02/09 私の音楽仲間 (254) ~ 私の室内楽仲間たち (228)
見えない対話
弦楽五重奏曲 ト短調 K516
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お付き合いいただいている、Mozart の "Allegro" の旅。
前回は、とんでもない景色をお見せしてしまいました。
車窓から見えたものは、秋の紅葉ならぬ、私の塗り絵遊び。
これ以上無いほどの乱雑さです。
そして聞えてきた音楽は、"疾走する急行" ならまだしも、
"針の跳んだレコード"! 第Ⅰ楽章の後に、急に第Ⅱ楽章
が鳴り出し、また元に戻るというものでした。
こんな迷演奏盤は、どこを探しても絶対見つからないでしょう。
しかしそれには、ある目的があったこと、お気付きいただけた
でしょうか。
[譜例Ⅰ]は第Ⅰ楽章の冒頭。 ViolinⅠがテーマを弾き終わる
と、それまで沈黙していたチェロが、低音パートを引き継ぎます。
そこで最初に聞かれるのは、Re の音からの下降音階でした。
[譜例Ⅰ]
非常に単純な音形で、見事なブリッジ役を果たしています。
ところがどういうわけか、第Ⅱ楽章も、同じ5つの音の音階
から始まります。 これは偶然なのでしょうか?
[譜例Ⅱ]
この短調の音楽は、開始早々、鋭い減七の和音で、流れが
突然断ち切られます。 3拍目に現われ、休符による一瞬の
沈黙があるのが恐ろしい…。 しかもヘミオーレになっている
ので、唐突な違和感を見事に感じさせます。
ここでは2回ですが、繰り返しの後では3回も。 "MENUETTO"
全体は、TRIO の後でさらにもう一度繰り返されるので、この和音
は全部で15回、聴く者の胸を貫くことになります。
ト短調のメヌエット…。 交響曲の25番や、40番が思い出され
ます。 "優雅な宮廷の踊り" だったはずが、ここでは何という
悲痛な音楽になってしまったのでしょうか。
この "減七の和音" は、強い不安、恐怖を感じさせますが、実は
第Ⅰ楽章でも、すでに聞かれていました。 それは[譜例Ⅲ]の、
最初の二小節で、同じ2種類の "減七" が逆の順になっています。
ここでは "なだらかな歌" の形を取っており、チェロは別の音を
鳴らしているので、それほど鋭い感じには聞えません。
ここは第Ⅰ楽章の18、19小節目に当りますが、よく見ると、
同じモティーフは[譜例Ⅰ]でも姿を見せています。
最初は何気なく現われていた減七の和音。 第Ⅱ楽章では、
どうも重要な "悪役" になってしまったようです。
[譜例Ⅲ]
[譜例Ⅳ]は、最終の第Ⅳ楽章。 序奏の "Adagio" 部分
の冒頭です。
ViolinⅠが歌い出すのは、お馴染みの下降音階。 すぐ
チェロが、同じことを正確に繰り返します。 暗く、重い気分
です。
これに先立ち、最初の小節でチェロが奏でているのは、
上昇する分散和音。 第Ⅰ楽章冒頭の、ViolinⅠの主題
の形ですね。 ちょうど役割が交代しています。 これでは
軽やかに聞えようはずがありません。
[譜例Ⅳ]
[譜例Ⅴ]は、その続きで、(38小節ある) 序奏の、22小節目から
の部分です。
この直前から目立ち始めるのが、揺れ動く二つの音符の群
です。
チェロは相変わらず、分散和音をはじいていますが、これは、
それまで揺れていた3つのパートに割り込み、4人の "f" で
歌われます。
[譜例Ⅴ]
[音源]はこの "Adagio" 部分です。 しかし、[譜例Ⅳ]
の冒頭6小節まで行くとカットがあり、[Ⅴ]に入ったかと
思うと、すぐに終ってしまいます。
何箇所も手を加えて編集したもので、純粋な鑑賞向きではありません。