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ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
『ホテル・カリフォルニアの殺人』(宝島社文庫)発売中です!

『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話 ~制作の現場~

2017-10-20 15:49:15 | 『ホテル・カリフォルニアの殺人』
『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話シリーズの4回目です。

前回は、『ホテル・カリフォルニア』を書くにいたった経緯について書きました。
今回は、実際執筆していた時のことを書こうと思います。

といっても、特にものすごいことをしてるわけではありません。

私はよく音楽を聴きながら小説を書いてます。
その作品にあったアーティストの曲や、iTunes でその作品用に作ったプレイリストを流しながら書きます。『ホテル・カリフォルニア』の場合は、イーグルスや、ジャクソン・ブラウンをはじめとしたウェストコースト系のアーティストが多かったです。

BGMは大事です。

その作品にとりかかるムードを作り上げてくれます。
もっとも、大事なのは最初で、本当に筆が乗ってくると、音楽はほとんど頭に入ってきません。あとでプレイリストをみて、「あれ、この曲さっき聴いたっけ? 聴いた記憶がないんだけど……」となるような状態が理想です。


あと、私の制作スタイルで変わったところがあるとすれば、順番通りに書かないというところですかね。

ほかの人がどういうふうにしているのかはよくわかりませんが、私ははじめから終わりまで順番どおりに書くという書き方はしていません。

冒頭部分とかラストシーンとか特に時間をかけるべきところは、じっくり熟考する時間がとれるときに書きます。そうでないときには、とりあえず書きやすいところを書いていくという感じです。

プロットも、そこまで綿密には作りこみません。
もちろん大枠はありますが、最初に設計図をきっちり作って書くというタイプではないんです。

そうする理由は、一つには、プロットに縛られたくないということです。

書いている途中に、ここはこうしたほうがいいな、こういうやりかたもあるな、と思いつくことはよくあります。そんなときには、柔軟に変更できるようにしておきたいんです。

私の作品は「奇抜なトリック」が一つのアピールポイントだと自分では思っていますが、その奇抜な発想を支えているのは、制作過程の柔軟さです。
『ホテル・カリフォルニアの殺人』も、メイントリックはともかくとして、それ以外のあれやこれやは普通にプロットを作って書いていたら出てこなかったアイディアだと思います。その奇抜さに関しては、それなりに自負があります。読んだ方がそれを「面白い」と思ってくれるか、「リアリティがない」と一蹴するかという問題はあるんですが……まあ、そこは好みの問題でどうしようもないことです。


ここで、実際制作に用いていたメモ帳の画像をお見せしましょう。



こうして制作裏話なんてやってるので、その当時の資料か何か残っていないかと探してみたところ、これが出てきました。



これは、小説として書く文章の下書きのようなものです。
電車に乗っているときや外出先でノートパソコンを出せないような場所でも、少しでも執筆を進めたい……そんなときには、こういうふうにメモ帳に走り書きして、後でパソコンで清書します。
画像にあるのは、第二の殺人が発生した直後の場面ですね。



こちらは、タスクリスト。
作品が完成に近づいていくると、気づいた問題点や、ブラッシュアップが必要な部分をリストアップしていきます。そのリストにもとづいて、最後の仕上げを行うわけです。
画像は半分で切れていますが、下半分はネタバレになるおそれがあるためカットさせていただきました。



いかがでしょう。

制作現場の生々しい感じが伝わったでしょうか。

こんな感じで、『ホテル・カリフォルニア』は書かれました。

今回はここまでで、次回は『ホテル・カリフォルニア』応募までの経緯を、実際の執筆とはまた別の視点から振り返りたいと思います。

『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話 ~そして、ホテル・カリフォルニアへ~

2017-10-12 16:52:23 | 『ホテル・カリフォルニアの殺人』
今回は、『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話シリーズです。

これまでは、トミーのシリーズについて書いてきましたが、ここからいよいよ『ホテル・カリフォルニアの殺人』の話に入っていきましょう。

話は、『天国への階段』を応募した横溝正史賞の締め切りである2012年の11月ごろにさかのぼります。


投稿者に休息はない、と以前の記事で書きましたが、この頃の私は、一つの作品を投稿したら、もうその日のうちに次の作品にとりかかる、場合によっては、複数の作品を並行して書き進めるようになっていました。


