これ!どう思います?

マスコミがあまり報道しない様な問題を、私なりに考えてみます。

音と騒音 (その4)

2021-03-06 12:32:26 | 
【はじめに】
 今回が、『音と騒音』についての最終稿です。

 4年程前に技術屋を卒業して、別の人生を送ろうと決心しました。 自宅で保管していた専門書と論文を全て処分したのです。 それらの資料が有ったら、もう少しは良い内容になったと思います。 記憶を頼りにして書きました。

 私が学生だった1960代の後半には、振動や騒音を研究している大学の先生は非常に少なかったと思います。 私は、振動と騒音について、大学では殆ど勉強しませんでした。入社して直ぐに、振動と騒音を研究していた先輩と親しくなって、騒音について勉強を始めました。当時、日本には本格的に騒音に関する研究をしている方は、10人ほどしかいませんでした。 その後・この分野の研究者がドンドン増えて、学研的な研究だけで無く、実用的な研究も盛んに行われています。

 音と騒音について書こうと思い立ったのは、私が管理している賃貸マンションの住人から、騒音のクレームが来た為でした。 あれから、2か月ほど経ちましたが何も言って来ません。「慣れてくれたか!?」と安心しています。

【弦楽器の音】
 ギターやバイオリンなどの弦楽器で音が出るメカニズムの詳細は『ギターで音の出るしくみ』( https://pub.nikkan.co.jp/uploads/book/pdf_file54cf01004edc1.pdf )で検索して見て下さい。分かり易く解説されています。

 弦楽器には響胴が必ず付いています。 弦が振動して音の元を出しますが、弦の音は小さく迫力が有りません。 弦の振動が響胴に伝わり、響胴を構成する『板』が振動して、大きな音を発生しています。

 ピアノも弦楽器の一種ですから、板(響板など)が振動して音を大きくしていると思われます。 我が家のピアノはアップライトピアノですが、妻は『屋根』の上に重い物を置きます。『屋根』も音を出しているのでは? そうだったら、耳の良い方が聞いたら、音が悪くなっているのでは?と思います。

 ギターやバイオリンの響胴の表側には、穴が開いています。 人間は口から音を出すので、 「ギターやバイオリンも響胴内部で空気が振動して、穴から大きな音を出している」と誤解される方がおられます。 間違いです! 穴の役目は、響胴の表と裏の板の固有振動数を違える事です。

(余談) 弦楽器を所有されていたら、面白い実験が出来るでしょう! 響板に重い物を載せたり、くっ付けると音が変わると思われます。 響板が罅割れても音が変わると思います。弦を緩めたらどうなるか?

【ポンプの音】
 ポンプには色々なタイプが有り、それぞれに特徴(長所/欠点)が有ります。私は10種類以上のポンプを選定して、装置に組み込みました。 ポンプが出す騒音が問題になった事もあります。

 運転中のポンプの近くに立っても、殆どのケースでは騒音は小さいです。 問題になるのは配管と液体を伝わる音です。 配管を振動させたり、タンクで音を発生させたりします。 単に配管が振動する時は、配管の固定位置を増やしたら、多くのケースで振動が収まります。 (配管の固有振動数を変えた事になります。)

 最悪の場合は消音器とジャバラ管を、配管の途中に挿入する必要が有ります。 液体を伝わる音(振動)を消音器で、配管を伝わる振動を(消音器の前後に)ジャバラ管を接続して低下させます。 私は『音と騒音(その2)』の【位相と逆位相】に述べた様に、逆位相音を発生させる消音器を設計した事が有ります。

【無響室と残響室】
 壁や天井などで音が反射しない様に工夫した部屋を『無響室』、逆に反射率を高くしたのを『残響室』と呼びます。 私の会社には、大きなコンクリート造の建物を仕切って無響室と残響室が設けられていました。 何回か、そこで実験した事があります。

 無響室の中は、文字通りの「静寂の世界」です。 人類が生きて来た世界には、無響室の様な静寂は存在しません。 人間の脳は、人類が経験したことが無い環境では異常になる様です。  私は、長くいると気分が悪くなってしまいまし。「吐き気がする」と言う人もいました。 反射音が殆ど無いので、対面して話すか、耳元で話すか、でないと会話出来ませんでした。 私達の日常生活では、反射音は極めて重要なのです!

