時空トラベラー THE TIME TRAVELER'S PHOTO ESSAY

歴史の現場を巡る旅 旅のお供はいつも電脳写真機

アンティークブックショップ巡り ニューヨーク、ロンドン

2010年01月07日 | ニューヨーク/ロンドン散策
ニューヨークにいた時、35丁目とMadison Avenueとの角に、その名もThe Complete Travellersという古書店を発見。 ウエッブサイト(http://www.ctrarebooks.com/)で見る限り、旅行に関する結構な稀書コレクションを持っており、Japanのセクションだけでも19世紀後半から20世紀初頭のものを並べている。Lafcadio HearnやIsabella Birdも並んでいる。なんと私向きな本屋だ、と早速仕事の帰りに寄ってみた。

オフィスからはPark Avenueを南へ5ブロック。このあたりはMidtownでもMurray Hill地区。ちょっとロンドンのCharing Cross Roadのあたりに雰囲気が似ている。 店は交差点に位置しており、古書店にありがちな入りにくい雰囲気ではなく気さくに歓迎してくれた。

早速Japanのコー Kwaidan(怪談)のNY初版本だ。店員の青年にIsabella BirdのUnbeaten Tracks in Japan(日本奥地紀行)が店のウエッブサイトにはあったことを伝えると、すぐに探しだしてくれたので、それも購入することにした。なんと全部で$500! この間出張で訪れた松江で旧小泉八雲邸に立ち寄ったら,同じ本が展示されていた。またUnbeaten Tracks in Japanはヨーロッパ人やアメリカ人の間でアジアの探検旅行がブ-ムとなった19世紀末から20世紀初頭の人気旅行記で、最近日本でもその翻訳本が出されたようだ。日光の金谷ホテルにも展示されていた。

ロンドン時代、Charing Cross RoadやBritish Museum, Russell Squareあたりに数多くあったアンティークブックショップを回り、装丁の綺麗な本や、明治の頃の日本旅行関係の本を探したり、アンティークマップをあさったりするのが週末の楽しみだったのを思い出させてくれた。特にアンティークマップは、地域別の箱にぎっしり詰め込んであって,好きなの探して持ってけ,という雰囲気であった。その中からお宝を探し出すのだ。また大抵、そうした店の隣には,買った古地図をフレームに入れてくれる額装専門の店もあって、待ってる間にちゃっちゃっと仕事して、意外なほど安い価格で仕上げてくれる。

イギリスはそういった古書やプリント類の宝庫だ。KentやSussexなどの郊外のManner Houseを訪ねると,たいがいの館に自慢げにインドや中国や日本のアンティークコレクションが並んでいる。そしてこれまた壁一面の書棚には、必ずと言ってよいほど立派な装丁の本がぎっしりと並んでいる。旅行関係や地理,歴史、植物に関する本が多い。これは19世紀、当時のイギリスの上流階級や実業家がそろって七つの海をまたがる大英帝国内を旅行して回ることをステータスとしていたことの現れである。ことに日本は帝国の版図外であり、極東にあってなかなか行く人も少なかったので、日本関係の本や陶磁器や武具甲冑、仏像を所有していることは、さらにステータスを引き上げる効果を有していた。こうした所から流れ出す書籍やプリントが店頭に並ぶ訳だ。

アメリカはその点,やはり後発国だといわざるをえない。NYにも古書店や古地図の店がいくつかはあったが、店の数、そのコレクションはイギリスロンドンのそれには及ばない。やはり歴史の違いだ。British Museum とMetropolitan Museumの収蔵品の違いを見ても理解できる。

First Avenue/37th Streetのアパートからもちょうど良い距離なので、週末になってぶらりと散歩がてら、また行ってみた。今度は店主らしいそれっぽいオヤジがいて、めがねの上から私を見ながら「なにか助けが必要だったら言ってくれ」と。

しばらく店内を見回ってから「アンティークマップはないか」と聞いたら、良く聞いてくれた,とばかり「勿論あるさ、あそこがアメリカ、あっちがその他の世界」と自慢げに教えてくれた。ストックはロンドンのCecil RowのAntique Maps and Printsの店には及ぶべくもないが、一応それなりのものがある。当然かもしれないがアメリカの州や都市の地図が多い。また相対的に年代が新しいものが多く、19世紀後半から、20世紀前半、という感じだ。残念ながら16-7世紀の大航海時代のものはなさそうだ。日本の地図もある。ちょうど明治維新直後の時代の地図だ。