横溝賞への応募を終えた時点で、翌年の乱歩賞むけの作品が制作途中であり、時間的にいって、翌年の『このミス』むけの作品のネタも考えておくべき時でした。
『このミス』大賞は、私がはじめて一次選考を通過して本格的に小説投稿に取り組むきっかけになった賞であり、特別な存在だったのです。一次選考を通過した年から、毎年応募しており、きたるべき2013年の第12回にも当然挑戦する予定でした。そこで、そのためのネタを考え始めたのです。

さて、どんな話にしようか……

そのときクローズアップされたのが、トミーでした。

応募したばかりの『天国への階段』は、書いている段階でそれなりの手ごたえを感じていました。そこで、このトミーという人物をシリーズ化したらいいんじゃないか、という考えが出てきたのです。

次の作品は、そのための一つの実験でもありました。

その実験とは……制作の順序をまるっきり逆にすること。

『天国への階段』はトリックが先にあり、それをレッド・ツェッペリンにつなげていきましたが、今度は逆に、アーティストから考えようということです。

かつてカールスモーキー石井さんが「歌を作るときに詞と曲のどっちを先に作る?」と問われて「振り付けから」と答えていましたが、そんな感じです。題材になるアーティストから構想する、というのは、普通ちょっとないでしょう。

その実験に選ばれたのが、イーグルスでした。

条件は、まず大物であることです。
誰もが知っている、あるいは、知らなくても曲を聞いたことはある……そんなレジェンド級のアーティストが望ましい。
かつ、それをネタにしてミステリーが書けるようなアーティスト。
また、私自身が気に入っているアーティストであるほうがいいでしょう。
トミーは創作されたキャラクターであり、彼の音楽的志向は私のそれとは必ずしも一致しないので、別に私が気に入らないアーティストでもかまわないのですが、しかし、私自身の好みにあっていたほうがいいのはいうまでもありません。

こうなると、かなり候補はしぼられてきます。
あれこれと考えていて出てきたのが、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」でした。

ホテル・カリフォルニアというホテルで事件が起きる。
これでいこう。
こうして、基本方針が決定されます。

では、事件とはどんな事件か?
もちろん、ミステリーだから殺人事件だ。そして、密室がいい。ホテルなんだから、密室殺人もやりやすいにちがいない。

舞台はどこか?
ホテル・カリフォルニアといってるんだから、カリフォルニアだろう。そういえばたしか、カリフォルニアのあたりには大きな砂漠があった。その砂漠に建っているホテルにすればいい。

そして、重要なルール。
最終的な解決は、タイトルに掲げられている曲によってなされなければならない。
ということは、この作品では「ホテル・カリフォルニア」という曲で謎を解かなければならない。

そこに使われている音楽的な技法、その曲にまつわるエピソード、などなど……

なぜそんな馬鹿げたルールを課すのかと思われるかもしれませんが、ここに、私が投稿生活の中で見出した一つの方法論があります。

それは、「自分に無茶ぶりをする」ということです。

自分自身に対して、「そんな無茶な」という発注をするのです。
鬼発注を受けたほうの自分は、必死でどうにかしようと考えます。そもそもつながるはずがないことを、なんとかしてつなげようとします。その結果として、トリッキーな方法が出てくるのです。
私の経験上、そんなふうにしてできた作品は、自分自身の手ごたえがあり、通過成績もよいのでした。

それれまでは、偶然にそういう状況ができていました。
作品の設定上いろんな制約ができ、その制約によって、無茶ぶりが自然発生し、それが結果としてプラスに働いていたように感じます。
しかし、偶然に頼っていてはいけない。
それを、意図して起こせるようにする必要がある。
トミーシリーズにおける実験は、「自分への無茶ぶり」を意図的に作り出すことでもあったのです。


今回のミッションはこうです。

ホテル・カリフォルニアの一室で、密室状態で人が死んでいる。
この状況を説明し、かつ「ホテル・カリフォルニア」という歌を手がかりにして謎が解けるトリックを考えろ。

鬼発注を受けた私は、必死に考えました。
そして出てきたのが、あのトリックです。

こうして大まかな枠組みができあがり、トミーの実験作が走り始めます。

では、具体的にどのような書き方をしているのか……その点については、また次回書きたいと思います。

『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話 ~トミーの帰還~

2017-10-07 15:15:51 | 『ホテル・カリフォルニアの殺人』
今回の記事は、拙著『ホテル・カリフォルニアの殺人』の制作裏話シリーズです。

前回は、トミーこと富井仁のプロトタイプについて書きました。
二回目は、トミーが今の設定で初登場した作品について書きたいと思います。

その作品については、小説投稿の世界に身を置いている人は、ひょっとしたら知っているかもしれません。
以前書いた通り、私は横溝正史ミステリ大賞の最終候補になったことがあるのですが、実は、その作品こそが、現行のトミーシリーズ第一作となる作品なのです。

タイトルは、『天国への階段』。

その題名からわかるとおり、この作品はレッド・ツェッペリンの「天国への階段」をモチーフにしています。トミー・シリーズは、作品のタイトルを楽曲の曲名からとるというスタイルになっていて、(『ホテル・カリフォルニアの殺人』も、応募時のタイトルは『ホテル・カリフォルニア』でした)この作品もそうなっているわけです。

この作品は、まずトリックを先に考えました。

密室殺人を扱っているのですが、密室のトリックを考え、それが一番生きる舞台設定を考えたところ、「階段」に行きついたのです。
そこから「天国への階段」を連想。
だったら、ロックをモチーフにして謎を解く男……あのトミーを主人公にすればいいんじゃないか。

こうして、トミーは復活しました。

ただし、新たな作品を書くにあたって、設定は大幅に変更されました。
年齢は20歳ぐらいで、インディーズで活躍する天才的なギタリスト。音楽に関してはめちゃくちゃ詳しく真摯だけれど、それ以外のことでは非常識でルーズ……そんなキャラクターです。

この作品は、選考レースをうまく勝ち上がってくれて、先述したとおり、横溝賞で最終候補に残りました。

私にとって、はじめての最終候補作でした。

選考の日までの日数をカウントダウンし、選考会の当日は、公園のベンチに座って、じっと連絡が来るのを待っていました。

しかし、受賞はならず……

さすがに、しばしへこみました。

ですが、小説投稿者に休息はありません。
その直後に、『ホテル・カリフォルニア』を書き上げて『このミス』大賞に応募することになります。
その経緯については、また、次回書こうと思います。

『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話 ~ロック探偵はいかにして誕生したか~

2017-09-28 18:45:59 | 『ホテル・カリフォルニアの殺人』
これまで、拙著『ホテル・カリフォルニアの殺人』の内容紹介をしてきました。
しかし、あらすじに関しては、大まかなことはもう書きました。
これ以上書くと、ネタバレになってしまいます。

なので、ここからは、『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話的なことを書いていこうと思います。番宣といえば、メイキングも定番ですからね。

まずは、主人公であるトミーこと富井仁というキャラクターがいかにして生まれたかということについて。

トミーという名が、The Who のロックオペラ“TOMMY”からとられていることは、『ホテル・カリフォルニアの殺人』についている川出正樹さんの解説でもあきらかにされているとおりですが、実はトミーは、この作品で初めて出てきたのではありません。

トミーの登場作品は、私のいわゆる「自分内シリーズ」になっているのです。

トミーがはじめて出てきたのは、いまからもう7年ほども前に書いた作品でした。
その時ある新人賞に出すためにミステリー作品を書いていて、そこでトミーが探偵役として初登場しました。“音楽を手がかりにして謎を解くロック探偵”という発想自体はもっと前からありましたが、それが具体的に形をとったのです。

そのときは、ジョン・レノンの「イマジン」をモチーフにした作品でした。
音楽を手がかりにして謎を解くという趣向は同じで、章立てを「一章」「二章」……とせずに Track.1、Track.2 ……として、それぞれに題材となっているアーティストの曲名を使うというスタイルも、このときからありました。

しかしながら、そのときのトミーは、いわばプロトタイプのようなもので、『ホテル~』に出てくるトミーとはかなり設定が違っていました。

まず、年齢が30代の後半で、いわゆるアラフォー。
若いころにプロミュージシャンを目指していたものの、その夢がかなわず、それでもあきらめきれずに、その日暮らしをしていたところを、伝説的なロックミュージシャンとたまたま知り合いローディになった……という人物でした。

ちなみに、ローディというのは、ミュージシャンの楽器などを管理するマネージャーのような職業です。プロゴルファーにとってのキャディのようなものと思ってもらえればいいでしょうか。その点からしても、後のトミーとはだいぶ違います。

