国際医療について考える

国際協力という分野に興味を持つ人たちとの情報共有、かつ国際協力に関する自分としてのより良いありかたについて考える場所。

渡航後の皮膚疾患

2011-02-02 | Travel Medicine 概論
皮膚疾患

渡航後の受診者25,000人のうち皮膚病変に関する相談は、発熱、下痢についで3番目に多く[N Engl J Med. 2006;354(2):119-30]、全体の18%を占める[Int J Infect Dis. 2008;12(6):593-602.]。
内訳としては、幼虫皮膚跛行症(9.8%)、虫刺症(8.2%)、皮膚潰瘍(7.7%)、虫刺症の合併(6.8%)、アレルギー性皮疹(5.5%)。デング熱、リーシュマニア症はそれぞれ、5.5%, 3.3%だった。


虫刺症

性感染症:
梅毒、淋病、HIVで皮疹を認めることがある。
haemophilus ducreyi感染による軟性下疳では、感染部に有痛性の潰瘍性病変を生じる。
梅毒第1期の硬性下疳( chancre )では無痛性硬結を生じる。


住血吸虫(swimmer's itch)
水に接触していた(セルカリアが皮膚から侵入した)部分に限局して、痒みを伴う紅斑を認め(10/28人との報告ありClin Infect Dis. 1995;20(2):280-5.)、水疱や蕁麻疹様になることもある。通常、水と接触のあった数時間から1日後にみられる。
長期間経過した後に、異所性に虫卵が堆積して丘疹性病変を生じることがある。

海辺での発疹(seabather’s eruption):
シンブルクラゲ (Linuche unguiculata)、寄生性イソギンチャク(Edwardsiella lineata)等による刺症。
皮膚は炎症性に丘疹状で、通常、水疱性や膿疱性となる。

入浴後の毛嚢炎(hot tub folliculitis)
緑膿菌に汚染された浴槽、スイミングプール、すべり台との接触によって、掻痒感を伴う斑状丘疹、小水疱膿疱性皮疹が48時間以内に生じる。

皮膚リーシュマニア症:
サシチョウバエ(sandfly)によって媒介される
皮膚型、皮膚粘膜型、瀰漫性皮膚型がある
皮膚型は丘疹から結節を生じるが、やがて痂皮化した中心部が脱落して無痛性の潰瘍性病変となり、病変境界部が膨隆する。
Leishmania brasiliensisではリンパ管炎を伴うことがある
内蔵型リーシュマニア症においても瀰漫性の結節性病変が生じる(post kala-asar dermal leishmaniasis)ことがある。

皮膚跛行症:
ヒトを固有宿主としないブラジル鉤虫、イヌ鉤虫等の鉤虫症により生じる
その他、顎口虫、旋尾線虫、イヌ糸状虫、マンソン孤虫が主な原因寄生虫となる

その他の寄生虫感染症:
エキノコックス症、イヌ糸状虫症、嚢虫症(有鈎条虫の幼虫感染)、トキソカラ症では皮膚に結節性病変を認めることがある。
オンコセルカ症は掻痒感のある皮疹を生じることが多いが、現地の住民では結節病変を生じることがある。
バンクロフト糸状虫症では、リンパ節炎、精巣炎、精巣上体炎を伴ったリンパ管炎がみられるが、短期間の滞在では稀である。
ロア糸状虫症はCalabar swellingとして知られる限局性の血管性浮腫の原因となる。

アフリカトリパナソーマ(アフリカ嗜眠病):
通常(70-90%)、Chancreと呼ばれる硬結を伴った結節病変ツェツェバエに刺された場所に認める。
皮疹は環状の紅斑性病変で体幹部に多く、遅れて出現することもある

デング熱等のウイルス感染:
A diffuse maculopapular rash(斑状丘疹性発疹)がデング熱の30-50%に出現、日焼けに似た瀰漫性紅斑は発症初期にみられる。

リケッチア症:
痂皮(eschar)から瀰漫性の所見まで様々
典型的な紅斑熱(spotted fever)の皮膚所見では斑状発疹、斑状丘疹性発疹、点状出血を認める
水痘と似た小水疱性の発疹がRickettsia conorii, R. akari, R. australisで報告されている
恙虫病(scrub typhus)では瀰漫性の発疹が30-60%に見られる。

真菌感染症:
コクシジオイデス症の半数以上(62%)で皮膚所見を認める。
通常、体幹部、手掌、足底、頬粘膜に丘疹性発疹を認め、斑状丘疹性発疹に変わる
スポロトリクム症、ノカルジア症はリンパ管炎の原因となる

細菌感染症:
Mycobacterium marinum、野兎病ではリンパ管炎を生じることがある
Anthrax (炭疽菌)では無痛性の丘疹を生じ、やがて潰瘍性病変となる
その他、膿皮症、野兎病、抗酸菌感染症(ブルーリ潰瘍等)でも潰瘍性病変を生じる
鼠径部肉芽腫では無痛性の潰瘍性病変を生じることがある
レプトスピラ症では紅斑結節様の皮疹を生じることがある

Myiasis (蠅蛆症)


鑑別:
悪性腫瘍(有棘細胞癌、基底細胞癌)
リンパ腫
免疫不全者の外傷

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 渡航後の患者がマラリアであ... | トップ | NDM-1 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Travel Medicine 概論」カテゴリの最新記事