ロンドンのBritish Museum正門前の古書店でAbraham OrtheriusのThe Theatre of The Worldの復刻版(これ自体がアンティーク本)を見つけたときには興奮した。とても持ち帰ることは出来るシロモノではない重さだった。店主は「送ってやるよ」と言ったが,見つけたものはすぐに自分で持って帰りたい人だから,駐車場に停めてあった車のとこまで、うんうん唸りながら担いで行ったことを覚えている。

さて、小一時間見て回った後、結局地図ではなく、NY関連書籍のコーナーでWashington IrvingのHistory Of New Yorkを見つけた。装丁もしゃれているので買おうと先ほどのオヤジに渡したら、「Washington Irvingを探しているのか?」と。別にそれの特定しているつもりはないのだが「まあ、旅行関係が好きで、色々面白いのがたくさんあったけど、今日はこれを」というと、「ちょっと待て。こっちへ」といって奥へ連れて行き、鍵のかかった書棚に鎮座ましましているとっても美しい装丁の彼の著作、Story of Travel2分冊を出してきた。これはほとんど保存状態が良い。1896年の版でなかの挿画やデザインが素晴らしい。300ドルもするが、稀少本であるし、あまりに魅力的なルックスだったのでふらふらと買ってしまう。オヤジは商売がうまい。というか,私は意志が弱い。

また「Japan関係にも興味があるけど、ここにあるだけか?」とやや挑発的に聞いたら、また「ちょっと来い」とさらに奥の鍵のかかった書棚へ。そこには稀少高価本が収められている。恐ろしくなって「もう今日はいい」といったが、オヤジは「別に買わなくてもいい。コレクションを見てくれ」と。出してきたのは1914年、第一次世界大戦時に出版されたJapanese Empireというコンパクトな旅行ガイドブック。日本が史上最大の版図を維持していた時代の地図が挿入されており、誇らしく朝鮮半島、台湾、南樺太、千島列島全域が赤く塗られているではないか。また保存状態の極めて良い帝都東京の細密な都市図、日本列島各都市の詳しい地図も挿入されている。コリャいかん。また欲しくなった。300ドルだ。しかし、これはきっぱり断って店を出た(後にやっぱり購入してしまうが)。

このオヤジさすが古書店店主という風貌で、また、それなりに幅広い知識を持っているのに感心した。どんなテーマでもこなせそうな感じだ。イギリスのケンブリッジの古書店では、ケンブリッジで古楽器演奏で学位取った、なんてオヤジに出会ったことがある。また,ケントの田舎町の古書店では、かつて外航船の船長で世界中を回ったという、精悍な顔つきのオヤジに出会ったこともある。なんか雰囲気やバックグラウンドが似ている。このNYのオヤジもきっとなにかのPhD.くらい持ってたり、世界を旅して回った経験があるのかもしれない。

時空を超えた膨大な歴史遺産に埋もれて暮らす古書店店主。本当のインテリ趣味人の究極の職業かもしれない。こりゃいいかもしれない。第二の人生を是非こんな「知」のラビリンスで過ごす..... 時空トラベラーの安息の場所を見つけた。

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                                      (New York night line)


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4 コメント

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ウワーーー。第二の人生は古書店の店主希望? (M,K)
2010-01-08 01:41:36
カメラの次は・・・
ニューヨークの夜景が綺麗です。エンパイアービルのライトアップのバリエーションが色々あったのを思い出します。
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クラシックカメラ屋店主もいいなあ。 (T.K.)
2010-01-08 10:05:00
クラシックカメラ屋店主もいいなあ。
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古書店の店主いいね~ (beaverweaver)
2010-03-12 01:31:24
もったいなくなって、何も売らないガンコオヤジになりそうだけど。。
その本屋、今度行ってみます。
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確かに。 (T.K.)
2010-03-12 12:34:09
苦労して集めたコレクションは売りたくないよね。
埋もれて暮らしたい!
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