 映画館とコンサートホールでは、音響の面で設計思想が違います。 コンサートホールは音が適度に響く様に、映画館の方は役者のセリフを聞き取り易くするために残響を抑えているのです。コンサートホールの壁や天井を可動式にして、一部を簡単に取り替えられる様に作ったら、指揮者、演奏者や歌手の好みに合う様に反響率を調節する事が出来ると思います。

 そんなホールでクラシックの曲を演奏したら、指揮者は恍惚の世界に入って指揮棒を振ると思われます。 きっと、素晴らしい演奏が出来るでしょう!

【音の計測機器の進歩】
 私は、1972年頃から振動や騒音の計測を始めました。 出張して測定するケースが多かったので、マイクロフォン(マイク)、振動ピックアップ(振動センサー)、(オープンリール)テープレコーダーを持ってい行きました。重かったのですが、時々・オシロスコープも持参しました。

 帰社後に高速フーリエ変換器(FFTアナライザー)で、どんな周波数の振動や音が発生していたのか分析しました。

 会社にはFFTアナライザーが1台だけ有りました。独身者用の150リットルの冷蔵庫ほどの大きさでした。 丈夫なキャスターが付いていたので、ポータブル・タイプ(?)と言っていました。重かったので車に乗せる時は苦労しました。 価格は大卒新入社員の100カ月分ほどしたと記憶しています。 (現在は、20万円ほどで・手で持ち運べる高性能なFFTが購入出来ます。)

(余談 :音の計測器の歴史) 波形を表示するオシロスコープは、1837年にドイツ人のブラウンが発明しました。(テレビに使用されていたブラウン管は、彼の名前に因んで命名されました。) その後、オシロスコープは進歩して、現在では、パソコンに入れるソフトが発売されています。 Windows10用のフリーソフト(無料ソフト)も有る様です。

 音や振動の研究/検討に不可欠なFFTアナライザイー(高速フーリエ変換器 :FFT)は1965年頃から販売される様になりました。 ドンドン進歩して、小型化/軽量化し、価格も低下しました。

 機械/部品の固有振動数の計測が必要な事があります。 機械に加速度センサーを取り付けて、インパルスハンマーから出ているコードをFFTに接続します。 ハンマーを叩くと、「今叩いた!」と言う信号が出て、FFTが計測を始める仕組みになっています。1970年頃のFFTには学習機能が無かったので、計測者が叩く強さを一定になる様に練習をする必要が有りました。 結構熟練が必要で、難しかったです。

(余談 :松下幸之助とFFTアナライザー) 松下幸之助はFFTアナライザーの発展に貢献しました。 興味の有る方は、2020年8月8日に投稿した私のブログ『社会人になってからの勉強(その4)』を読んで下さい。

(余談 :政治家は勉強して下さい。) 計測器や測定器は、工業技術を発展させるためだけで無く、国家の安全保障の面でも非常に重要です。 現在・この分野では、日本に優れた技術/製品が沢山有ります。 政治家は勉強して、メーカーを支援すべきです。

 (株)ミツトヨは測定器の会社ですが、第二次世界大戦の末期の1944年に、国は宇都宮市の郊外にミツトヨの工場を疎開させました。軍需産業にミツトヨの製品が不可欠だったからです。 政治家達はミツトヨの工場見学会に、是非とも参加して欲しいです! 世界的な製品を作っています!

