06/29 私の音楽仲間 (507) ~ 私の室内楽仲間たち (480)
読解を強いるブラームス
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読解を強いるブラームス
肘でハジく?
お尻を軽く?
耳を欺く?
敵か味方か?
いきなり “砲弾”…なんて言うと、ギョッとされるでしょうか?
物騒な言葉で恐縮ですが、ここでは、その形だけ思い浮か
べてください。 砲弾型をした商品も、最近は色々あります。
お叱りを受けないうちに…。 以下は、前回私が記した内容
です。
「あのブラームスが残した指示を、そう簡単に無視していい
はずがありません…。」
「…かく言う私も、昔はとんでもない事をしていました。 ある
曲でブラームスは、弦楽器にスタカート (・)、同じ進行をする
管楽器にはアクセント (>) を指示していた。 それを私は、
自分勝手に混同して “解釈” してしまったのです。」
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ブラームスは、アーティキュレーションについても詳細に
書き分けています。 時には、同じ進行をしている複数の
パートに対して、異なる指示が。
解り易く言えば、音符同士の “繋がり具合” の話です。
「切るか、繋げるか、その中間か?」
ここで必ず問題になるのが、スタカート、スラー、
そして、アクセントなどの記号です。
これらは、同時に組み合わされることもあります。
弦楽六重奏曲 第1番 変ロ長調 Op.18、その第Ⅳ楽章
の中ほどには、厳格に守ろうとすると、かなり難しい指示が
あります。
ただし今回は、「パートごとに書き分けている」…のでは
ありません。 一つのパート譜を追っていくと、異なる指示
が前後に現われるのです。
[譜例]は Vn.Ⅰのパート譜です。 空白になっている
のは、休止符の続く小節や、十六分音符が多い部分。
今回の話題には目障りなので、隠してしまいました。
[演奏例の音源]でも、この部分はカットしてあります。
いつも以上に、鑑賞には不向き…。 流れが不自然で、
作曲者には申しわけありません。
今回の課題は、スタカートとアクセントの弾き分けです。
そのうち、四分音符に書かれたもの。
これ、音量が f や ff だと、特に難しい。 弦楽器でいえ
ば、弦の振幅が豊富なので、コントロールしにくいから。
下から二段目の⑥は、f でなく p ですね。 しかし基本的
には、二段目の中ほどの “f の部分” と、同じ形です。
やはり歌いたい箇所なので、スタカートには気を遣います。
作曲者は、ここに “dolce” と記していますが、後の編集者
がカットしたのでしょう。
最下段の最後には “スラー スタカート” が現われます。
でも、p の数は1つだけ。 pp は、この先に出てきます。
パート譜も、うかつには信用できません。
さて、スタカートは “分離された” の意味ですね。
“短い” ではないことを、この場でも何度か記しました。
別の言い方をすれば、「ブツッと切れて、音の無い時間が
存在する」…のではない。 基本的には。
問題は “音の形” なのです。 最後を減衰させるように
しないと、少なくとも “響きの繋がったスタカート” は生まれ
ません。
では、一体どんな形でしょうか? それが、最初にご覧
いただいた “砲弾型” なのです。
スタカートの記号が付いたとしても、砲弾が短くなる
わけではありません…。
ただし形状は様々です。 特に、細くなる部分が!
流線型のようにスマートなものから、寸胴型まで。
縦横のプロポーションも考えると、千差万別ですね。
音の場合は、そのときの “全体の音楽” に相応しい
“形” をイメージするよう、心掛ける必要がある。
でもスタカートは、音楽の “横の流れ” を断ち切る
ものでもあります。 それがわざわざ、歌いたい箇所
にまで書いてあるのは、一体なぜ?
ブツブツ切れないように “気を遣う” 必要があるの
は、“f、espressivo”、“p、dolce” の二箇所でした。
ブラームスは、どうしてわざわざスタカートを、
こんな所で書いたのか?
[音源]では聞きとりにくいかもしれませんが、
実は同じリズムを、チェロが模倣しています。
一段目の最初でも、二段目の空白の後でも、2小節目
から追いかけています。 最初は2本、二度目は1本で。
これが四段目の空白の後になると、Violin より先に聞え
ます。 2本のチェロのほうが…。
この、“リズムの応答” をはっきり聞かせたいために、
ブラームスはスタカートを書いたのではないか?
「これが “リズム モティーフ” なんだよ?」…と。
“歌いたくて自制の利かない Violin” に対して。
…私の想像ですが。
四段目の最後には、アクセント付きの四分音符が現われる。
そして、2つの八分音符にはスタカートが。
この組み合わせは、直前でも見られましたね。
そこでは、二分音符と四分音符でしたが。
一段目の前半にも、同じ組み合わせがあります。
砲弾のサイズが、ちょうど半分になったわけですね。
理屈っぽいブラームス…。
でも、一段目の最後にはアクセントがある。 ここでは
Violin やチェロが、4人とも “一斉にアクセント” なのです。
この4小節は、主役を祭り上げる “締め” の部分に
当ります。 一斉に喋っているので、対話の面白さは
不要なのでしょう。
さて、重要な問題が残っていましたね。
スタカートはいいとして、そもそもアクセントとは?
これは私の意識ですが…。 “音符の頭の鋭さ” より、
“音の持続・長さ” を大事に弾くようにしています。
アクセント記号 (>) が何を表わすかは、作曲家に
よっても異なるでしょう。 またそれ以前に、アクセント
の種類は、言語によっても違いがあります。
音楽に携わる私たちも、この点を意識する必要があります。
この曲は西欧の、特にドイツ音楽です。 もちろんアメリカの
オケも、ブラームスを演奏しますが…。
考えてみれば、“音符の頭が鋭いアクセント” だと…?
それはスタカートと、ほとんど変わりません。
減衰するスタカートであれ、胴体が無く、頭部だけの
“スタカート” であれ…。
どんな音符にも、“終りの形” があります。
この、アクセント四分音符にも。
もし音符の終りが “開きっ放し” だと、すでに “エンジン
全開”! 次の音符の “頭の形” を準備出来ないのです。
これは、アクセントの音符に限ったことではありません。
次の譜例では、最初の部分に “白玉の音符” が現われ
ます。 全音符が2つ、二分音符が1つ。
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このような例の場合、よく耳にするのは、白玉の音符の頭
が不明確な演奏です。 まるで、スラーがかかっているよう
に聞こえてしまう。 少なくとも、“3つのリズム” は聞えない。
「3つの音にアクセントをつけなさい!」…というのが、その
際、よく聞かれる指示です。 “頭を強く”…。
しかし、まず必要なのは、各音符の最後を “治める” こと。
そうすれば、次の音符の頭を特に強く弾こうとしなくても、粒
はちゃんと聞えるようになります。
この譜例を見ると、私は作曲者の姿を思い浮かべます。
ピアノの前の Beethoven を。
それぞれの白玉音符からは、ハーモニーの力強い進行
を感じます。 3つの音符が決然と聞えるためには、多少
“切り気味に” 演奏する必要があるでしょう。
今回の “アクセント四分音符” は、砲弾でいえば
“寸胴型” を意識しながら弾くようにしました。
減衰が、あまり早くから始まると、スマートな流線型
になってしまうから。
したがって、「減衰が無い」…わけでもない。 ただし、
減衰を開始するタイミングが難しいのです。
まず、出来るだけ音を保ち、最後の瞬間に “抜く”…。
長い音では、最初に膨らむ場合もあり得ますが。
こうして[音源]を聞いてみても、課題だらけです。
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