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ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
『ホテル・カリフォルニアの殺人』(宝島社文庫)発売中です!

『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話 ~トミーの復活~

2017-11-25 22:33:23 | 『ホテル・カリフォルニアの殺人』
今回は、『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話シリーズです。

長々と書いてきましたが、いよいよ、これで最終回になります。

以前も書いたとおり、トミーシリーズをいったん封印して修業の日々を送っていた私は、相も変わらず、投稿するためのいくつかの作品を書いていました。トミー復活も視野に入れ、いよいよ今度こそ受賞に向けて攻勢をかけようとしているところでした。

そんな折に、『このミス』大賞を主催する宝島社の編集の方から、連絡がありました。
数年前に最終候補になっていた『ホテル・カリフォルニア』が、“超隠し玉”という企画の候補にあがっているというのです。

降ってわいたような話です。
願ってもない幸運……と思いました。

ただ、これは『このミス』大賞15周年記念の企画という性質のものなので、ちゃんと賞をとってデビューしたほうがいいと思うなら、この話を受けるかどうかはよく考えたほうがいいという助言もいただきました。

それで、私も考えました。

結論は、イエスでした。

私の投稿生活も、もうかなり長くなっていました。

はじめて一次選考を通過した時には、なんの根拠もなく「4年以内にはデビューする」なんて思ってたんですが、現実にはその時期をかなりオーバーしていました。この辺でそろそろ、何らかの成果が欲しいという焦りもありました。

で、かつての応募作が『ホテル・カリフォルニアの殺人』と改題されて、刊行されることとなったわけです。

出版にいたるまでの作業は、もちろん未知の領域でした。

編集の方とは、一回だけ福岡に来ていただきお会いしましたが、それ以外はメールと郵便でのやりとりでした。

作中に使われている図は、私がラフな下書きをして、それをデザイナーの方に図版化していただきました。

解説は、川出正樹さんに書いていただき、また、文庫の帯には千街晶之さんのお言葉もいただきました。

そして、表紙のイラストは、田中寛崇さんに描いていただきました。

こうして、多くの方々のご支援をいただき、『ホテル・カリフォルニアの殺人』は、今年の8月に発売となったのです。


この決断が妥当なものだったかは、今はまだわかりません。
しかしともかくも、私はこの道を選びました。

それが間違いじゃなかったと後でいえるように、今は必死に進み続けるだけです。
そして、できうれば、今後も進み続けたい……

というところで、この制作裏話シリーズを終えたいと思います。

今後とも、どうぞごひいきにお願いします。

『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話 ~トミーの旅は続く~

2017-11-17 15:55:46 | 『ホテル・カリフォルニアの殺人』


今回は、『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話・番外編の続きです。

前回“超隠し玉”の打診を受けたところまで書きましたが、その話を進める前に、もうちょっとだけ寄り道して、文学フリマのことを書こうと思います。

以前このブログで書いたように、私は福岡の文学フリマにも出品していたのですが、その出品作は、トミーシリーズだったのです。

文学フリマに出す本は、手作りです。
費用のことを考えると、それほどページを増やすわけにはいきません。そこで、短編を収録した作品とすることにしました。
長編がアルバムとすれば、シングルのような感じです。

で、何を書くか。

これも以前書いたように、その時点におけるトミーシリーズの既成作品には、連作短編集がありました。そのなかの一つを利用することにしました。

その連作短編集、すなわち、メフィストに応募した『トミーはロック探偵』では、次の6つの曲を取りあげていました。

・ストーン・ローゼズ「メイド・オブ・ストーン」(The Stone Roses, Made of Stone)
・ビーチ・ボーイズ「素敵じゃないか」(The Beach Boys, Woudn't It Be Nice)
・マディ・ウォーターズ「ローリン・ストーン」(Muddy Waters, Rollin' Stone)
・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド「黒い天使の死の歌」(Velvet Underground, Black Angel's Death Song)
・ニルヴァーナ「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」(Nirvana, Smells like Teen Spirit)
・ビートルズ「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」(The Beatles, Strawberry Fields Forever)


そのなかの一つである「素敵じゃないか」を、いうなればシングルカットという形で収録しました。

しかしながら、既成の作品だけでは芸がない。そこで、この企画のための書き下ろし短編も書きました。
そのタイトルは、「朝日のあたる家」。
トラディショナルソングですが、作中ではアニマルズの曲として紹介されています。

この二つの作品を収録した小冊子として、出品されました。


そして翌年の文フリ福岡にも、私は出品しました。

このときは、2作とも書き下ろしでした。

一つは、トミーシリーズで、「雨を見たかい」。
いうまでもなく、CCRの曲がモチーフです。

そしてもう一つは、トミーではなく、私のなかでもう一つ別のシリーズになっている作品でした。


……というわけで、トミーシリーズには、これまで挙げてきたような作品があります。
それらを、私もいつか発表したいと思っています。

これらの作品が気になって読んでみたいという方は、宝島社に手紙を送って、トミーシリーズの作品が読みたいんだとアピールすると、そのうち発表されることもあるかもしれませんよ(笑)


