ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
『ホテル・カリフォルニアの殺人』(宝島社文庫)発売中です!

『ゴジラVSモスラ』

2020-07-09 20:13:19 | 映画


今回は、映画記事です。

またしばらく中断していましたが、ひさびさにゴジラシリーズに戻って、シリーズ第19作目の『ゴジラ対モスラ』について書こうと思います。

 
公開は、1992年。
第二シリーズのなかでいうと、ちょうどまん中の四作目にあたります。
例によって、東宝の公式YouTubeチャンネルから予告の動画を貼り付けておきましょう。


【公式】「ゴジラVSモスラ」予告 モスラの宿敵怪獣バトラも登場するゴジラシリーズの第19作目。

前々作の新怪獣ビオランテがいまひとつだったことから、実績のある怪獣を出していくという路線に転換したんでしょうか……第二期シリーズで、キングギドラに次いで登場したのは、モスラでした。
モスラは、ゴジラシリーズにおける花形怪獣の一つで、ゴジラをのぞけばもっとも多く登場した怪獣でもあります。
キングギドラほどの派手さはありませんが、モスラが登場するときには、しばしば環境問題がテーマになるという、そういう社会派的側面をもった怪獣です。

本作はまさにそれで、環境問題というテーマが扱われています。
ゴジラ第二シリーズでは“文明への懐疑”がたびたびモチーフになっていますが、そのモチーフにモスラほどうってつけの怪獣はいません。
最近このブログでは3DCGをやってますが、その一環として、モスラ幼虫を blender で作ってみました。(背景の建物はPoserの素材)



動画も作ってみました。
短い動画ですが、これまでのblender 動画から一歩進んで、アーマチュアを使用した本格的なアニメーションに挑戦しています。



このへんで、『ゴジラVSモスラ』に話を戻しましょう。

この映画には、「地球自体が一個の生命体である」というガイア理論の影響がうかがえます。
コスモスの一族は、かつて高度な文明を築いていたのですが、気象コントロール装置を作ったことによって地球生命の怒りを買います。そして、“黒いモスラ”であるバトラの攻撃を受けました。



これは、バトラ(幼虫)のフィギュアです。こちらはCGではありません。おそらく、劇場公開時に来場者に配布されたものだったと思います。ただ、なにしろ30年近く前のものなので、いくつかパーツが紛失しています。本来は、もう少しゴテゴテしているはずです。

バトラは、地球生命を脅かすものを攻撃し排除する怪獣です。
その使命にしたがい、文明に奢ったコスモスたちをバトラは攻撃。
モスラが応戦したことで封印されるのですが、バトラはその過程で気象コントロール装置を破壊。地球は大洪水に見舞われ、コスモスの一族は一部を残して滅びてしまったのです。
この洪水の物語には、あきらかにノアの洪水のイメージがあります。
またそれは、昨今の地球温暖化による海面上昇や異常気象という問題を先取りしているようでもあり……まさに、モスラ登場映画の面目躍如といったところでしょう。この当時象徴として語られていた洪水が、30年近く経ったいまではもう現実のものとなりつつあるのかもしれません。
現代に甦ったバトラは人類を攻撃しますが、それはすなわち、人類文明が地球生命にとっての脅威となっているということにほかならないのです。

この作品の問題提起は、自然環境問題だけにとどまりません。

たとえば、作中に登場する商社“丸友”は、モスラやコスモスを金儲けの道具に使おうとし、それがモスラの日本襲来を引き起こします。また、その過程では、主人公がコスモスを売り飛ばそうとするというエピソードも。
カネがすべてなのか……この筋立てには、そういうメッセージも込められています。それは、バブル経済とその崩壊を背景にしているかもしれません。


さらには、当時の政治に対するメッセージがあるともいわれています。

コスモスを追って日本にやってきたモスラ幼虫は、国会議事堂に繭をつくります。
国会につくられた繭から成虫モスラが羽化するするシーンは、政治に対するメッセージともいわれます。リクルート事件で政治改革が声高に叫ばれた時期です。腐敗した政治が生まれ変わるという希望を、モスラの羽化に託したのではないかと。


こういうゴジラを観たいんです。
そのメッセージ性が前面に出すぎて登場人物の言動がちょっと不自然にみえるような箇所もあるんですが……しかし、この素朴なメッセージ性が、あの時代にマッチしていたとも思います。

それはおそらく、観衆の多くがそうだったんじゃないか。
結果、『ゴジラ対モスラ』は、第二期シリーズ最高の成績をあげました。また、『シン・ゴジラ』に抜かれるまでは、平成年間のゴジラ作品で最高でもありました。


ストーリーに話を戻すと、国会に繭をつくったモスラは、ただちに羽化し、上陸してきたゴジラと戦います。
この作品におけるモスラは、かつてのモスラよりかなりパワーアップ。以前は、羽根をはばたかせて風を吹き付けるという頼りない攻撃をしていましたが、今回は触覚からビームを出せるようになっています。また、必殺技である毒鱗粉攻撃は、それを使ったら自分も死ぬという最終手段だったんですが、今作のモスラはそうではありません。しかも、その鱗粉でゴジラの火炎放射を乱反射させるなんてことまでできます。

そうしてモスラがゴジラと戦っていると、そこへ、バトラも登場。三つ巴の戦いが展開されます。

決戦の舞台は、横浜の「みなとみらい21」。
そのときどきのホットな場所を舞台にするというゴジラ伝統の趣向です。伝統にしたがって、みなとみらいのシンボルである大観覧車も破壊されます。
ちなみに、この観覧車についている時計が昨年の台風の影響で故障してしまったそうですが……
まさに今起きている豪雨災害を見るにつけても、いよいよ地球生命の怒りは現実のものになってきているようです。

“地球の怒り”という点でいえば、あるいは疫病もそうかもしれません。
新型コロナがどうかはわかりませんが、新たに出現する感染症は、人間が自然の領域を侵したために解き放たれてしまうというのが一つのパターンとしてあります。先日紹介した映画『感染列島』に出てくる“ブレイム”ウィルスも、そうでした。自然の領域を侵す人類への責め苦(blame)――そういう意味で、新興感染症は地球の怒りともとらえられるのです。

しかし、地球生命を脅かす側に、その自覚はありません。
「地球が怒ってるんです」という部下の安藤に、丸友商事の社長(大竹まこと)は「頭どうかしたのか、お前」といいます。
これは、グレタ・トゥンベリさんに自称“現実主義者”の大人たちがとる態度と重なって見えます。
「どうかしてるのはあなたのほうです」
と、安藤は言い返します。
地球環境の急激な悪化に目を向けず、いま目先の利益だけを考える……そんな“現実主義者”こそが、もっとも現実を見ていないのではないか。最近いわれている“資本主義リアリズム”の虚構が、ここにすでに描かれているのです。

そんなことを考えると、『ゴジラVSモスラ』は、まさに預言です。

その“預言”が現実となるまでの30年間、人類はいったいなにをしてきたのか……映画のラストで地球を守るために飛び立つモスラの姿に、そう問わずにはいられません。




最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。