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中国の脅威とLNGタンカー

2020-06-20 10:29:37 | 中国
 中国の貯えた豊富な『金(外貨)』、『工業技術/経験』および『理工系の人材』、そして『専制国家』のメリットを本気で動員したら、他国の企業は全くなすすべが有りません。 今回は、その一例として『LNGタンカー』について書きます。

【韓国がLNGタンカーを100隻受注】
 2020年6月にカタールの国営会社(カタール・ペトロリアム)が、韓国の造船3社とLNGタンカー・100隻(約2兆600億円)発注する契約を結びました。

 カタールは2020年4月に中国の滬東中華造船に、LNGタンカー・16隻(オプション分8隻を含む)発注しました。 中国で現在、LNGタンカーが建造出来るのは滬東中華造船・一社だけで、カタールの追加発注分に超安い価格が提示出来なかったと思われます。 中国は、今回の韓国の受注にショックだった様です。

【世界のLNGタンカーのメーカー】
 1980年代には、日本はLNGタンカーの分野では強かったのです。日本はモス式でしたが、韓国はフランスから技術導入してメンブレン方式のLNGタンカーを建造し始めて、1990年代からは韓国が世界を制した状態になりました。 現在の主なLNGタンカーのメーカーを書いておきます。

① 韓国 :現代重工業、大宇造船海洋、サムスン重工業
② 中国 :滬東中華造船
③ 日本 :川崎重工業、今治造船と三菱重工のグループ

 韓国は国を挙げて、2004年から韓国式LNGタンカーの開発に取り組み、『KC-1』を開発して、国内から2隻受注しました。問題が発生して、まだ外国に売れる状態にはなっていない様です。

 中国は、滬東中華造船を移設/拡充する計画と、他の造船2社でもLNGタンカーが建造出来る様に検討中の様です。 人材を投入してLNGタンカーの改良設計に取り組む様です。何としても、LNGタンカーの分野における韓国の地位を奪ってやると決断したと思われます。 (中国がLNGタンカーを建造し始めた頃には、GTT社の基本特許は期限切れだったと思われます。GTT社の技術をベースにして、中国はLNGタンカーの設計をしたと思われます。従って、韓国の様にロイヤリティをGTT社に払う必要が有りません。)

 日本は、IHIがSPB(角型タンク)方式を開発し、ジャパン マリンユナイテッド(株)が2013年に国内から2隻受注しました。 川重は、LNGタンカーを国内で建造するのは断念した様で、今後は中国の大連中遠海運川崎船舶工程(DACKS)で建造する計画の様です。

【天然ガスの輸送】
 天然ガス(NG)とは、天然の炭化水素ガスのことで、メタン(CH4)やエタン(C2H6)が主成分です。常温ではガスの状態です。

 天然ガスの世界最大の輸出国であるロシアから、ヨーロッパ、トルコ、中国に太いパイプラインが数ルート開通しており、ガスの状態で輸送されています。(2018年)

 世界第二位の輸出国はカタールで、天然ガスを冷却→液化してLNGタンカーで日本、中国、韓国に運んでいます。 世界一位の輸入国は日本です。(2018年)

 天然ガスを液化して運ぶためには、輸出国は高価な液化設備が、輸入国では気化設備が必要です。 従って、トータル輸送コストはパイプライン方式の方が安価になると思われます。 「新しいパイプラインが多数設置されて、LNGタンカーの需要は減少する」と私は予想しています。

(ご参考) 世界一の生産国はアメリカで、二位はロシア、三位はイラン、四位がカタール、五位は中国です。 アメリカは殆どを自国で消費しており、近年は日本にLNG船で送ってきています。中国は大産出国ですが、国内消費量が多いいので、ロシアやカタールから輸入しています。

【LNGタンカーは難しい】
 種々の船が建造されていますが、LNGタンカーは技術的に非常に難しい船です。主成分がメタンですから、貯蔵タンクの温度をメタンの沸点(-161.5℃)以下に保つ工夫/技術が必要です。

 現在建造されているLNGタンカーは球形タンク方式とメンブレン方式の2種類です。球形タンクのLNGタンカーは、甲板上に球形タンクの一部が突出しているので直ぐに分かります。(私の家から時々見掛けます。) モス(MOSS)式と呼ばています。一時期、新造船の殆どはMOSS式でしたが、タンクに亀裂が発生する事故が有り、それ以来少なくなってきました。 (私の怪しい記憶ですが、「ノールウェーのMOSSと言う造船会社が考案した方式だった?」と思います。)

 韓国の造船会社が採用しているメンブレン方式の技術は、フランスのエンジニアリング会社で有るガストランスポート&テクニガス社(GTT社)から導入しています。販売価格の5%をロイヤリティとして支払う契約の様です。

【LNGタンカーの教訓】
 国民には余り知らされていませんが、日本は種々の国立研究所などを経由して民間企業に、チマチマ開発費の支援を行っています。それが、族議員の活躍の場になり、弊害も出ています。(族議員は絶滅させる必要が有ります。)

 日本の今後の競争相手は専制国家の中国です。 中国が”ある分野”に国を挙げて取り組んだら、世界一の大企業でも一社では対抗出来ません。 日本は工業製品を輸出して、食糧や燃料/原材料を輸入しなければならない国です。 重要な工業を守るためには、開発費の一部を国が支援し、民主主義諸国と協調して中国と向き合う必要が有ります。

 私はgooブログで「現在・既に第四次産業革命が始まっている」と何回も書き/警告しました。 資源の無い日本の政治家には、第四次産業革命の知識が不可欠です。 「日本の政治家が勉強して/目覚めてくれたら、第四次産業革命に乗り遅れる事は無い」と私は思います。

 与野党を問わず、日本の政治家には理工系の知識が不可欠になってきています。 コロナの問題で支援金を配布するのに、日本の政治家と官僚がIT(情報技術)に関する知識を持っていない事が明確になりました。日本の民間企業ではITを取り入れています。然し、中央官庁、地方公共団体のデジタル化は危機的状態ですから(非常に遅れているので)、真剣に、急いで取り組む必要が有ります。

・・・・・≪ 思い出話し ≫・・・・・
【カタール】
 1975年頃に私が務めていた会社が、カタールから製鉄所一式を受注しました。当時、私はガスタービンの仕事をしていたのですが、「製鉄所が受注出来たら『非常用ガスタービン発電装置』を使ってやる」、「但し、製鉄所の見積作業を手伝え」と言われました。 砂漠の真ん中に工場を建設する計画でしたので、種々の新しい工夫が必要だったのです。

 先ず私が取り組んだのは『砂嵐』対策でした。現地に出張した社員に『砂漠の砂』を多量に持って帰ってもらって、砂の分析から始めました。 日本工業規格(JIS)に砂の規格が有ります。 鳥取砂丘の砂からは想像できない、細かな砂で、屋内を正圧(外より高い圧力)にしないと、アルミサッシを閉めても砂が侵入する事が分かりました。

 製鉄所の色々な所で空気が必要です。砂嵐が発生した時に、砂を除去する必要が有りますが、余りにも多量に砂が含まれているので、普通のフィルターでは直ぐに目詰まりしてしまいます。

 私は某社が製造していた『一次フィルター』を改良する事にしました。空気を100取り入れるとします。遠心分離の技術を応用して、空気10に砂の90%以上を含ませて大気に放出する様にしました。 残りの空気90を二次、三次フィルターに送って、砂をほぼ完全に除去しました。 大成功でしたが、実験は大変でした。 細かい砂が多量に舞う実験場で、データを採取したので、大変だったのです。

 屋外に設置する鉄構造物の塗装を検討する様に言われたのですが、これはギブアップしました。どんな塗装をしても、一回の砂嵐で風が当たる面の塗装は剥げてしまいます。 重要な機械の塗装をする前に、表面の錆等々を除去するために砂などを吹き付ける『サンドブラスト』を想像して見て下さい。