また、あろうことか、そのときのトミーには下の名前がありませんでした。
作品全編をとおして、一度も下の名前が出てこないのです。周りからはたいてい「トミー」としか呼ばれないので話の進行において支障はないのですが、しかし、いくらなんでもフルネームがわからないのは問題があるだろうという話ですね。

また、作中のトミーはアフロヘアという設定もありました。
これは、彼が仕えている大物ミュージシャンというのが忌野清志郎をモデルとしていることに関係があります。キヨシローがマネージャー(だったと思います)のパッとしない髪形をみて、「こうなったら俺がなんとかしてやる」といってアフロヘアにしたという逸話があって、それをもとにして、トミーもアフロヘアにされてしまったのでした。イメージとしては、下図のような感じです。



結果として、その作品は、受賞とはなりませんでした。
途中経過を確認していない(これもありえない話ですが、その当時の私は「受賞しないなら一次も二次も関係ない!」と思っていました)ので通過成績もわからないのですが、まあおそらく一次選考も通っていないでしょう。
「これはもう受賞間違いなしだろ!」と思って投稿した(応募者は、たいてい誰でもいつもでそう思ってるものです。たぶん)作品があえなく撃沈……以来、トミーというキャラクターもしばし封印されることになります。
では、そんな彼がいかにして復活するにいたったか――それについては、次回書きたいと思います。

『ホテル・カリフォルニアの殺人』あらすじ・その4 第二の殺人 

2017-09-17 19:39:15 | 『ホテル・カリフォルニアの殺人』
これまでの数回、イーグルスの曲を紹介してきましたが、今回は、拙著『ホテル・カリフォルニアの殺人』の内容をテレビドラマの番宣ふうに紹介していくシリーズに戻りたいと思います。
そもそも、このブログはプロモーション用という位置づけなもんで……


4回目となる今回は、後半に発生する第二の殺人についてです。


それは、一件目の殺人が起きてから2日目の夜のことでした。

眠っていたトミーは、真夜中に物音で目を覚まします。

闇の奥から、誰かの声が聞こえたのです。
そして、それに続いて、アメリカ先住民の伝統音楽であるバードソングが……

トミーは、殺人事件発生と時を同じくして行方不明になっているアメリカ先住民ベンのことを想起します。

ベンがここに戻ってきているのか?

しかし、窓の外を見ても、そこには誰もいません。また、砂の上の風紋には、誰かがいた形跡もみられません。

不審に思ったトミーは、二人の刑事にそのことを報告することにしました。


それからちょっとした騒動があって、トミーと刑事たち、そしてその他大勢が、ホテルの中央ホールに集まってきます。

そこで、事件が起きました。

突然の雷鳴とともに、稲光がひらめきます。

そして、その光のなかに、無気味なシルエットが浮かび上がったのです。
それは、馬に乗って剣を掲げる人の姿でした。




その直後、中央ホールに悲鳴が響き渡ります。

……いやな予感がするぜ

刑事のボガートが、つぶやきます。
そうして、あたりを調べようとしたそのとき……

天井近くにある高窓が割れて、そこから何かが落ちてきました。
それは、ホールの床に激しく叩きつけられ、女たちの間から悲鳴があがります。

畜生、一体なんだってんだ……


トミーとボガートは、近寄って検分します。

するとそれは……イザベラの死体でした。

歌い手たちのナンバー2であるイザベラは、その体に数本の短剣を突き立てられた状態で、絶命していたのです。


この第二の殺人には、奇妙な点がいくつかありました。

あの、無気味な影はなんだったのか?

そもそも、このホテル・カリフォルニアに馬などいません。
それに、どうやってあの場所まで行ったのかという問題もあります。
中央ホールの屋根は、はしごなど設置されておらず、そう簡単に行ける場所ではないのです。



殺害現場が屋根の上ではないという可能性もありますが、仮にそうだとした場合、おそらくイザベラは塔で殺害されたということになります。ならば、塔のほうに血痕が残っているはずですが、そのような痕跡もありません。

では、この殺人はいったいどのように行われたのか……?

その答えは、例によって、拙著『ホテル・カリフォルニアの殺人』をお読みになってください。
なにしろ、番宣ですから。