(余談 :急激に世の中は変化します。) 私が社会人になった時は、共産圏輸出規制(ココム:COCOM)が有り、1994年からは通常兵器及び関連汎用品・技術の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント(新ココム)が出来て、FFTアナライザーは規制の対象に入っていたと思います。

 1998年頃に、私は製紙機械メーカーで働いていました。ベトナム・唯一の本格的製紙工場から設備診断の依頼が来たので、FFTアナライザーを持ち込もうと計画したのですが、新ココムの規制で、手続きが難しそうだったので、断念しました。

 当時、中国ではFFTアナライザーを販売していませんでしたが、1998年にRIGOL(蘇州普源精電科技)を設立して、今ではRIGOL製のFFTアナライザーが沢山日本で使用されている様です。 私が最後に買ったFFTアナライザーの50%以下の価格で売っています。

【静か過ぎたら!】
 静寂の世界は良さそうに思えますが、静か過ぎると人間は、小さな音が気になって、勉強や仕事に集中出来無くなるそうです。 これを『逆騒音』と呼びます。

 静寂の対策は、小さな騒音を人為的に流せば良いのです。これを「サウンドマスキング」と呼びます。 サウンドマスキング対策をした部屋で『密談』すると、隣の部屋では密談の内容を聞き取るのが難しくなる様です。 『音と騒音(その2)』に書きました『ホワイトノイズ』と同じ様な効果が得られます。

 「過ぎたるは及ばざるが如し」と言いますね!

【笑い話】
 とんでもなく酒癖の悪い男がいました。 彼は日本酒しか飲まず、宴会では何時も・意識が朦朧となるまで飲むのです。もう40歳代でしたが、仕事は半人前で、職場の嫌われ者でした。

 「一升瓶から注ぐ音で、残量が分かる」と彼は自慢するので、宴会で実験したのです。隣の部屋で、残量の異なる一升瓶からグラスに注ぎました。 ほぼ、ピッタリ残量を当てました。

 栓を抜いて直ぐだったら一升瓶もウイスキーのボトルも、「トクトク」と良い音を出します。 でも、直ぐに、音は小さくなります。 彼の耳は驚くほど感度が良いのです。 皆さんも、一度試して見て下さい。

★★来週の予定★★
 音と騒音について書いていたら、オーディオについて書きたくなりました。来週はオーディオの歴史と、私の未来予想について書こうと計画しています。

音と騒音 (その3)

2021-02-20 13:02:46 | 
【はじめに】
 今回も「音と騒音の入門書になれば」と思って書きました。 音は身近な存在ですから、音の勉強を始めると疑問/興味がドンドン沸いてきます。 高価な計測機器が無くても、誰でも簡単な実験をする事が出来ます。 音について考えたら、老人は頭の体操になり、子供は科学に触れる事が出来ます。

 私はベートーヴェンが大好きです。 30歳のころから難聴が進み、40歳の頃には大声で話さないと聞き取れなくなった様です。 交響曲第九は54歳の時の作品ですから、完全に聴力を失っていたと言われています。ベートーヴェンの才能は素晴らしいですが、人類の能力は想像以上に高いものなんですね!

【人の声(音声)】
 声を出さないで、「あいうえお」、「かきくけこ」と言って見て下さい。舌、唇、喉や口の中を動かす筋肉が無意識に/複雑に動いているのが感じられます。

 音声を出すために必要な筋肉を発達させる遺伝子は、人類だけが持っているのです。 (サルには音声言語が可能になるほど、喉・口等の筋肉が発達していません。) 生まれた後の学習で、日本人は「あいうえお」と言える様になるのです。

 人類が音声として出せる周波数は予想以上に広いのです。色々な言語が有りますが、その能力の一部を使用しています。 日本語だけ学習すると、125Hz~1,500Hz、アメリカ人が英語で話す時は2,000Hz~12,000Hzだそうです。(人類の可聴周波数は20Hz~20,000Hzです。)

 今後・益々、英語が必要になります。英会話の学習は出来るだけ幼い頃から始める必要が有る事が、日本語とアメリカ人の英語の周波数の違いから分かって頂けると思います。

 先週、ピアノと周波数について書きましたが、音声は母音(ぼいん)と子音(しいん)の組み合わせですから、非常に複雑です。 「キーー」と長く言って見て下さい。母音の「い」を長く伸ばしてしていて、「いーいー」と発声しているのが分かります。 音声はオシロスコープや高速フーリエ変換器(FFT)だけでは分析出来ないと思います。

 音声学や音響音声学が発達して来ています。 貴方の会話を収録して、貴方が喋ったと思われる会話を、合成音で作れる時代になったか?、なろうとしています。 悪用されるとトンデモ無く怖い事になりそうですね!

