猫のキキとヒゲおじさんのあんじゃあない毎日

『あんじゃあない』って、心配ない、大丈夫っていう群馬の言葉、いい歳こいたキキとおヒゲのどうってことない前橋の暮らしです

『明るい麦穂 佐久間川 第38回』と『糸挽き歌は… 佐久間川 最終回』  40回連載にお付き合いいただきましてありがとうございます

2019-05-18 07:55:50 | あんじゃあない毎日

おヒゲが一生懸命書いていた佐久間川シリーズもおしまいになります。
今日は、第38回と最終回(第40回)を一挙に再掲載します。しっかりとつながっているお話ですから…
終わらせないと、おヒゲが戻ってこないかもしれないなんて話が聞こえてきたもんですから…

 

『明るい麦穂 佐久間川 第38回』 (2013年10月31日)

 

Dscf5297佐久間川は清水タクシーの営業所のところで、前橋子ども公園前の道をくぐります。 橋の名前は『満開橋』、いい名前です。橋をくぐると、川は子ども公園の中を流れます。

 

 

Dscf5299公園の中を流れる佐久間川の岸には、桜の木が植えられています。江戸彼岸、染井吉野、船原吉野、関山、普賢、5種類の桜が楽しめます。 以前は川の東側に前橋児童文化センターと交通公園、西側は『東公園』と呼ばれていました。リニューアルされて、全体を『前橋子ども公園』と呼ぶようになりました。

Dscf5323公園の中には、詩碑がいくつかあります。萩原恭次郎のもあります。『明るい麦穂』です。 この詩は、北原白秋の影響を強くにじませる抒情詩です。

 

 

       明るい麦穂

    麦穂あかるき  畑中に
    はや  さとくも心は  うるほみきたる
    手を上げ  何をよばんとするや
    茨の花は  水にながれ
    はるかの  野辺に汽車はしり
    そのかげ  ちさく  消えてゆく

 

 

  都にゆきたし 都にゆきたし 都にすまん 都にすまん
  
都こそ限りなき文明の泉  都こそ限りなき官能の灯
  
都こそまこと至上至細の官能の灯り 叡智の灯り
と、都にあこがれて故郷を出でた恭次郎が、東京の空の下で詠った故郷の詩、それが『明るい麦穂』です。

 

  埋もれてしまった麦畑と
  工場寄宿舎と大煙突の下を曲がれば
  佐久間川は  ………
ほら、第13回で紹介した『春の糸挽歌』の一節です。麦畑、そうなんです、恭次郎の前橋は、麦畑なのです。

Dscf5312佐久間川が広瀬川に吸い込まれて、消えてしまうほんの少し手前で、また、恭次郎に出会いました。 このシリーズは、恭次郎の『春の糸挽歌』に誘われて書き始めました。麦畑が消え、工場が立ち並び、その工場も消え、糸の街を失った前橋の今です。

 

 

Dscf5310 このまちが糸を失うきっかけとなったのは戦争だったと思います。 でも、もう一つ、糸を引き、糸を紡ぎ、機を織る人たちが、その糸を身に纏うことはほとんどなかったと思うのです。『春の糸挽歌』の前山フサ子も、絹の着物を着ることはなかったと思います。 製糸や紡織で働いていた人々の血と汗は、船に載せられて遠くの国へ運ばれました。そこで得られた金は、人々の手に戻ることなく、『富国強兵』につぎ込まれました。このことが、このまちから糸が消えていった本質のような気がしてなりません。

 

 

Dscf5326 前山フサ子も、彼女が暮らした『前橋』というまちも、今はもうありません。 佐久間川は、国家経済に揺り動かされ、自らはなす術もなかった人々の姿を見続けてきた川のように思えます。そして、今も流れています。

 

 第39回は再掲載しません。あしからず。
第39回 広瀬川に合流 コチラです

 

『糸挽き歌は… 佐久間川 最終回』(2013年11月2日)

 

 

 Dscf5576<このシリーズはさ、9月7日に『桃の匂いは 母さんの 匂いにとても似ています…』って詩で始まってさ、40回目を迎えました。 今日でおしまいにするそうです。 おヒゲは、利根川の河原へ出かけました>

 

 

Dscf2688夕暮れは次第に寒気を増す
雪は小降りになる
彼女はまた歩き出す
男に逢いたくなる 然し途中で止めてしまった
職業がないという事實がこの世の中にある
なんという侮辱
           (萩原恭次郎『春の糸挽歌』より

前山フサ子は、夕暮れの才川町を後にします。雪の降り始めた町に背を向けて…

彼女は歩いてゆく
電車線路も雪で見えないが、それを横切り 坂を上り
知事官舎の側から公園に出て
空の月を仰ぎながら人造繊維株式会社の雪を見ながら
利根川べりに立った(同上)   

人造繊維株式会社は、今は、前橋るなぱあくの駐車場です。工場の鋸屋根、石ころを投げると不思議な音がしました。 

Dscf5572彼女は水上を眺め
大鐡橋を眺め
夜空に聳ゆる赤城山を眺め 自分の身體を眺め
譯のわからぬ聲で歌った    (同上)

大鐡橋は旧利根橋だと思います。英国製のトラス橋、ゲートを飾った一対の馬のレリーフは、今も前橋市立図書館の開架図書室の壁を飾っています。 

Dscf556550年前、少年は煙をはくことを辞めた煙突や崩れかけた糸挽き工場や繭倉庫の群れを見ていました。 このまちで働き、生きてきた人たちのことを考えていました。 そして、これから生きてゆく自分のことを考えていました。

 

 

 Dscf5570_2

彼女は歌をうたってゐる
静かに無心で歌ってゐる
酔った頭の中で 喜びの反極から悲しみの反極へ振り子のやうにゆれる思ひが歌っている
そしてその歌は何時の間にか彼女の職場の糸挽き歌を歌ってゐるのであった
彼女の愛はその糸挽き歌であった   (同上)

 

 

Dscf5573前山フサ子はゆれる思いを持っていました。 歌うことのできる糸挽き歌を持っていました。 私は何を持っているのか…  歌える歌があるのか…

高校生の時に出会った詩を、50年経ってまた読んでいます。 同じまちに暮らしています。猫と一緒に…

 

Dscf5538<みなさん、ありがとうございました。 とんでもなく、おヒゲの私的なことにお付き合いいただいてしまって、すみませんでした。 しばらくこういうことはないと思いますけど、おヒゲのことですから、何か思い出すと、また何かはじめるかも知れません。いずれにしても、あんじゃあないんです>

 

 

 連れ戻し人形さんから知らせが届きました。おひげはもうすぐ戻ってきます。戻る前に佐久間川が終わって良かったです。

 

 

 直派若柳流の三代目若柳吉駒でございます。 4月7日に、二代目吉駒の三回忌追善と三代目吉駒襲名披露を兼ねて第76回美登利会を開催いたしましたところ、たくさんの皆さまにお運びいただき、大変ありがたく、心より御礼申し上げます。 また、三代目襲名リサイタルに特別出演していただいた三代目花柳寿楽様、葛西聖司様をはじめ、美登利会の開催に一方ならぬご支援をいただいた皆さま方に伏して御礼申し上げす。 来春の美登利会は、4月12日開催予定で準備を進めます。これからも、初代と二代目の遺志と教えをしっかり守って、一生懸命精進してまいりますので、末永くご贔屓いただきますよう伏してお願い申し上げます。

第76回美登利会と三代目吉駒襲名リサイタルの舞台の様子はコチラでご覧になれます。 お稽古場は前橋市城東町四丁目です。詳しくはコチラをご覧ください


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