オラブは目を疑いつつも、その女がいるところに向かって、ふらふらと歩いた。だが女はすぐに身を隠した。
なんでだろう。なんであの女は、あんなにきれいなんだ。女だっていうだけで、なんであんなにきれいなんだ。
オラブは何かにとりつかれたように歩きながら、思った。梢を透く光が、だんだん濃くなってくる。風が吹き始めた。森の木々が、何かを感じたように、ざわめいた。だがオラブには何もわからない。
さっき女が見えた木のところに来ると、オラブは何かやわらかいものを踏んだ。見ると足元に、チエねずみの死骸がある。オラブはすぐにそれを拾った。まだ少し暖かい。死んで間もないやつだろう。これなら食える。オラブはほくそ笑みながら、洞窟に戻った。女のことはもう忘れていた。
洞窟の奥に座り、オラブはネズミを食った。皮を裂き、血をすすった。血はもう冷えていたが、うまかった。ネズミの肉も筋も骨も、存分に噛んだ。その姿を誰かが見れば、なんと哀れなことだと思ったことだろう。だが暗闇の中にいるオラブには何もわからない。何も見えない。
洞窟の中に、腐ったネズミの匂いが漂っていることにも、彼は気付かないのだ。
食えないしっぽを捨てて、食事は終わった。頭蓋骨をしゃぶりながら、オラブはまだ満足しない腹を撫でていた。慢性的な空腹に、胃が痛むが、それを何とかする気にもならない。馬鹿になっていればいいのだ。忘れればいいのだ。何もかも。
時間はまるで巨大な黒い芋虫のようだ。
のろのろと進む。
ぼんやりとしているうちに、また夜になった。
風の音が静かになり、冷気がまた洞窟の中に入ってきた。
激しい腹痛を覚えたのは、眠りかけた時だ。