冬が来て、最初の雪が舞いはじめたころ、その事件は起こった。
ケセン川で、漁場をめぐって、カシワナ族の漁師とヤルスベ族の漁師が争ったのだ。
協定で、カシワナ族の漁場と決まっているはずの漁場で、ヤルスベ族の漁師が漁をしたのである。それを見てカシワナ族の漁師が怒ったのだ。
殴り合いのケンカになる前に、冷静なやつがみんなをとめたが、険悪な雰囲気が流れた。ヤルスベの漁師は一旦は引き下がったが、また同じところで漁をしてやるというような目をしていた。
「オラブの件が響いている」
報告に来たダヴィルがアシメックに言った。アシメックはあごを撫でながら難しい顔をした。
そばではコルがソミナと一緒に、小さな木の実の独楽で遊んでいる。アシメックは自分の家の中にいた。ダヴィルは目を細めながらアシメックの渋い横顔を見つめていた。
「不穏だな。あれからお詫びには何度か行ったんだが」
「女はびっこをひいているそうだな」
「ああ、怪我が完全に治らなかったらしい」
「まずいな」
アシメックは深いため息をついた。コルは板の上で回る独楽を見てはしゃいでいる。ソミナはそんなコルを嬉し気に見ながらも、時々兄の難しそうな顔を心配してみていた。
「ミコルの占いによると、オラブはもう死んでるとさ」
アシメックが言うと、ダヴィルは、「そうだろうな」と言った。最近オラブの被害がとんと起きないからだ。村人の間にも、オラブが死んだのではないかといううわさが流れ始めていた。