おもしろいやつだな。一度話をしてみるか。セムドが帰った後、アシメックはそう思いながら、家を出た。冬の澄んだ空が広がっている。最近やたらと、空を見る。何か不穏な空気が、村を覆っているような気がするのだ。その中で、ネオの話は妙に明るいことのような気がした。これは何かのきざしだと感じる。何のきざしだろう。
アシメックはその足で、セムドに聞いていたモラの家の前に行ってみた。突然訪ねるわけにもいかないので、外から様子を見ようと思い、しばらく家を観察していた。粗末で小さな家だ。話によると、モラという女はまだ母親と一緒に暮らしているという。兄弟はひとりいるが、まだ小さい。親は干した木の実から腹の薬を作る仕事をしている。モラはそれを手伝っている。小さい家で、家族だけでも狭いのに、ネオが転がり込んできて困っているという。
「だがそう小さくもないな。ひとりくらいはなんとかなりそうじゃないか」
アシメックは家を見ながら思った。
しばらくすると、どこからともなく細い子供が現れ、いそいそと家に入っていった。近くでアシメックが見ていることにも気づかない。手には銀色の魚を持っていた。ほう、あれがネオか、とアシメックはうなずいた。
まだ子供だが、大人のように鋭い目をしていた。十二歳になったばかりだという。それくらいならまだ親の家を離れるのは早い。だがネオは女の家に入っていくのに、まるで我が家に入っていくかのように、挨拶も遠慮もしなかった。
普通、男が女の家に入る時は、かなりおびえるものだが。もう遠い昔になってしまったが、この自分も女の家に忍んでいくときは、周りで誰かが見ていないかときょろきょろしたものだった。だがネオにはなんの迷いもない。
家の中から、ネオと女が話す声が漏れ聞こえたが、何を言っているかはわからなかった。しかし女が魚をよろこんでいるらしいことはわかった。それなりになんとかなっているようだ。アシメックはひとつ息をつくと、自分の家に戻った。