MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

叱られない MOZART

2011-06-26 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

06/26 私の音楽仲間 (278) ~ 私の室内楽仲間たち (252)



            叱られない MOZART



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』



          弦楽五重奏曲 ト短調 K516




 再びチェロの N.さんのお宅にお邪魔しての、泊まり
込み室内楽の情景です。

 K.君の御前で演奏した、ハ長調 K515 の五重奏曲
「様々な角度から吟味された」結果、何とか合格点を貰う
ことが出来たようです。



 "様々な角度" とは? 実は N.さんのお宅は "吹き抜け"
になっており、階段を上がれば、演奏者を真上から見下ろす
ことが出来るのです。 弾いている私をそこから眺め、弓の
位置などを細かくチェックしていたらしい…。

 ところがこちらは、そんなこととは気付きません。 楽譜を
睨み、聴いて合わせるのに精一杯。 まさか "そんな角度"
から採点されていたとは、夢にも思いませんでした。




 しかし、後から考えればヒヤヒヤものです。 この ViolaⅠの
パート、私は弾くのが初めてだったから…。

 と言っても、Vn.Ⅰを何度も弾いていて、曲をよく知っていた
のが幸いしました。 各パートの動きは大体頭に入っていたし、
あの "Andante" の Viola の聞かせ場も、直前の Vn.の動き
を、オクターヴ下で繰り返せばよかったからです。

 音が頭に無く、純粋に読譜だけから音楽を理解するのとは、
大きな差があります。



 もしこの曲をまったく知らず、ドジを踏んだりしたら、どうなっ
ていたろうか…? きっと、「ワッハッハッハ、もういい、帰れ」
…なんてことになったかもしれません。 レパートリーの無い
中で、たまたま何度か弾いたことのある曲が、最初に自分に
当たったのです。




 "Andante" のこのパッセジには、一小節内に音符が20個
以上も書かれた箇所があります。 ゆっくりな 3/4拍子とは
言え、これを初見で正確に弾くのは難しいでしょう。

 まず、"符割り" の判読。 四分音符1個の中に、12の音符
があるのです。 付点16分音符や32分音符のほかに、印刷
の小さい装飾音も入れて数えると。 これを音楽的なリズムで、
しかも最適な指使いを、その場で考えながら弾かねばならない
のですから。




 でも、終わってしまえばこちらのもの。 ホッとして楽器を
置こうとした、そのときでした。

 「そのまま、そのまま!」 そう言いながら、今度は K.君
が楽器を持って、Violin の席に座りました。 譜面の続き
はト短調の五重奏曲です。



 これも ViolaⅠが比較的目立つ曲で、Violin のフレーズを
そのまま繰り返す箇所が、幾つかあります。 でも、室内楽
の Viola ですから、「アンサンブル作りに集中する局面が
ほとんど」と言っていいでしょう。

 はっきりと、正確なリズムを刻みながらも、邪魔にならぬ
ような音色で。 しかも、周囲のテンポの動きに臨機応変に
反応する。 音量バランスにも、もちろん敏感でなければ
ならず、これらをその場その場で瞬間的に判断する…。

 慣れないと簡単ではありませんが、まさに室内楽の Viola
の醍醐味です。



 この曲も、幸い ViolinⅠのパートが頭に入っていたので、
K.君の微妙な動きにも、寸分違わず合わせることが出来た
のではないか…。

 それが Viola を弾く喜びでもあります。




 見ると、楽器を弾く彼の姿は、以前とそれほど変わって
いません。 この歌い方、そして首を振る独特のスタイル。
相変わらず達者なリズムと音程。



 一体何年ぶりになるのでしょうか。 卒業の年以来、顔
を合わせたことはありますが、それもせいぜい1~2回
ほど。 私が一旦東京を離れ、戻ってみたら、今度は彼
が去っていた…など、少なくとも一緒に音を出す機会は、
まったくありませんでした。

 正確に数えると、41年ぶりになります。



 気付くと、彼は若干ながら興奮していたのでしょうか。
テンポの振幅が特に大きいように感じられたのです。

 それとも、直前に飲んだビールのせい? おっと、
それはお互いさまでした…。



 弾き終わると、「おぉ、とても弾きやすかったよ!」と
声をかけてくれました。

 よかった…! また叱られるかと思ってたのに。

 40数年前と同じようにね。




 このときのメンバーは、Violin K.君、H.さん、Viola 私、
N.さん、チェロ T.さんでした。



 私以外の方々は、同じオーケストラに所属していた時期
もあるなど、互いに気心の知れた間柄とのこと。 それが、
つい最近になって解りました。




       [音源ページ ]  [音源ページ

           第Ⅲ楽章からの演奏例
            (談笑の声が入っています)

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