(余談 :ヘレン・ケラー) ヘレン・ケラーには視覚と聴覚が有りませんでした。 サリバン先生が、1887年・ヘレン・ケラーが7歳の時に「話す事」を教えたのです。 130年以上も前に、盲ろう者に会話(発声)を教える技術が有ったのですね! ヘレン・ケラーは来日して、講演して回りました。 (サルに会話を教えようと努力した学者がいましたが、口の周りの筋肉が未発達ですから、成功しませんでした。)

(余談 :読唇術) 相手の人の唇の動きから、何を話しているのか理解するのを読唇術(読話/口話)と呼びます。 普通は聴覚障害者が活用する技術ですが、昔の知人に読唇術を・ほぼマスターした人がいました。 彼は、読唇術の訓練を受けた分けでは有りませんでした。 会社で休み時間に、彼の能力をテストしたのですが、結構な早口で(発声しないで)喋っても、彼は読み取る事が出来ました。 (人間の能力は凄いです!)

【固有振動数】
 同じ形状の大小の皿を並べて叩くと、小さい皿は高い音を、大きな皿は低い音を出します。 (同じ位置を)何回叩いても、同じ音がします。 これを固有振動数(共鳴周波数)と呼びます。

 皿に罅(ひび;クラック)が入ると、音が異なります。固有振動数が変化したのです。

 固有振動数は、個体、液体、気体にも存在します。 三辺の長さが異なる直方体の箱の内部の空気の固有振動数について考えてみます。辺の長さが1.57m、1.32m、0.88mとします。前稿の【音楽のオクターヴ】に書いた様に、ラ3の波長は1.57m、ド4の波長は1.32m、ソ4の波長は0.88mです。この箱の空気はラ3、ド4、ソ4の3種類の固有振動数を持っています。

【音の透過】
 部屋のガラス窓から音が外部に漏れる事は誰にでも分かります。部屋の壁を、木製の板、鉄板、コンクリイトの板にしても少しは漏れます。

 一重のガラス窓が有ったら、人差し指を曲げて、「コツコツ」叩いて見て下さい。この音の周波数が、このガラスの固有振動数です。 この固有振動数の音がガラス窓に当たると、反射率は小さくなり、透過率が高くなります。

 厚さの異なる2枚のガラス板を用いた二重ガラス窓にすると、大幅に透過率を下げる事が出来ます。

 旅客機の窓のガラスは三重になっているそうです。 外側のガラスが割れても、内側の2枚のガラスで持ち堪える様になっているのです。 ジェットエンジンの騒動を遮断する効果もあります。

(余談 :我が家) 私は1985年に家を建てました。 技術屋の端くれですから、各社のカタログや建物に関する論文を集めて、耐火性(延焼し難さ)、耐震性/強度、耐久性、断熱性、遮音性、家庭電気製品の将来の普及を予想したコンセント数などなどを検討しました。 私の予算内で最も優れていると判断したのは、ツーバイフォー工法でした。

 ツーバイフォーの壁は、木枠の間にガラスウールを充填し、両面に合板(ベニヤ板)を張ったパネルを柱と梁の間に固定しています。外側にはモルタルを塗って、内側には石膏ボードか合板を取り付け、樹脂製などのクロスを貼っています。 従来の漆喰(しっくい)壁よりも、断熱性と遮音性に優れているのです。