 屋外の力の掛からない物は樹脂製にする事になり、私は強力な直射日光に耐えられる樹脂の調査を命じられました。 「ビール瓶ケースに使用されている樹脂が良い」と聞いたので、ケースを山積みにした所に出張して調べました。 ケースに製造年月日が印刷されていたので、経年劣化の状態が確認出来ました。10年くらいでは、殆ど劣化していませんでした。

 「カタールの太陽は想像出来無いほど強烈だ」と言うので、「次の出張時に屋外に鉄板を置いて、卵焼きが出来るか試して」と依頼してみました。 卵焼きが出来たそうです。

 約束の通りガスタービン発電装置を使ってもらいました。私の最初の輸出案件でした。 現地での作業を最小限にする工夫を種々やりました。予算が少なかったので、私が一番信頼していた機械仕上工に電気/制御のポイントを教えて、一人で現地据付/調整/引き渡し検査をしてもらいました。(通常は、機械担当と制御担当の二人派遣していました。) 万一の場合に備えて私はパスポートを取得しました。

 結局問題は発生せず、私はカタールに出張出来無かったのです。 予定より10日ほど早く引き渡しが完了したので、機械仕上工は東南アジアで一週間ほど観光旅行を楽しみました。 「行方不明になった」と会社で大問題になって、私が大目玉を食らいました。 (彼は逆玉の輿だったので、自費で優雅な観光をしたのです。)

・・・・・≪ 豆知識 ≫・・・・・
【燃料ガスの種類】
 私達が燃料として使用しているガスには①都市ガスと②LPガスの二種類が有ります。都市ガスは『天然ガス』で、メタンガスが主成分です。

 家庭で使用されるLPG(LPガス)は、プロパン(C3H8)が主成分で、工業用はブタン(C4H10)が主成分です。 日本語では液化石油ガスで、石油精製で得られる製品の一つです。 LPGボンベの中では液体です。

(余談) 使い捨てライターには液体のプロパンが入っていると思われます。プロパンの沸点は『-40. 09℃』です。沸点とは液体が1気圧(1,013hPa)の時に沸騰する温度のことです。水が1気圧で沸騰する温度を『100℃』と定め、凍る温度(凝固点)を「0℃」と決められました。 液体を密閉容器に入れて加熱すると、内部の圧力が上昇します。使い捨てライターには「50℃以上は避けて下さい」との警告が書かれています。 50℃に加熱すると、ライターの内部の圧量は20kg/cm2(2MPa)程になります。

 国内を走っているタクシーの殆どは、ガソリン税が掛からないLPガスです。 タクシー会社の一部ではLPGのタンクを所有しています。個人タクシーなどはガソリンスタンドで補給しますが、全国でLPGを取り扱っているスタンドは1,900か所ほどしか無い様です。 (昔、姫路の近くから名古屋港まで重い測定機器を持って出張する時、二、三回タクシーを利用した事が有ります。 契約しているスタンド以外で補給すると赤字になると言って、何時も途中で降ろされ、別のタクシーに乗り換えさせられました。)

 メタンガスが主成分の都市ガスは空気より軽いので、ガス漏れすると部屋の上部に溜まります。プロパンもブタンも空気より重いので、LPガスが漏れると部屋の下(床)に溜まります、 ガス感知器はガスが溜まる位置に設ける必要が有ります。

(余談) 昔の都市ガス(6Bガス)は石炭から製造されました。成分は水素(H2:50%)、メタン(CH4:30%)と一酸化炭素(CO:8%)でした。毒性の非常に強い一酸化炭素が多量に含まれていたのです。 (6Bガスでは自殺出来ますが、現在の都市ガスでは出来ません。)

(余談) 豊洲市場は、昔の東京ガスの豊洲工場の跡地に建設されました。 6Bガスを製造する工場だったのです。 1980年頃に、私は機械を買って頂いたので十回ほど出張しました。 その10年前(1970年頃)に東京ガス・袖ヶ浦LNG基地が稼働していましたが、都心部は長く 6Bガスが使用され続きました。


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