MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

引き戻されて

2013-07-14 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

07/14 私の音楽仲間 (513) ~ 私の室内楽仲間たち (486)



               引き戻されて


         これまでの 『私の室内楽仲間たち』



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                弁当の紐とけないよー
                  深刻な組み紐
                   これでもか
                演出家 Beethoven
               自然に生まれはしないよ
               解釈より優先する事情
                     味多後
                   引き戻されて
                 4分36秒の中味
                 付点音符の尻尾
                  深刻な問題





 まるで “嘆きの歌” のような 6/8拍子。 四人の思いは様々
ですが、第Ⅳ楽章も終りに近づきました。

 曲は Beethoven弦楽四重奏曲 ヘ短調 Op.95 です。



 演奏例の音源]が始まるのは、[譜例]の2小節目、
“p が一つ” の小節です。



 打って変って現われたのは、2/2拍子の Allegro。 音楽は、
この上なく軽やかに (molto leggieramente) 突き進みます。

 まるで、今までの “しがらみ” から解き離れたかのように。







 もちろんテンポも拍子も、調性も変わったからです。 しかし
[譜例]をご覧いただくと、それ以外の点にもお気付きでしょう。

 用いられる “材料” にも、明確な差があるのです。



 [譜例]は相変わらずの塗り絵で、色も何とおりか…。 しかし
共通しているのは、“上下に動いて元に戻る” 点です。

 音符の数は、基本的に3つ。 跳躍する幅は様々で、6度、
3度、全音、半音などの音程が見られます。

 これらは、Allegro になってからは、まったくと言っていい
ほど現われません。



 これが、何か特定の強迫観念を表わすのかどうかは、
もちろん解りません。 しかし動きは窮屈で、少なくとも
“伸びやかさ” や “進展” は感じられない。

 作曲者は、“束縛”、“停滞” のイメージを、この動きに
重ねているような気がします。 たとえ無意識にせよ。 




 [譜例(2)]は、前回もご覧いただきました。 この楽章の
最初の部分です。

 半音全音の往復が、歌の重要なモティーフとして用い
られていました。 装飾音の動きも、一役買っています。





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 次の[譜例(3)]は、第Ⅱ楽章の冒頭。

 半音、全音は、主としてメロディーの動きに。 4度3度
などは、内声、チェロから聞える “うねり” になっていました。





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 最後は第Ⅰ楽章です。 [譜例(4)]は、その冒頭でした。





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 この部分をスコアで見たのが、次の[譜例(5)]です。



 まず最初の小節。 前半の “” は、16分音符の動きです。

 後半 “” は8分音符。 短調の音階なので、音程は変化
していますが。



 音符の数は5、7と異なりますが、音階で上下している点は、
“a” も “b” も同じです。







 [譜例]の後半になると、動きは全音程、半音程に
止まりません。 オクターヴ4度の音程もあります。



 行っては帰り、跳躍しては引き戻される…。 冒頭の
数小節は、この “上下運動” だけで出来ていることが
解ります。

 全楽章で用いられている重要な動きで、それが様々
なモティーフを生みだしている。 それが最初に提示
されているのが、この冒頭でした。



 「単刀直入、単純明快、解説不要。 作曲者も、
そういう音楽を目指しているようです。」

 これは私が書いた文ですが、それは第Ⅰ楽章の
冒頭だけを見た場合のこと。



 全曲を設計、構築する、作曲家の冷徹な計算…。

 彼の究極の目標は、この “引き戻す要因” から
解放されることだったようです。



 少なくとも作曲の世界において。

 これが “現世のしがらみ” かどうかは別にしても。




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