MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

したたかなブラームス

2012-11-10 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

11/10 私の音楽仲間 (443) ~ 私の室内楽仲間たち (416)



            したたかなブラームス



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              読解を強いるブラームス
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                  お尻を軽く?
                   耳を欺く?
                  敵か味方か?





 ブラームスの弦楽六重奏曲第1番変ロ長調 Op.18
今回はその第Ⅲ楽章、“スケルツォとトリオ” です。



 [譜例 ①]





 演奏例の音源]は、うち、スケルツォの部分です。 また
上の[譜例]①はその冒頭で、ViolinⅠのパート譜です。

 12小節すると繰り返し記号がありますね。 “” の箇所
ですが、今回の音源は、そのまま先へ行っています。



 すると…。 何拍子だか、一瞬解らなくなりませんか?

 曲をよくご存じのかたは別として。

 書かれている拍子は 3/4。 でも、拍を規則的に感じる
のを、“何か” が邪魔しているようです。




 “繰り返し” の先の部分が問題ですね? スコアで見て
いただくと、以下のように書かれています。



 Vn.Ⅰは、相変わらず “一拍目” からスタートしています。

               
 [譜例 ②]





 ところが他のパートは、すべて “三拍目” からですね!
これでは、聴き手が戸惑ったとしても、無理ありません。

 以後、シンコペーションで “一拍ずれた形” と、低音の
“規則的な三拍子” が共存しながら、音楽は進行します。



 それにもう一点、そもそも不自然な問題があることを、
感じておられませんか? 少なくとも無意識に。

 それは、この “上昇4度” です。 Vn.Ⅰは、いつも
一拍目から弾き始めていますね。



 これ、言わば “Sol - Do” の進行で、“下降5度” でも同じ
ことになります。 和声的に強い解決を思わせる音程なので、
三拍子の音楽なら、“三拍目~一拍目” というのが普通の形
です。

 マーラーの交響曲第一番、そのスケルツォ楽章。 これを
思い浮かべるかたも、きっと居られることでしょう。

 そこではテーマも、低音の進行も、共に “Mi - La”。 同じ
三拍目から、同時にスタートしています。 “平行8度”…。




 …ということは、私の弾く Vn.Ⅰのパートが、そもそも “混乱
の原因” だったようですね。

 事実、今回の演奏の場でも、少々戸惑う仲間がいました。
なぜって、演奏が何度か止まってしまったんです。

 それで私は以後、体を左右に揺らさなければならなかった
ほどです。 弾きながら、小節の頭を示すために。




 でもこれ、私のセイではありませんよね? こんな
楽章を作ったブラームスが悪いんです。

 いえ、それが彼の計算だったのでしょう。 聴く者
を一旦、混乱に陥れ、そのまま放置したかと思うと、
やっと最後にリズムを解決に導き、安定させる。

 皮肉屋、ブラームス…。



 その手法を “嫌らしい”…と思うか、それとも “魅力的だ!”
と感じるか。 貴方はどちらでしょうか?

 ただ、この類のことはブラームスの曲では珍しくありません。
3拍子系の曲を挙げれば、第3交響曲の第Ⅰ楽章 (6/4拍子)
もっと複雑になると、第2弦楽五重奏曲の第Ⅰ楽章 (9/8拍子)
があります。




 さて[譜例 ③]は、前回ご覧いただいたものです。

 第Ⅱ楽章のテーマを、最後にチェロが初めて弾く箇所でした。



 [譜例③]






 これと、先ほどの[譜例①]を比べてみましょう。





 なんだか似ていますね。 後半の部分には差がありますが…。




 そうなると、気になるのは第Ⅳ楽章です。




       [音源ページ ]  [音源ページ