『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話・番外編2 ~修行の日々~

2017-11-10 15:52:45 | 『ホテル・カリフォルニアの殺人』
今回は、『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話、番外編の続きです。

前回は、ファイナルに進出しながらも勝ちきれないというところから、トミーがいったん封印されたということについて書きました。

これは、投稿者という立場からすると、かなり大きな決断でした。

プロトタイプを別にすれば、トミーシリーズは応募した作品が100%ファイナルに進出しています。
いうなれば、鉄板ネタです。
その鉄板ネタをあえて封印するのは、それなりに勇気のいることでした。
しかし、レベルアップのためにはそういう滝に打たれて修業のような思い切ったことが必要だ、と考えたのでした。

この期間は、それなりに意義があったとは思います。

作品を作っていく際の月単位での時間配分や、一日のなかでのペース配分、最後のブラッシュアップを効率化する工夫などを考え、それまでに比べて平均的な通過成績はよくなりました。一次落ちということも減りました(それでも時に一次落ちはありましたが……)。

また、一人称ではなく、三人称の作品でそれなりに成績を出せるようになったのも、収穫でした。

たとえば、『ヘリオス・フォーリング』という作品は、このミス大賞で最終候補に残りました。トミーシリーズでない作品で初のファイナル進出でした。
それから、すばる文学賞で一次通過ということもありました(この作品は、本名ではなくペンネームでの応募)。一次どまりだったとはいえ、ミステリー以外のジャンルで通過成績を残せたことも、自信につながりました。

しかしやはり、受賞というところにはいたりませんでした。

そこで私も、そろそろまたトミーに登板してもらおうかと考え始めました。


封印期間の間に、自分の技量も多少は上がったろう。それを活かして鉄板ネタであるトミーシリーズ作品を書けば、今度こそいけるんじゃないか……
バトルものの漫画でよくある、ものすごい重量のプロテクターをつけて戦っていた主人公が「ふっ……いよいよこいつを外す時がきたか」「なにっ……そんなものをつけて戦っていたというのかっ……!?」「さあ、ここからが本当の勝負だぜ!」みたいな感じです。

そうして、ほかのいくつかの作品と並行する形で、トミーの新作が構想されていました。

予定されていたのは、ローリング・ストーンズをとりあげた作品です。

タイトルは、ズバリ『悪魔を憐れむ歌』。

例によって、ストーンズの曲をちりばめながら展開していくミステリーです。
この作品を書き上げて、3月から5月にかけてのミステリー系新人賞〆切ラッシュのどこかに合わせていこうと考えていました。

そしてそんなさなかに……“超隠し玉”企画の打診を受けたのです。

そこからの話は、また別の機会に書きたいと思います。

『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話・番外編 ~メフィストへの挑戦~

2017-11-04 17:11:48 | 『ホテル・カリフォルニアの殺人』
今回は、『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話シリーズの番外編です。

前回は、『ホテル・カリフォルニア』がこのミス大賞で最終候補に残ったものの落選した……というところまで書きました。

その後の話ですが、じつは、トミーシリーズはもう一つ別の賞に応募されています。

その賞とは、メフィスト賞です。

メフィスト賞……ご存知でしょうか?

『メフィスト』という雑誌があり、そこで募集されているものです。

いろいろと特殊な賞で、受賞する作品もまた、個性的なものが多いイメージがあります。

初期の4回の受賞作を並べてみただけでも、それははっきりわかるでしょう。

森博嗣さんの『すべてがFになる』は、画期的な密室トリック。清涼院流水さんの『コズミック』は、破天荒で物議をかもす密室トリック。蘇部健一さんの『6枚のとんかつ』は、いろんなコードのすれすれのところをいく連作ユーモアミステリー。乾くるみさんの『Jの神話』は、驚愕の展開に開いた口がふさがらないサスペンス……
その後も、高田崇史さん、霧舎巧さん、西尾維新さん、舞城王太郎さんなど、とにもかくにも強力な個性をもつ作家を輩出してきた賞です。

この賞に、トミーは挑戦しました。
そのタイトルは、『トミーはロック探偵』。
これまでとは趣向を変え、連作短編集となっていました。
(ちなみに、メフィスト賞では「自分内シリーズはNG」ということがずっと前からいわれていたのですが、これを書いていた時点では私はそのことを知りませんでした)

その結果は……
まあ、そこからデビューはしてないわけですから、あきらかですね。
落選でした。

しかし、座談会までは行くことができました。
座談会というのは、選考でいくつかにしぼられた作品をメフィスト編集部の方々が論評するというもので、ほかの賞でいう最終選考にあたります(初期のレイアウトから、“上段”とも呼ばれます)。
一般的な賞の最終選考に比べれば倍率はややゆるいですが、ともかくトミーはそこに残りました。横溝賞、『このミス』大賞に続いて、ファイナルに進出できたのです。

