この前も、ヤルスベの岸にアロンダに似た女を見つけたので、思わず彼は岸に上ってしまった。よく見ると、それはアロンダではなかった。アロンダなら、悲鳴もあげないで逃げるだけだが、その女は、オラブを見るなり、素っ頓狂な叫び声をあげて、逃げ出した。
まずい、と思ったオラブは女を追いかけた。
村の方から男の声がしたので、すぐに川に戻って逃げたから、オラブはその女が、恐怖のあまり木に登り、高い枝から落ちて足を折ったことは知らない。とにかく彼は、逃げることだけは誰よりもすばやかった。
誰に知られることなくカシワナ側の岸につくと、至聖所の裏に回り、暗い抜け道を通り、アルカ山の自分のねぐらに戻った。村人は誰も知るまい。イタカを通らずに、アルカ山にゆける道があることを。こんなことも、至聖所の裏を通ってはならないという村の決まりを破ったから、知れることなのだ。
神の教えなんか守っていたら、絶対にわからないことを、オラブは知っていた。
ネズミの血がうまいことも。境界の岩を超えたところに、こんないい洞窟があることも。