09/09 私の音楽仲間 (202) ~ 私の室内楽仲間たち (182)
"Serioso" は "厳粛に" か?
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Beethoven の作品の中に、弦楽四重奏曲 ヘ短調 Op.95
「セリオーソ」という曲があります。
上記のサイトを開くと、「原題は "Quartetto serioso" で
あり、セリオーソの名は作曲者自身によって付けられた
ものである」と書かれています。
四楽章構成のこの曲。 なるほど、その第Ⅲ楽章には
"Allegro assai vivace ma serioso" の字句が見られます。
時に "厳粛" の邦題で呼ばれ、親しまれているこの曲
ですが…。
手元に辞書があったので、幾つか言葉を拾ってみました。
(1990年小学館発行の、伊和中辞典です。)
まずは無関係な単語から。
maestoso (マエスト―ソ、マエスト―ゾ)
威厳に満ちた、荘厳な、堂々たる、いかめしい
これはご存知の方が多いでしょう。 楽章の冒頭などでは
"Andante maestoso"、あるいは単に "Maestoso" のように
用いられます。
関連語としては次のようなものがあります。
名詞 "maesta" (マエスター: 威厳、荘厳、壮大、気高さ、堂々たること)
副詞 "maestosomente"、"maestosamente" (威風堂々と、いかめしく)
ところが次の場合は、様子が少し変わってきます。
① serio (形容詞)
まじめな,本気の,誠実な,謹厳な,しっかりした,信頼できる
物事を深く考える,深刻がる,陰気な,心配そうな
重大な,憂慮すべき,大切な,軽視を許さぬ
② serioso (形容詞)
まじめくさった,もったいぶった,しかつめらしい
形容詞が二つあり、似てはいるものの、ニュアンスが
若干異なりますね。
①の "serio" の方は、「オペラ セリア」という言葉に使われる
"seria" と、まったく同じ語です。
いわゆる、「形式・内容ともに格調の高い歌劇」を指すのが、
このオペラ セリアで、 "正歌劇" と訳されています。
ちなみに名詞には "serieta" (セリエタ―; まじめさ,真剣さ,誠実さ,…)が、
副詞には "seriomente" (まじめに,誠実に,重大に,真剣に) があります。
類似語における差異は、私たちの日常生活で親しまれている
英単語にもあります。 一例を挙げると、
③ "economic"
経済上の,経済学上の,経済的,経済に関する,
実利的な,採算の取れる
④ "economical"
倹約を重んじる,つましい,節約家の,安上がりの,
徳用の,省エネの
の二つです。 ④が "経済に関する" の意味で用いられること
も、あるにはありますが、本来のニュアンスとは異なります。
さて、やはり倹約家だった Beethoven さんが、万一この
侮露愚を目にしたら、一体どう思われるでしょうか?
「"真面目腐った四重奏曲" とは、一体何事だね!!」
と、烈火の如く怒り出すでしょうか。
「いや、ワシもイタリア語にはそんなに詳しくないんでね、
本来は "serio" とすべきだったのかな…、ウーン…。」
とおっしゃるでしょうか?
それとも…。
(続く)
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