その座談会が掲載されているメフィストです。
太文字で書かれているところだけみると結構評価されてる感じですが、実際はそうでもありません。







2年ほどの間で3つの賞でファイナルステージに残ったというのは、それまで箸にも棒にもかからないという状態だった私にとっては、大きな躍進でした。自信にもなりました。

しかしながら、落選は落選です。

いったい、何がいけないのか……私も、そこを真剣に考え始めました。

そして、一つの結論として、トミーはふたたび封印されることになりました。

いったんトミーは封印し、自分のフィールドを広げてみよう。
そうすれば、新しい何かを発見できるかもしれないし、いずれまたトミー作品を書くときにもそれを活かせるはずだ……そういう方針です。

その封印期間中に、“超隠し玉”の話が出てくることになるのですが……それについては、また別の機会に書きたいと思います。

『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話 ~応募締切前の日々~

2017-10-28 20:17:21 | 『ホテル・カリフォルニアの殺人』
『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話シリーズの記事です。

今回は、『ホテル・カリフォルニア』をこのミス大賞に応募した経緯を、前回とはちがう観点で振り借りたいと思います。

以前も書いた通り、そのころの私は、一つの作品を応募したら、もうその日から次の作品にとりかかっている、というふうになっていました。


『ホテル・カリフォルニア』についても、そうです。

横溝賞のウェブサイトからオンラインで応募したのは、締め切り当日である11月5日の深夜。
それから、もう『ホテル・カリフォルニア』にとりかかっていました。

この時間関係が、私の中でちょっとしたひっかかりを生むことになります。

横溝賞の一次選考結果が発表されたのは、翌年の一月。そして、その後最終に残ったという連絡がきます。
そんな横溝賞の選考過程と並行するかたちで、『ホテル・カリフォルニア』は書かれていました。
そのため、ある時点から「ひょっとすると、この作品を応募する前に横溝賞を受賞してデビューすることになるかもしれない」という状況が生じたのです。

投稿者としては、これはかなり微妙な状態です。

ひょっとしたら、この作品はシリーズものの2作目、3作目として発表することになるかもしれない、という考えが一方にあります。その一方で、横溝賞が落選となったら、これを『このミス』に送ることになる……というわけです。その両にらみの状態で、制作が進んでいました。

その回の横溝賞は、結果発表が5月の半ば頃。
『このミス』大賞の締め切りが5月末ですから、かなりぎりぎりまで両にらみの状態が続いていたわけです。

もちろん、基本的には落選の方向で考えます。
落選したら、すぐに『このミス』に出す。もし受賞できたら、その後ゆっくり時間をかけて続編となるように修正すればいい……これが、この場合のもっとも合理的な戦略でしょう。

しかしながら、それはあくまでも合理性の話であって、心情的にはなかなかそうもいきません。

やはり、ああしたい、こうしたい、ということがあります。

細かい部分では、この部分はどうするか……と、どうしても決定しきれない部分が出てきてしまうのです。

そういった部分は、とりあえず後回しにしておいて、横溝賞の結果が出てから確定させるという形になりました。

どうにかこうにか完成させ、5月31日に応募しました。
私はほとんどの場合、締め切りの最後の最後まで時間をかけます。投稿の世界では、締め切りの1日前に出したほうがいいとか1か月前に出したほうがいいといったようなことも言われますが、その時間の余裕があるなら、少しでも作品をブラッシュアップさせるのに使ったほうがいいというのが私の考えです。

……といいつつも、じつは、『ホテル・カリフォルニア』に関しては、応募した時点では正直あまり自信がありませんでした。
ぎりぎりまで推敲を重ねてはいましたが、これで大丈夫なんだろうか……という懸念のほうが大きかったのです。

ですが、これは重要なことだと思います。

私の経験上、応募するときに自信満々というのはあまりよいことではありません。
もちろん、実際にパーフェクトな作品で自信満々ということもあるでしょうが、多くの場合は、単に自分の作品の欠点に気づいていないだけなのではないでしょうか。
応募する段階では「あそこがちょっと弱いな」とか、「あの部分は問題視されるかもしれないな」とか思っているほうがいいと思います。それは、自分の作品をそれだけ客観視できているということですし、また、そういう細かい部分に注意がいくぐらい何度も見直しているということを意味しているからです。

以前トミーシリーズのプロトタイプについて書いたときに、応募時に自信満々だったと書きましたが、その作品はあえなく落選しました。それから3年経ち、ようやく私も自作の瑕疵に目を向けられるレベルに達したのだと思います。それだからこそ、『ホテル・カリフォルニア』も最終候補まで残ることができたのでしょう。

もっとも、結局最終選考で落選ということになったわけですが……

その後の展開に関しては、また次回書こうと思います。