 窓には、断熱性と遮音性に優れた二重ガラスのアルミサッシを採用しました。当時、民家には、二重ガラスのアルミサッシは余り普及していませんでした。 5年前に次男がマンションを購入したのですが、二重ガラスのアルミサッシの性能が大幅に向上していたので、驚きました。

(注記) 日本は湿度の高い国ですから、断熱性/気密性の高い家を建てるとカビが発生し易くなります。 LIXIL社が『エコカラット』と言う、湿気を吸ったり/吐いたりする(吸湿性の有る)特殊なタイルを売っています。「カビ」に悩まされているお宅には、少し高価ですが豪華な部屋に生まれ変わりますので推奨します。

【隙間から漏れる音】
 ドアや窓を開けると音が漏れます。 空気が流れる隙間が有ると、音は漏れます。 隙間が広くなると、音が沢山漏れます。 これを『隙間漏洩音』と呼びます。

 事務所や工場では、換気ダクトが合流や/分岐する構造になっているケースが多いいですが、ダクトを通して別の部屋の騒音や会話が聞こえる事が有ります。 これも、一種の隙間漏洩音です。

【音のエネルギーの蓄積】
 音のエネルギーは『貯まり(蓄積し)』ます。 前稿に、音は壁、天井、床で音が反射すると書きました。 部屋の中で、瞬間的に「カン」と言う音が出たとします。 その後に音が発生しなくても、暫く音の反射は続きます。 部屋の中に音のエネルギーは残っているのです。 これを『残響』と呼びます。

 人間の大人は、残響音を意識しない能力を学習していると思われます。 騒々しい呑み屋でも、仲間でない人達の音声を無視して、会話が出来る能力に似ています。 会話している部屋の中は、残響音だらけですが、気になりません。 (「赤ちゃんは、残響音を無視する学習は出来ていない」点を配慮してあげて下さい。 騒々しい所では、「どれが不要な音か?区別出来ないで聞いているので、困惑して泣き出すのだ」と私は思っています。)

 コンサートホールと映画館では、音響効果についての設計思想が違います。コンサートホールはある程度残響した方が良く、映画館は役者のセリフを聞き取り易くするために、残響を抑える必要が有ります。

 コンサートホールの壁や天井を可動式/取替式にしたら、指揮者や演奏家が希望する残響効果が得られ、素晴らしい演奏が聴けるのでは?と私は期待しています。

 ピアノは弦が振動して→空気を振動させます(縦波を発生させます)。 何の工夫もしないと、弦は暫く振動します。 ピアノには適当な時間で弦が振動しなくなる機構が組み込まれています。ピアノにはペダルが3本ありますが、右側のペダルを踏むと・この機構が解除されるので、弦が長く振動します。

(余談 :釣鐘の残響音) 有る古刹に行った時、丁度・坊さんが大きな梵鐘(釣鐘)を突き始めました。撞き終わって坊さんが帰り出した時、私は釣鐘の下に入って見ました。 強烈な残響音を経験する出来ました。 釣鐘を突くと、釣鐘の固有振動数で振動が続き、暫く唸る様な音を出します。 突いたエネルギーの一部が、固有振動数の振動エネルギーになって蓄積したのです。

【極低周波音】
 殆どの人には聞こえない20Hz以下の音を『極低周波音』と呼びます。 「聞こえないのだから問題なかろう!」と考えてはダメです。 

 大きな極低周波音が部屋に入って来ると、風も無いのに障子や襖が動いて「ガタガタ」と音を出します。 (お化け屋敷よりも怖いですね!) 初期の超大形高炉が建設された頃、実際に日本で発生した問題です。

 伊丹十三の『マルサの女』だったと思いますが、裏金を隠した二階に通じる階段を捜査員が登ろうとすると、強力な極低周波音が発生するシーンが有りました。極低周波音は、殆どの人には聞こえませんが、身体は感じます。 気分が悪くなってしまいます。

