goo blog サービス終了のお知らせ 

世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

テコラ誕生①

2018-05-20 04:12:52 | 風紋


冬が来て、最初の雪が舞いはじめたころ、その事件は起こった。

ケセン川で、漁場をめぐって、カシワナ族の漁師とヤルスベ族の漁師が争ったのだ。

協定で、カシワナ族の漁場と決まっているはずの漁場で、ヤルスベ族の漁師が漁をしたのである。それを見てカシワナ族の漁師が怒ったのだ。

殴り合いのケンカになる前に、冷静なやつがみんなをとめたが、険悪な雰囲気が流れた。ヤルスベの漁師は一旦は引き下がったが、また同じところで漁をしてやるというような目をしていた。

「オラブの件が響いている」
報告に来たダヴィルがアシメックに言った。アシメックはあごを撫でながら難しい顔をした。

そばではコルがソミナと一緒に、小さな木の実の独楽で遊んでいる。アシメックは自分の家の中にいた。ダヴィルは目を細めながらアシメックの渋い横顔を見つめていた。

「不穏だな。あれからお詫びには何度か行ったんだが」
「女はびっこをひいているそうだな」
「ああ、怪我が完全に治らなかったらしい」
「まずいな」

アシメックは深いため息をついた。コルは板の上で回る独楽を見てはしゃいでいる。ソミナはそんなコルを嬉し気に見ながらも、時々兄の難しそうな顔を心配してみていた。

「ミコルの占いによると、オラブはもう死んでるとさ」
アシメックが言うと、ダヴィルは、「そうだろうな」と言った。最近オラブの被害がとんと起きないからだ。村人の間にも、オラブが死んだのではないかといううわさが流れ始めていた。




  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする