MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

政治家ハイドン

2012-07-12 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

07/12 私の音楽仲間 (403) ~ 私の室内楽仲間たち (376)



              政治家ハイドン




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




                関連記事
                   名曲に拝謁
               同じリズムがあちこちに!
                  音の上下も?
                   錦の帝衣
                 翻弄された讃歌
                  皇帝の騎兵隊
                  政治家ハイドン
                  戦術家ハイドン
                  扇動家ハイドン
                  芸術家ハイドン
               傑作への誘 (いざな)




 今日ドイツ国歌として知られている、ハイドンの名曲。

 弦楽四重奏曲『皇帝』の第Ⅱ楽章では、メロディーそのもの
が変奏主題として用いられています。 また自身の編曲による
『皇帝変奏曲』は、今日でもピアノの演奏会で聞かれます。



 [譜例]は、すでにご覧いただいたもので、四重奏曲の第Ⅱ
楽章の一部です。 ViolinⅡが主題を担当していますね。







 この旋律、元来は旧オーストリア帝国の、神よ、皇帝
フランツを守り給え
として作曲されました。



 ただし上記のサイトには、「ハシュカの皇帝賛美の詩
クロアチア民謡を基にして曲を付けることにした」…
とあります。

 とすれば、この歌は、クロアチア、オーストリア、ドイツ
…という流れを辿ったことになります。 讃美歌としても
広く親しまれ、また一時はポーランド国歌でもあったこと
を、これもご一緒に見てきました。




 オーストリア帝国国歌という音源ページがありますが、
そこでは他国の国歌も色々聞かれます。

 その中の「神よ、皇帝フランツを護り給え」は、以前も
ご紹介しました。 ドイツ語の歌詞が一緒に見られる音源で、
以下の行が何度も出てきます。

 "Gott erhalte Franz, den Kaiser,"



 各単語の最初の文字を抜き出すと、【G、E、F、D、K】。
さらにこれを音名として並べると、【Sol、Mi、Fa、Re、Do】
になります。

 最後の "K" は、同じ発音の "C" で置き換えてあります。
また、"Kaiser" は "Caesar" から来たそうですね。



 これが弦楽四重奏曲では、「第Ⅰ楽章の冒頭の動機となって
いる」…のだそうです。 これは解説サイトでも見られる内容で
すが、最近入手した本にも、他の記述と共に書かれていました。
その書物は、後ほどご紹介します。




 やはり既出の[譜例]は、第Ⅰ楽章の冒頭です。 なるほど、
そのとおりの音が Vn.Ⅰに見られます。 【Sol、Mi、Fa、Re、Do】。







 最初の4音符に "C" と書いたのは、私の仕業。 第Ⅱ楽章
で中心的な役割を果たすモティーフとそっくりなので、私は両者
とも "C" と名付けています。 上下の動きが共通しているから
で、冒頭の動機も、これに関連する…と考えていました。



 両者は "まんざら無関係" とも言えませんが、【Sol、Mi、Fa、
Re、Do】の説得力には及びません。 あるいはハイドンのこと、
やはり何か関連があるのでしょうか。

 ちなみに原曲では、"Gott erhalte Franz, den Kaiser," の
下線部に当るのが、第Ⅱ楽章のモティーフ "C" です。




 この【Sol、Mi、Fa、Re、Do】は、伊東信宏著 『ハイドンの
エステルハージ・ソナタを読む』(春秋社2003年)に記された
内容ですが、著者はそれを、ある論文で見かけたようです。

 著書のほうは、全210ページの大半が、クラヴィーア ソナタ
について割かれています。

 この書物の存在は、友人のチェロ弾き Su.さんから聞いて
いましたが、絶版となってしまっているのか、なかなか入手
できませんでした。 つい最近、やっと手に入れたのですが、
価格は発刊当時をかなり上回るものでした。



 その28ページには、さらに以下のような記述もあります。

 「"" を表す付点のリズム、"行軍" を表すピリック
脚韻(戦闘の象徴)、そして "貴族" を表すトリルが、この
テーマを取りまく。」



 なんだって…!

 先ほどの[譜例]を、もう一度見てみましょう。







 付点のリズムには、この後にも、跳躍する "E" など
が加わります。

 そのうち、この "D" のリズムが "" なの? 私は
"騎兵隊" だと思っていたけど。



 ピリックだって、ビックリ! で、どれが "行軍"?

 トリルが "貴族" ? Su.さんは "へつらう廷臣たち"
だって言ってなかったかな…。




 これじゃ "音楽を書く政治家" です。 ハイドンは。

       関連記事 師に誘われた人生の旅




 さてこの著書には、まだ興味深いことが書かれていました。



 「L.ショムファイは、この第2楽章の主題以外の点でも
この作品が政治的メッセージの強い作品であることを
指摘している。」

 「László Somfai. "'Learned Style" in Two Late String
Quartet Movements of Haydn". in Studia Musicologica.
vol. 28 (1986), pp. 325-349.」

 「なお、後半の弦楽四重奏曲作品76の2『五度』第1楽章
の分析と共に、この論文は恐ろしいほど鮮やかにハイドン
の作曲上の思考を跡付けている。」

 「文中の "ピリック" とは短短格の韻律で、古代ギリシャ
の兵士たちによる "戦舞" で用いられた。 近くはモンテ
ヴェルディの『タンクレディとクロリンダの戦い』などで戦闘
を表すものとして用いられている。」



 ついに、戦闘そのものを扱った曲まで出てきました。

 さらに、「戦闘の場面は、この四重奏曲にも登場する」
…と書かれているのですが、さて…?



最新の画像もっと見る

コメントを投稿