MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

こリャー凝っとるじゃろ?

2011-06-05 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

06/05 私の音楽仲間 (270) ~ 私の室内楽仲間たち (244)



           こリャー凝っとるじゃろ?




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




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               ズノーだけじゃないよ!?




 私の手にしたパート譜、その8ページ目には、こう書かれて
いました。

  Serenata alla spagnola (Alexander Borodin)。



 前回の、"スペイン風セレナード" ですね。



 ところが1ページ目には、 (Nicolai Rimsky-Korsakow)
と、はっきり記されています。

 この曲は合作で、他の2つの楽章、Ⅱ、Ⅳも、別人によるもの
でした。




 題名をよく見ると、『B - La - F の名による弦楽四重奏曲』
とあります。



 これが "ド レ ミ" などの音名を表しているのだということは、
すぐ想像できますね。 しかし、「…の名による」とあるからに
は、"B La F" は、単なるアルファベットではないはずです。



 よく見ると、小さい活字でこう記されていました。

 "A Mr. M. P. Belaieff"。 「Belaieff 氏に捧ぐ。」

 これは、ページの最下段に書かれた、出版社名とまった
く同じです。 M. P. Belaieff Nr.233 …。




 これはロシアの出版社ですね。 わが国では "ベラィエフ"
として親しまれていますが、むしろ "イェフ" と書いた方が
正確でしょう。 "ビェリャーイェフ" または "べリャーエフ"。

 "lai" ではなく、"Be - la - ieff"。

 これならば、"B La F" はロシア語的に "べリャーエフ"
と読めることが解ります。 単なる出版社名に止まらない、
偉大な名です。



 詳細は上記のサイトをお読みいただきたいのですが、
作曲家たちが氏に敬意を抱き、この合作の四重奏曲を
作ったことは、想像に難くありません。 それも、特別の
敬意を払いながら。




 リームスキィ=コールサコフが担当した第Ⅰ楽章は、Viola
がゆっくり歌う序奏で始まります。 まず音符5つの、短い
メロディー。 次いで、7個、9個と、音符の数は増えていき
ます。

 どれも、BLaF の音から始まります。 イタリア語の音名
で統一すれば、Si♭、La、Fa。



 そう言えば、前回のセレナータで Viola が奏していたのは、
この4つの音だけでした (高い Fa と、低い Fa)

 Viola は、愛好家としてべリャーエフが嗜み、弦楽四重奏を
組織して弾いていた楽器。 ここにも作曲家たちの深い愛情
が感じられます。




 ちなみにこの頃までは、「ロシア音楽界はアマチュアがリード
していた」と言っても差支えありません。

 アマチュアと言えないまでも、当時のロシア五人組は、事実上
は "日曜作曲家たち" を列挙しただけ。 指導的立場にあった
バラーキレフを除き、4人とも明確な職業を他に持っていました。



 チ(ャ)ィコーフスキィは、音楽学校で学ぶことの出来た、最初
の世代。 先輩のグリーンカの時代には、公的な音楽教育の
場などありませんでした。

 地主の息子として生まれたグリーンカは、幼少時代に農奴
オーケストラに親しみ、書物を通じてヨーロッパの世界を知り、
数多くの音楽家に私淑し、広大な旅行範囲はスペインにまで
及び、ベルリンで研究中に亡くなったという、知識欲や熱意、
誠意のかたまりのような人でした。 国民音楽の祖として、
ロシアで広く尊敬を集めるのも頷けるでしょう。




 この曲の第Ⅰ楽章に戻りましょうね。 調性は変ロ長調。



 ソナタ形式の2つの主題は、共にこの "3つの音" から始まり
ます。

 このうち、提示部の第二主題はヘ長調で開始されるので、音
はそれぞれ "Fa、Mi、Do" となります。 しかし音程関係は歴然
としているので、聴けばすぐ解ります。




 面白いのは、この第二主題を導くための、短い経過句です。



 その7つの音は、次のように順番に登場します。 長調で。
"Re Do# La↑ Sol Si♭ La Fa"。

 これが再現部では変ニ長調になり、長3度下に移動します。
"Si♭ La Fa↑ Mi Sol Fa Re"。

 フレーズの最初か最後、そのどちらかが、この3つの音名に
なるよう、工夫してあるのです。



 それぞれの下線部分の音符には、"B la F" と活字が加えら
れています。



 この活字は、実は4つの楽章すべてにおいて頻繁に見られ、
演奏者の注意を喚起するようになっています。




 冒頭のゆっくりな序奏部は、楽章の終わりにも現われ、Viola が
5、7、9個の音を奏でて締めくくります。

 全体の長さは10分少々です。



 演奏例は、展開部の終わりから、再現部にかけてのものです。
(最初の音量が大き過ぎることがあります。)




 なおリームスキィ=コールサコフの弦楽四重奏曲には、
やはり合作のものが幾つかあります。 うち、『命名日』
(第Ⅲ楽章)、『金曜日』(Ⅰ) は、やはりべリャーエフに
関連して作られたものです。

 自身だけによるものには、ヘ長調 Op.12 (1875年)、
ト長調 (1897年) があるそうですが、不勉強なので
聞いたことがありません。




  (続く)