(余談 :体験) 地下1階、地上2階建ての下水処理場に機械を納入した時、私は酷い極低周波音を体験しました。 機械を据え付けた地下室から屋上に登る螺旋階段が有り、私の納入した機械の吸・排気音を測定する為に、何回か屋上に行く必要が有りました。鉄骨製の螺旋階段は、5m✕5m✕高さ20m以上のコンクリート造で密閉した階段室に設けられていました。 階段室の床と天井間の距離による固有振動数は345/20=17Hz程になります。 17Hz近辺の極低周波音が蓄積されていたのです。 私は吐き気を催しました。

(余談 :勉強) 私は1971年に社会人になったのですが、振動と騒音の研究者になろうと考えて、勉強を始めました。 高炉から発生する極低周波音が問題視され始めていたので、関連する論文を集めて読みました。 当時、日本にはこの分野の研究者が殆どいなかったので、論文は全て英語で、苦労しました。

【音源の形状】
 音が発生している所を音源と呼びます。 音源から離れた位置の予想騒音を計算で求める場合に、次の①~③のどの音源と見なすか?が問題になります。 音源から少し離れた場所の騒音を計算する時は、点音源として計算しても大差無い結果になります

① 点音源 :小さな『点』から音が発生すると、音は四方八方、あらゆる方向に広がります。 
② 線音源 :スピーカーを一直線に並べて同じ周波数/大きさの音を出す様な音源を、線音源と呼びます。
③ 面音源 :球場の照明の様に、スピーカーを沢山・配置して同じ周波数/大きさの音をす様な音源を、面音源と呼びます。

【距離減衰】
 東京スカイツリーの天辺に点音源が有ったとします。 遮蔽物が無いですから、音は四方八方に広がります。

 点音源からの距離が『R1』mの音が100dBだったとします。 『R2』mの位置の音は次の式で求められます。 ( log10=1、 log100=2、 log1,000=3です。)

R2の位置の音は =100― 20 × log (R2/R1)  ・・・単位はデシベル(dB)です。

 点音源から1mの所で100dBだったら、10mの位置では100-20=80dBに、100mの位置では100-40=60dB、1,000mの位置は100-60=40dBになります。音源から離れると、音はドンドン小さくなります。この現象を『距離減衰』と呼びます。

 60dBの音が聞こえる人だと、上記の点音源で発生した音を100m先で感知出来て、40dBの音が聞こえる人は1,000m先でも感知出来ます。

 狼は人間よりも小さな音が聞こえるので、遠くの獲物や天敵の出す音を聞いて、狩りをしたり、逃げたりして生き残って来ました。

音と騒音 (その2)

2021-02-13 12:03:54 | 
【はじめに】
 人類は大昔から音楽が大好きです。 文字の無い時代から、笛、太鼓、弦楽器を工夫して、後世に伝えて来ました。 楽器は全て”感”で作っていたのです。

 音の計測機器が第二次世界大戦後に普及して、音の研究者が増えて、騒音対策だけでなく、音を制御して素晴らしいコンサートホールを設計したり出来る様になりました。 本稿は音と騒音の入門書として書きました。

【音楽のオクターヴ】
 昔、西欧諸国の大学では『音楽』は、(芸術では無く)科学と見なされていました。周波数と言う概念がまだ存在していなかったと思われる頃から、「音楽は、何か自然法則に従うものだ」と気が付いていたのです。

 人類は、周波数が2倍、4倍、8倍・・・の音を同じグループだと感じるのです。 それで、『オクターヴ』という概念が出来たのだと思います。 (ピアノで周波数の音が確認出来ます。)

 現在、市販されているピアノの多くは、88鍵盤で(白鍵が52、黒鍵が36)です。 7オクターヴ+3鍵です。鍵盤と周波数及び波長の関係を以下に整理しておきます。 (実際のピアノの調律では、顧客の要望で少し周波数を高めにしているケースがある様です。)

 周波数=音速/波長 (単位はHz)
 波長=音速/周波数 (単位はm)

