ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
『ホテル・カリフォルニアの殺人』(宝島社文庫)発売中です!

『昭和天皇は何を語ったのか~初公開“拝謁記”に迫る~』

2019-09-08 16:17:55 | 日記
NHKのETV特集『昭和天皇は何を語ったのか~初公開“拝謁記”に迫る~』を観ました。

初代宮内庁長官である田島道治が、1952年の独立記念式典で読まれる昭和天皇の「おことば」を練り上げていくまでの過程を描く、なかなか力の入ったドキュメントでした。

太平洋戦争についての「反省」を盛り込むかどうかということがポイントになっていましたが……ここは難しいところですね。

対米開戦に至るまでの経緯に触れて反省ということを盛り込めば、おさまっていた天皇退位論が再燃する可能性がある――当時の吉田茂首相がそう指摘します。その意を受けた田島は、“反省”のくだりを削除する方向に。

新憲法下では天皇は象徴なのだから、内閣の意に沿うべき。経済状態も良好なときだから、過去の反省ではなく前向きな内容にするべき……といったことがその根拠とされています。
しかし、これはどうなんでしょう。
戦後は象徴天皇であるにせよ、戦前は主権者であったわけで、そのことに関する「反省」を述べることが果たして“政治向き”の話として総理大臣の意に従わなければならないものなのか……
そして、経済状態が良いというのは、いうまでもなく朝鮮戦争特需によるもの。
好景気に沸く人々の映像が紹介されていましたが、それが隣の国で起きている戦争によるものだということを考えると、ちょっと釈然としないものもあります。

“反省”を盛り込まなかったという判断の是非はおそらく専門家の間でも意見がわかれるところなんでしょうが……
このドキュメントで私がもっとも注目したのは、張作霖爆殺事件に関するところです。
このとき、しっかりとした処分をしておけば、後の満州事変は起きなかったんではないか……という。
これは重要なポイントだと思います。
やりとりのなかでは「下克上」と表現されていましたが、軍部が上層部のいうことを聞かずに勝手に暴走し、止められなくなるというこの状態が、結局は「事志と違」う戦争というところまで行きつくわけです。

この構図は、関東軍のことだけではなく、彼らと連動して動いていた日本国内の勢力についてもいえることでしょう。

三月事件、十月事件、五・一五事件、士官学校事件……これらの事件で、それを起こした者たちに対するきっちりとした処罰が行われなかった。そのことが、どんどん彼らの行動をエスカレートさせ、もう誰にも止められない状況を作ってしまいました。

特に、三月事件が重要でした。

このときにしっかりとした処罰を行なっていれば、その後の十月事件はもちろんのこと、五・一五事件や二・二六事件、満州事変さえも起きずにすんでいたのではないかと思うんです。
しかし、三月事件は、クーデター計画であるにもかかわらず、いずれも適切な処断がなされずうやむやに終わってしまいました。
軍の内部のかなり上の方にまで関係者がいたため、処罰すれば軍全体に問題が広がってしまうことをおそれて、うやむやに終わらせたといわれています。
この計画については、陸軍大臣までが事前に知っていたといいます。ゆえに、責任を問えば陸軍大臣にまでそれが及ぶ。だから、何もなかったことにしてしまおうというわけです。組織の末端から上にいたるまでの全体の問題であるにもかかわらず――いや、であるがゆえに誰も責任をとらないという驚くべき事態です。
それが結果として、クーデターのようなことを計画しても大丈夫、だというメッセージを彼らに与えてしまいます。むしろ上層部を巻き込んで大事にすればするほど、誰もそれを止められなくなる。これが、後に同種の事件が頻発することにつながっていきました。
今回の『拝謁記』のドキュメントにも登場した木戸幸一は、この事件を「軍の推進力が国内改革を目指して動き出した第一歩」とし、「下克上の顕著な現はれ」と評しています。

体制の内部から国家の根幹を揺るがすような動きがあったら、芽のうちに摘みとっておかなければならないということでしょう。

ところがその点に関して、当時の日本の権力は、まったくトンチンカンでした。
実際に革命を起こす力など持っていない共産党なんかを弾圧する一方で、体制の内部に潜んでいる本当の脅威はほとんど野放しにされていたのです。
その結果、日本は破滅に突き進んでいってしまいました。
その歴史を鑑みれば、やはり「おことば」のなかに“反省”を入れていたほうがよかったんじゃないかと思わずにいられません。
「俺らのやってることをとがめだてしたら組織もお前自身も大変なことになるぞ」といって、権力者が自分たちのトンデモ行動をうやむやにしてしまう戦前の無責任体質が、どうもこの国にはまだしぶとく根付いているようなので……


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。