人から物を盗むために、ありとあらゆる知恵を、オラブは身につけていた。村のみんながいいものを隠している場所が、だいたいどこらへんなのかということも、ほとんど知っていた。レンドは一番いいものを、家の西側の物入れの中に隠す。ジタカはいつも、栗を皮袋に入れて寝床のそばに隠すが、時々場所を変える。そんなことをすぐにオラブは見抜いた。
頭がいいと言えばいいと言えるかもしれない。遠いところにあるものを、くっきりと見ることもできた。だからあの日、遠いところから見たアロンダが、見たこともないような美しい女であることも、すぐにわかったのだ。
なんであんなものがいるんだろう。アロンダのことを思い出すたびに、オラブの胸の中で虫のようなものがうずく。美しくなりたいなどと思ったことはないはずだった。女なんてみんなブスに見えた。自分よりきれいで大きな男はたくさんいたが、そんなやつらもみんな嫌な目で見れば、嫌なものに見えた。馬鹿なやつらなんだ。正直に働いたって、みんなおれにとられるのに。
こんな世界にあるものになど、惚れるほどいいものはないのだ。オラブはそう思っていた。
それなのになぜあれだけはあんなにきれいに見えるのか。男女の交渉をしたいんじゃないんだ。そんなこととっくに馬鹿だと思ってる。あんなことのためになんで男がいいことをしなければならないんだ。それなのに、あの女のことだけが忘れられない。
美しいものって、何なのだ。なぜおれは、いつも、あれを見たいと思ってるんだろう。