 音速を『345m/s』とした時の波長も(後に必要なので)書いておきます。

1番目の鍵盤=ラ0 :27.500Hz (波長; 12.55m)
・・・・・・
37番目の鍵盤=ラ3 :220.000Hz (1.57m)
39番目の鍵盤=シ3 :246.942Hz (1.40m)
40番目の鍵盤=ド4 :261.626Hz (1.32m)
42番目の鍵盤=レ4 :293.665   (1.17m)
44番目の鍵盤=ミ4 :329.628Hz  (1.05m)
45番目の鍵盤=ファ4 :349.228Hz (0.99m)
47番目の鍵盤=ソ4 :391.995Hz  (0.88m)
49番目の鍵盤=ラ4 :440.000Hz  (0.78m)
・・・・・・
88番目の鍵盤=ド8 :4186.009Hz (波長; 0.08m)

【白色音】
 光は電磁波です。目で見える光を可視光線と呼びます。可視領域の電磁波を満遍なく含んだ光は、『白』く見えるので『白色光』と呼びます。 (日中の太陽光は、白色光に近いです。)

 人間の耳で聞こえる周波数(20Hz~20,000Hz)の音が満遍なく混じった音を『ホワイトノイズ(白色騒音)』と呼びます。「シャー」と聞こえるそうです。

 厳密なホワイトノイズを発生させるのは、今でも難しい様です。 1975年頃に、私は音響の実験でホワイトノイズが必要だったのですが、市販の風船を買ってきて、パンパンに膨らませ、針で突いて割ってみました。 他に方法を思いつかなかったのです。

 私が若い頃に担当したガスタービンの騒音は、白色騒音に近かったのです。 消音器や防音パッケージを設計しましたが、高周波音から低周波音まで消す必要が有りました。

(余談 :ホワイトノイズ発生器) 適当な音量でホワイトノイズを流すと、人間は集中力が増すそうです。 子供や学生が勉強する時に、ホワイトノイズ発生器を利用するケースが増えて来ている様です。 4,000円程で入手出来ますから、試して見て下さい。

 睡眠薬が無いと眠れない方や、集合住宅で夜中にコツコツ音が伝わって来て、目覚めてしまう方には、ホワイトノイズ発生器は有効な様です。

 適当な音量のホワイトノイズは、人間にとって有意義なケースが有りますから、ノイズ(騒音)と呼んでは可愛そうです。それで、私は「白色音」と呼んでいます。

【機械と騒音】
 私が経験した騒音の大きな機械は、①超大形のルーツブロワーが第一で、②ガスタービン、③超大形で低速の舶用ディーゼルエンジンでした。私が入っていた事務所から、ルーツブロワーの試運転場まで100mほども有りましたが、試運転が始まると耐えられ無い様な状況になりました。 (③のディーゼルエンジンは騒音だけで無く、振動も強烈です。)

 飛行機のジェットエンジンとガスタービンは兄弟の様な機械です。 従って、ジェットエンジンの音も脅威的です。 ガスタービンの場合は、吸気側と排気側に消音器を設け、本体を防音パッケージで覆っています。ジェットエンジンには、騒音対策は出来ません。 ジェットエンジンの排気口の近くの騒音は、120dB~130dBほど有ると思われます。

 飛行機でエンジンの近くの席に座っても、騒音はそれほど苦になりません。 機体に難しい/金の掛かる防音技術が駆使されているからです。壁を侵入する音を低減する為には、普通は壁を厚く/重くしますが、飛行機では軽い壁で透過音を下げる必要が有ります。

【音の伝わる速度(音速)】
 音の伝わる速さを『音速』と呼びます。 音は、ガス体(気体)、液体、個体の中を伝わります。本稿は騒音について書いていますで、空気の音速を考えて見ます。 圧力と温度によって音速は変化します。 私達が住んでいる環境(1気圧で25℃)の音速は『345m/s』です。

