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黛信彦の時事ブログ

浜矩子語録(45)一軒の飲み屋の福袋が・・・・

2009年02月22日 | 浜矩子語録
(危機に立つ世界経済 どうなる日本-07)
以下は2月18日、碧南商工会議所主催の新春経済講演会で、演題『危機に立つ世界経済 どうなる日本』を講演した、妖艶なエコノミスト・浜矩子の語録第七編である。
>>>○○●○<<< 内はoff-the-record

~・~・~
証券化というやり方の中に大きな合成の誤謬(ごびゅう)の落とし穴が潜んでいたわけですが、そのからくりを確認するためには、(この会場の)皆様に想像力を逞しくしていただかなければなりません。

ここに一軒の飲み屋があるとお考えください。何で、ここで突然飲み屋が出るか?>>> 別に中川昭一さんのために出すわけではないのでございますが、<<<これは、以って銘じとし、他山の石としますが、私は実は「履歴書に趣味とか特技を書いてください」と言われますと「こういうことを書くのはやめよう、不謹慎である」と思いつつ、ついつい正直に「私の趣味は大量飲酒でございます」というふうに書いてしまうのでございます。正確に言えば「多品種大量飲酒」なのでございますが>>>彼(中川氏)ほどではありません<<<
従いまして、ちょっと厄介な概念でありますとか分かりにくい問題について謎解きをしようとするときには、酒に絡んだイメージで考えると私はたちどころにそういうことが分かる。ということがありますものですから、ここにも飲み屋が登場するわけです。

この飲み屋さん、もっぱらツケでお客様に酒を飲ませることでお得意さんを増やしていくということで、これはこれで結構な商売繁盛なのでございますが、ちょっと困ったことが出てきた。
それは何かと言うとひとつには現金収入が全然ない。手元には請求書の控えばっかりが溜まってゆくということで、お得意さんがたくさんある、債権が溜まっているわけですから良いといえば良い訳ですが、やっぱり現金もないと困る。
しかも、請求書が溜まってゆくほど、その中の何枚かは貸し倒れになる危険性が伴って参ります。お客様の商売に何が起こるかわかりませんので焦げ付きが何枚かは出てくるのを覚悟しなければいけない。そういうリスクもだんだん出てきます。

現金は入ってこないわ、リスクは高まるわ、というのでこのまま行くわけにはゆかないので、ここで飲み屋さんが一計を案じます。何を思いついたか?
彼は、一枚の請求書を二枚に切り分ける。或いは複数枚の請求書を一枚にひとまとめにする。そういう操作で、丁度額面金額が同じくらいになる請求書の小束を、それぞれ一個ずつ袋詰めにしまして、請求書が入ったそれぞれの袋に「福袋」と書きますと、その福袋を世界中に売り出す。これがすなわち債権の証券化というやり方だと思っていただければよろしいのです

で、やってみると、請求書の福袋化というのは実に良いやり方なんですね。と申しますのも、福袋が売れれば福袋代金として必ず現金が入ってくるわけで、ここで請求書が現金に化ける。しかも、福袋を売ってしまえば、その福袋の中に入っている請求書に潜んでいる貸し倒れのリスクは、福袋を買った人に押し付けることができてしまったわけですから、自分の手元から貸し倒れのリスクが消えてなくなる。
現金は入ってくるわ、リスクは人に押し付けることができるわけですから、こんなに素晴らしい手法はないわけで、まるで魔法のごとく良い感じになってゆき、飲み屋さんは、ほくほくな訳です。

しかしながら、皆様はお気づきのように、ここには大きな落とし穴が隠れております。
確かに一軒の飲み屋さんにとっては素晴らしいやり方です。請求書の福袋化は絶対的に正解でございます。
しかしながら、町中の飲み屋さんが同じやり方をやり出したら、どういうことになるか?と言えば、何のことはない、町中を福袋が飛び交っているわけですから、結局のところはお互いにリスクを押し付け合っているだけのことで。
まさか、自分が請求書の福袋化をやりながら他人が出した福袋を飲み屋さんが買うということはしないだろう。しかしながら自分の、すごく良いお得意様が他の飲み屋さんが売り出した福袋を買っちゃっているかも知れません。その結果としてその人が、その福袋の中が不良債権ばかりで大損失を蒙ることになれば、その上得意のお客様は我が飲み屋に飲みに来てくれないわけですから、結局、自分のところにリスクが戻ってくることになる訳です。

かくして、一人にとって良いことは全員にとって良いことだとは限らない。
もっとも、この請求書を火星人に売りつけることができるのであれば、地球上からはリスクガ完全に消えてゆく、そこで合成の誤謬は解消でございますが、そういう手段は講じることはできない。我々は地球上で経済活動をせざるを得ないということになれば、大きなおおきな、合成の誤謬の落とし穴が存在するわけでございます。

ここに気がつかなかったところにアメリカの投資銀行たちの最大の盲点、こんな大きな落とし穴にどうして気がつかないのかと思いますが、これは「大暴走しているときにはそんなことには構っていられない」、これがまた怖いものだと思います。
いくらなんでも、こういう問題があるということに気がついている人が一切いなかったはずはない。「これはやばいな」と思っていた投資銀行家たちだって結構いたはずでございます。しかしながら、「分かっちゃいるけどやめられない」というのが、暴走が始まったときの怖いところでございます。

>>>「分かっちゃいるけどやめられない」というのは、中川さんが辞められないというのと同じような意味がありますが、それとはちょっと違う。<<<

投資銀行にせよ、ヘッジファンドにせよ、金融ビジネスをやっている人たちは皆お客さんがいるわけです。株主もいます。そういう意味で収益責任を負っている。
そういう中で、誰かが請求書の福袋を買うことですごく儲ける、発行することで儲ける、ということになりますと、やっぱり「うちも、やらなきゃまずいかな?」となる。特に株主さんから「あそこがやっているあのやり方を、なんで、お宅はやらないの?」と言われると、それはやっぱり弱いですよ。 
やっぱり、お客さんのために収益を上げなければならないとすると、「やばいかな?」と思っていても、そういうものに手を出さざるを得ない、いう形で、皆がそっちの方向に行ってしまう。
そういう群集力学というのがこういう場面で働きます。
~・~・~ 以下、次編

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1 コメント

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その福袋は、クレジットで買える (安藤伊代)
2009-05-11 01:10:40
その福袋を、クレジットで買う人がいるのなら

更なる膨張の増幅?

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