公開は2005年。
乱歩の中短編4編を映像化したオムニバス形式の作品です。
選ばれたのは、「火星の運河」、「鏡地獄」、「芋虫」、「蟲」。
四編とも原作は明智小五郎の登場しない作品ですが、この映画では、「鏡地獄」と「芋虫」に明智小五郎を出しています。4編すべてに出演している浅野忠信さんが、この2編では明智小五郎役。
あえて明智小五郎の登場しない作品を選んで明智小五郎を出す――ここが、この作品の重要なポイントでしょう。
といっても「芋虫」に関してはゲスト的な感じでちょっと出てくるだけで、本格的に明智小五郎が活動するのは「鏡地獄」のみですが……その「鏡地獄」は、じつに凄まじい一作に仕上がっています。
4編それぞれに別の人が監督をやってるんですが、「鏡地獄」の監督は実相寺昭雄。
初期ウルトラマンシリーズなどで知られる奇才です。ウルトラマンシリーズでは賛否あったわけですが、その異能がここでは存分に発揮されています。
明智小五郎が出てこない作品に明智小五郎を出しているのでストーリーはかなり改変されていますが――というより、まったく別の話になっているといっていいぐらいです――が、ここまで大胆に原作を改変しながら、それでいてしっかりと乱歩の地獄を描き切っているのがまずすごい。引用されている実朝の歌「世の中は鏡にうつる影にあれや有るにもあらず無きにもあらず」も効果的です。作品中のあちこちにこの歌を書いた色紙や掛け軸が出てきますが、これは「うつし世はゆめ、夜の夢こそまこと」という乱歩のテーゼと呼応しています。乱歩作品で重要な意味を持つ“鏡”のモチーフをいかし、新たな視点を提示してくれます。
斬新な解釈でありながら乱歩の世界を描き切っているということは他の3篇についてもいえるでしょうが、とりわけ3編めの「芋虫」には乱歩愛を感じます。
原作の「芋虫」は、非ミステリー作品としては、一、二を争う乱歩の代表作でしょう。私も、以前一度このブログで取り上げました。
この『乱歩地獄』における「芋虫」は、明智小五郎ばかりでなく怪人二十面相まで登場。さらに、平井太郎という人物も登場します。この「平井太郎」という名が江戸川乱歩の本名だというのは、乱歩ファンにはいうまでもないことでしょう。さらに、「屋根裏の散歩者」、『パノラマ島奇談』など、いくつもの乱歩作品を踏まえた内容となっています。乱歩ファンなら、一見の価値があるでしょう。ただ、痛い系の描写が苦手な人にはちょっときついかもしれませんが……