 光の伝わる速さを『光速』と呼び、30万km/sです。光は音よりも87万倍も早く伝わります。 雷が発生すると、音と光を発します。 ピッカと光ったら、音が到達するまでの秒数を計ると雷までの距離が分かります。 (私は、「ゼロイチ、ゼロニ、ゼロサン・・・」と数えます。練習すると、ほぼ正確な秒数を計ることが出来ます。)

 雷が光って、10秒後に音が聞こえたら、10✕345=3,450m先で雷が発生したのです。

 オーケストラでは沢山の演奏者がいます。指揮者からの距離が違います。打楽器は一番遠いい位置です。 従って、「打楽器奏者は、ほんの一瞬早く叩いて、指揮者の耳にバイオリンの音と同時に達する様に工夫している」と言う話を聞いた事が有ります。

(余談 :ヘリウムガス) 気体の中ではヘリウムガスの音が一番早く、(常温/1気圧では)『790m/s』も有り、空気の2.2倍です。 ヘリウムガスを口の中に入れて、話すと”変な声”になるので、宴会の余興で使われる芸です。 「何故?声がかわるのか?」、このシリーズのブログを最後まで読んで頂いた後に考えて頂いたら分かると思います。

【音の反射と反射率】
 光は鏡や壁に当たるとはね返ります(反射します)。 音も、個体や液体の表面に当たると反射します。 後述の極低周波音は雲でも反射して、予想外に遠いい所に到達する事が有ります。

 『エネルギー 1.00』を持った音が、壁面に当たったとします。 エネルギーの一部は熱にになり、一部は壁を突き抜けます(透過します)。 大半のエネルギーは反射します。反射した音の持つエネルギーを反射率と呼びます。

 反射率は、入射した音の周波数、壁面の滑らかさ、硬さなどで変わります。 コンクリート面だと『0.97~0.99』ほどです。(低周波数の音は99%が反射されます。) 壁面を硬い材質(例えば、タイル)にすると反射率は高くなります。

(余談 :山彦) 山彦は、「自分の声が向かいの山で反射したのだ」と誰にでも分かります。 室内で二人が会話している時、対面しないで(そっぽを向いて)話しても相手の声が聞こえますが、それは壁面、天井、床からの反射音が聞こえるからです。 山彦は数秒遅れて聞こえますが、壁などからの反射音は、(距離が短いので)殆ど同時に耳に到達します。 そのために、反射音を聞いているのだと気付きません。 (後述の無響音室では、反射音が無いので、対面で話すか、耳の傍で話さないと聞こえません。)

(余談 :ビルの反射音) 都会では背の高いビルが乱立しています。 工事の音が聞こえて来ても、どちらの方角で工事しているのか?判断出来無い場合も有ります。

【位相と逆位相】
 位相の説明は省略します。 インターネットで、『位相 わかりやすい高校物理の部屋』で検索してください。。

 音は空気の圧力の変化です。 一直線上をA点に向かって左右から、周波数が同じで、同じ大きさの音が進んで来ているとします。 一番高い時の圧力を『+1』、一番低い時の圧力を『-1』とします。 A点に到達した時、左から来た音は最高の圧力『+1』で、右からの音が『-1』の状態だったとします。

 (+1)+(-1)=0 です。 つまり、A点で音が消えるのです。 左から来た音の圧力が『+1』で、右からの音が『-0.8』の状態のA点到達したらどうなりますか? (+1)+(-0.8)=0.2 ・・・音は小さくなります。

 この現象は私達の周りで、常に起こっています。 この原理を用いた、ディーゼルエンジンやポンプ用の機械的消音器は昔から製造されて来ました。(私は、このタイプのポンプ用消音器を作った事が有ります。) 現在は、音響技術が進歩したので、逆位相の音を発生させて騒音を小さくする『アクティブ騒音制御システム』が沢山活躍しています。 例えば:高速道路などで。

 『毒を以て毒を制す』と言う諺の様な技術が、実際に利用されているのです。