MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

見えない対話

2011-02-09 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

02/09 私の音楽仲間 (254) ~ 私の室内楽仲間たち (228)



              見えない対話



          弦楽五重奏曲 ト短調 K516

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              押しかけビール

            弦楽五重奏曲 ト短調 K516
              疾走する Mozart …
              ほかでも聴いたことがあります
              Mozart の速度標語から
              懐かしき準急列車
              回帰する景色
              見えない対話
              青空へ旅立つ
              永遠の飛翔
              叱られない MOZART

            弦楽五重奏曲 ニ長調 K593
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              最後に五重奏曲
              変ホ長調の輪




 お付き合いいただいている、Mozart の "Allegro" の旅。
前回は、とんでもない景色をお見せしてしまいました。

 車窓から見えたものは、秋の紅葉ならぬ、私の塗り絵遊び。
これ以上無いほどの乱雑さです。



 そして聞えてきた音楽は、"疾走する急行" ならまだしも、
"針の跳んだレコード"! 第Ⅰ楽章の後に、急に第Ⅱ楽章
が鳴り出し、また元に戻るというものでした。



 こんな迷演奏盤は、どこを探しても絶対見つからないでしょう。

 しかしそれには、ある目的があったこと、お気付きいただけた
でしょうか。




 [譜例]は第Ⅰ楽章の冒頭。 ViolinⅠがテーマを弾き終わる
と、それまで沈黙していたチェロが、低音パートを引き継ぎます。

 そこで最初に聞かれるのは、Re の音からの下降音階でした。



  [譜例




 非常に単純な音形で、見事なブリッジ役を果たしています。

 ところがどういうわけか、第Ⅱ楽章も、同じ5つの音の音階
から始まります。 これは偶然なのでしょうか?



  [譜例




 この短調の音楽は、開始早々、鋭い減七の和音で、流れが
突然断ち切られます。 3拍目に現われ、休符による一瞬の
沈黙があるのが恐ろしい…。 しかもヘミオーレになっている
ので、唐突な違和感を見事に感じさせます。

 ここでは2回ですが、繰り返しの後では3回も。 "MENUETTO"
全体は、TRIO の後でさらにもう一度繰り返されるので、この和音
は全部で15回、聴く者の胸を貫くことになります。

 ト短調のメヌエット…。 交響曲の25番や、40番が思い出され
ます。 "優雅な宮廷の踊り" だったはずが、ここでは何という
悲痛な音楽になってしまったのでしょうか。



 この "減七の和音" は、強い不安、恐怖を感じさせますが、実は
第Ⅰ楽章でも、すでに聞かれていました。 それは[譜例]の、
最初の二小節で、同じ2種類の "減七" が逆の順になっています。

 ここでは "なだらかな歌" の形を取っており、チェロは別の音を
鳴らしているので、それほど鋭い感じには聞えません。



 ここは第Ⅰ楽章の18、19小節目に当りますが、よく見ると、
同じモティーフは[譜例]でも姿を見せています。

 最初は何気なく現われていた減七の和音。 第Ⅱ楽章では、
どうも重要な "悪役" になってしまったようです。



  [譜例





 [譜例]は、最終の第Ⅳ楽章。 序奏の "Adagio" 部分
の冒頭です。

 ViolinⅠが歌い出すのは、お馴染みの下降音階。 すぐ
チェロが、同じことを正確に繰り返します。 暗く、重い気分
です。

 これに先立ち、最初の小節でチェロが奏でているのは、
上昇する分散和音。 第Ⅰ楽章冒頭の、ViolinⅠの主題
の形ですね。 ちょうど役割が交代しています。 これでは
軽やかに聞えようはずがありません。



  [譜例




 [譜例]は、その続きで、(38小節ある) 序奏の、22小節目から
の部分です。

 この直前から目立ち始めるのが、揺れ動く二つの音符の群
です。

 チェロは相変わらず、分散和音をはじいていますが、これは、
それまで揺れていた3つのパートに割り込み、4人の "f" で
歌われます。

  [譜例




 音源はこの "Adagio" 部分です。 しかし、[譜例

の冒頭6小節まで行くとカットがあり、[]に入ったかと
思うと、すぐに終ってしまいます。

何箇所も手を加えて編集したもので、純粋な鑑賞向きではありません。