅である御花、北原白秋生家へとむかった。
さて、柳川に来たらうなぎのせいろう蒸しを食せばなるまい。特にこのような猛暑に見舞われた日はせいろう蒸しで元気回復!こればかりはなかなか東京や関西では味わうことができない。蒸篭(せいろう)にうなぎの蒲焼とご飯を入れてタレをかけ、じっくりと蒸し上げる。仕上げに時間がかかるのでせっかちな都会人には向かないメニューだ。アツアツをハフハフ言いながら食すわけだ。絶品だ!幸せを感じるひと時だ!
こうして約一時間かけての川下りで水郷柳川の情緒を存分に味わうことができた。しかし、帰りに御花から柳川駅に向かうために乗ったバスの車窓から見る柳川の街は、なんの変哲もない普通の地方都市にしか見えなかったのが不思議だ。しかもわずか10分ほどの乗車というあっけなさもあって、さっきのゆったりした水辺の旅の柳川はどこへ行ってしまったのか。「アトラクションは終了です。お帰りはこちら」みたいな場面転換... 水路は昔の柳川の重要交通手段。自動車の走る道路は今の柳川の重要交通手段。この旅の最後に、所要時間も情緒も異なる対照的な移動手段の違いを知ることとなったわけだ。そのギャップに「時代の移り変わり」を感じた。急ぎの旅でなければ帰りは岸辺の遊歩道をブラブラ歩く方が良いかもしれない。
アクセス:
西鉄福岡(天神)駅から西鉄柳川駅まで特急で約45分。西鉄特急は30分ごと発車で特急料金はいらない。また柳川観光特急「水都」を走らせている。これも別料金なしで乗れるのが嬉しい。駅前からはバス、タクシーがあるが、クリーク沿いをのんびり歩いて御花や白秋生家にゆくのがオススメ。また駅近くからは川下りの船が出ている。約一時間のゆったりコースで御花まで連れて行ってくれる。水郷情緒を味わうにはこれがイチオシであることはいうまでもない。
うなぎのせいろう蒸し:
有名なのは「本吉屋」「若松屋」。どちらも柳川にしか店を出していない老舗。本家本元なので間違いはない。人気店なのでいつも混んでいるし、注文から出来るまで待たされることを覚悟する必要がある。チャッチャと食べてチャッチャと席を立つなどというせっかちな江戸っ子や浪速っ子を自認する人には向かない。御花には落ち着いた和風レストランがあり、庭園を鑑賞しながらのせいろう蒸しもゼッピンだ。うなぎの苦手な人向けには懐石料理や鯛茶漬け御膳などという憎いメニューもある。
柳川古文書館を見ながら出発 |
多くの橋をくぐって進む |
川下り発着場 |
味噌屋さんの並蔵 |
緑陰を行く |
武家屋敷あと |
ネムノキがいたるところで |
途中の水上マーケットで一服 |
船頭さんの後ろに入道雲 |
梅雨の晴れ間の猛暑 |
立花家御花洋館 |
御花正門 |
木造の洋館が美しい |
御花松濤園
柳川といえばうなぎのせいろう蒸し |
北原白秋の生家 |
北原家は酒造業であった |
新装なった西鉄柳川駅 白秋の歌碑 |