08/26 私の音楽仲間 (528) ~ 私の室内楽仲間たち (501)
肘でハジく?
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
室内楽で Viola
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Violin や Viola は “擦弦楽器”。 通常は弓で弾く
ので、こう呼ばれます。
しかし、オーケストラや室内楽で欠かせないのが、
ピツィカート。 もちろんソロの曲でも、決して珍しく
ありません。
[譜例]は、ある室内楽曲の Viola パート。 あいにくアルト譜表
で書かれていますが、“pizz” の箇所に注目してください。
[演奏例の音源]は、一段目の “3a” 付近からスタートします。
Violin は O.さん、M.さん、Viola は私と S.さん、チェロ F.さん、N.さんです。
これは ブラームスの弦楽六重奏曲 第1番 変ロ長調
Op.18、その第Ⅰ楽章、前半部分です。
最下段の “pizz.” は、Vn.Ⅱ と一緒です。
その先の “4b” からは、今度はチェロⅠ と一緒。 音符
の数は、“一度に3つ” まで増えます。
↓
お聞きのように、周囲はレガートだらけ。 厚い音の群同士
が、対話をしています。 全体の印象は、もやもや、ドロドロ。
その中で、規則的なリズムを刻むのは、このピツィカート
だけ。 アンサンブルをすっきりさせるためにも、主導権を
握る必要があります。 そのためには、音量も要求される。
3つの弦を鳴らす場合は、腕全体の動きに、勢いが必要です。
そうしないと、アルページョで “ポロロン”…。 同時に鳴っては
くれません。
スピードのエネルギーがあるので、結果的に音量も出やすく
なる。 もちろん曲によっては、弦が4本とも要求されることが
あります。
p の場合は、タッチを軽くする。 スピードがあっても。
なにやら、弓の場合と同じですね。
音符1つの場合は、腕を勢いよく振り下ろすと、隣りの弦に
触ってしまいやすい。 まず指でタッチしておいてから、腕で
鳴らします。
…というと、不思議に思われるかたがおられるかも…。
もちろん、速い頻繁なピツィカートでは、指先の敏捷な往復
運動が必要なので、腕には頼りませんが。
これが “弦2本” だと、私はもっとも苦手です。 中途半端
な数なので、腕の勢いに頼るわけにいかない。 といって指
だけだと、同時には鳴らしにくいのです。
「いっそのこと、右指を2本使おうか…。」 でも、弓を持ち
ながらだと、実にやりにくい。 いつも悩んでいます。
「ピツィカートはハジくだけだから、簡単だろう」…と
思うと、これが違うんです。
大きくても音割れしない豊かな音、小さくても届きの
いい音、伸びのある音…。 目標も豊富で、必要なの
は “奏法の効率”。 弓で弾く場合と変わりません。
ただ、どうしても無理が伴うのは、高いポジションの
ピツィカート。 特に Violin の。
“お子様楽器” と同じになってしまうのです。 弦の
長さが。
逆に弦の振動部分の長さが長いほど、響きは豊か
になります。 コントラバスには絶対に敵いません。
今度は振幅に注目しましょう。 もっとも広いのは、
弦の中央部です。
弦の両端は、当然ながら “振幅ゼロ” ですものね。
あの紡錘形みたいに。
これは弓で弾く場合も同じ。 ただし、大きな差がある。
それは、弓は “弾き続ける” のに対して、ピツィカートは
“始めの一発だけ”。 したがって、弦の中央部をハジクの
が、「もっとも効率が良い」…ことになります。
反対に、両端に近い部分は、ハジこうにも引っ張ろうにも、
抵抗が大きいだけ。 原理的に無理なのです。
これが話題になるのを、私はほとんど耳にしたことがない
のですが。
“紡錘形” を例にとれば、中央部以外のところが “最大幅”
となる形を目指すのと同じ…。 これ、弦の振動では不可能
ですね?
したがって理想的なのは、(1) 押さえた指、(2) 駒…
との、ちょうど中間をハジくことになります。 なぜなら
(1)、(2) は、振動する弦の両端に当りますから。
すると、「どこを押さえるか」によって、ハジく位置を
変える必要に迫られることになります。 ポジションの
高低、指の高低 (4~1) などに左右されて。
もっとも効率のいいのは、弦を押さえなくていい場合、
つまり開放弦です。 弦長も最大だし、おまけに両端が
“堅い” から、振動エネルギーが吸収されずに済む。
ただし Violin、Viola では、右手の指先を、身体から
もっとも遠くへ持っていく…ことになります。 これには
“姿勢の補助” が必要になる。 ある程度は。
でもお断りしたように、これは理想にすぎません。
左指の動きが頻繁だったり、隣りの弦への移動が急
だったりすると、“遠近運動” は時間的に間に合わない。
また “一度に3本” を要求されて困ることも。 左指まで高低
3本が必要になると、綺麗な響きはなかなか出ないものです。
弦長の差が大きいから。
上の[譜例]の “4c” は、その例です。
“2本のオクターヴ” も、同じ理由でバランスが悪い。
それでも、押さえた指が “0123” のように、整然と並ぶとき
には、裏技があります。 逆の “310” の場合にも。
ハジく右指も、左指と同じ方向を目指せばいい。 弦を斜めに
クロスするように。 普通は真横ですが。
ただしこれは例外。 弦は真横に振動しますから、通常は、
やはり “真横にハジく” べきなのです。
斜め方向は、やはり効率が悪い。 弓の運動と同じように。
では、豊かで美しいピツィカートは、どうしたら生まれるのか?
易しそうな単音を例に取ってみても、そのために頭に置くべき
ことは、実に多いのです。
指先の、どの部分を使うか? 弦の長さの何ミリほどに触れる
か? 弦をどれほどしっかり引っ張るか? ただ触れる程度か?
その際の、指と弦との角度は? ハジいた後、指に残る弦には
どんな痕が? ハジく前後、右指や腕は、どんな運動をするか?
答は…。 「どれも一様ではない」…のです。 音量や音質を
聞きながら、微妙な差を、感触で覚える必要がある。
こう申し上げれば、どんなに奥が広いか、お解りいただける
でしょう。 たかがピツィカートといえども。
その上、「腕でハジきなさい」…なんて私に言われたら、
生徒さんは困ってしまいますよね。
本当に “肘で鳴らそう” とした女性もいたぐらいですから。
でも、肘鉄だけは食らわさないでね?
頼むから…。
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