MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

若者は BRAHMS が…

2010-09-15 00:00:00 | 私のオケ仲間たち

09/15 私の音楽仲間 (207) ~

        私のオーケストラ仲間たち (23)


           若者は BRAHMS が…




 なにやら、物好きな人たちが集まって来ましたよ? もう
夜の11時近くになるというのに。



 私にとっての合宿一日目の夜のこと。 "公式の業務" が
終わってから、すでに2時間近くが経っています。

 これから "室内楽の遊び" が始まろうというのです。 もう
"良い子は寝んね" の時間なのにね。




 でも学生さんたちには、私もまだまだ負けませんよ。
だって、自分の方が若いんだから (そのつもり)

 現に、少なくとも30分はちゃんと寝ましたよ。 さっき、
業務の終了後。 私には "寝だめ" の特技があるの
です。 "のだめ" じゃないよ。



 僕の特技はそれだけじゃないよ。 なにしろ、食事の量が
半端じゃないんだから。 現に、翌朝のヴァイキングなんか、
もう大変! トレイからはみ出すほどの量で、隣りの女の子
の3~4倍はありましたから。

 みんな、うさんくさそうな顔をして見ていました。 「この人、
いつもこんなに食べるのかな? それとも…。」



 なにはともあれ、よく寝て、たくさん食べなければ、キミたち
の若さには対抗できません。




 さて、練習の疲れを押して集まって来た人たちは、これから
私に苛められることになるんです。 でも、それにはまったく
気付いていません。 気の毒ですね。

 当夜の犠牲者の打ち分けは、Violin 4、Viola 4、チェロ3、
バス3。 いずれも弦楽器の面々です。 これから、ある
室内楽曲を、弦楽合奏でやろうというのです。

 と言っても、別に本番の予定があるわけではありません。
"一回限りの体験学習" です。



 曲は、ブラームス弦楽六重奏曲第1番変ロ長調 Op.18

 もちろん全曲ではありません。 映画のバック ミュージック
にも取り上げられたほど人気のある、第Ⅱ楽章の "Andante
ma moderato" です。 お聞きになれば、「ああ、あれか!」
おそらくご存知のことでしょう。




 実はこの名曲、彼らにとって "初めて" ではありません。
半年か1年ほど前にも、やはり合宿で深夜に取り上げた
覚えがあります。

 いえ、8~9年前にも一度やりました。 同じ弦楽合奏の
形で。 もちろん、メンバーは全員入れ替わっています。
学生オケの宿命でしょうか。



 その時は、全員があまりにも気を入れていたので、
「この場限りで終わらせてしまうのは惜しい」と思い、
団員全員に聴いてもらう機会を設けてもらいました。
各パートの人数は、確か今回と同じぐらいだったと
思います。

 演奏者は全員起立し、譜面台を高く上げて。 私も
一緒に Violin を持って弾きました。 ひょっとして、隣り
の Viola のパートもところどころ弾いたかもしれませんが。



 終わった後に湧き起こった拍手。 私はそれを忘れません。
仲間たちが深夜に励んで練習した成果に対して送られた、
温かい拍手を。

 多分、昼食の直後か何かの時間に、臨時に頼んで割いて
もらった時間だと思います。




 それはひょっとすると、あの 9/11 の翌日のことだったかも
しれません。



 あの (日本では)、私は自分の部屋へ学生たちを何人か引き
入れ、一杯やっていました。 何の話をしていたのか、今では
覚えがありませんが。

 そのとき、一人の学生に携帯で、外部から連絡がありました。
「アメリカの貿易センタービルが大変なことになっているよ!」

 さっそく部屋のテレビを点け、みなで見入ったのを覚えて
います。 誰も口を利かず。 言葉を忘れて。




 …関係ありませんね…。

 齢を取ると、遠い昔のことばかり思い出し、直近の現実は
すぐ忘れるといいます。 いわゆるアルツハイマーです。
 (私の場合はアル中ハイマーですが。)




 そんな昔のことなど露知らぬ若者たちが、今回は椅子に
陣取り、いよいよ BRAHMS が始まります。 私は傍観者を
決め込み、「さあ、どうぞ! 始めてください。」

 ところが、コンマスの I 君の "出だしの合図" に、なかなか
みんな 従おうとしません。 彼が悪いのではなく、「Viola の
人間が曲を知らないから」らしいのです。



 ひょっとして、みんな初見? そういうことが無いように、
予め譜面を渡しておいたつもりなのに…。

 いえ、解っていても、初っ端から Viola が弾き始めるのは、
かなり勇気が要ると思います。 仕方なく私が出した合図
にも、なかなか反応してくれなかったほどですから。
 こんなに "格好いいソロ" なのにな。 反応が無いのは辛いものです。
私のような図々しい古狸でもね。




 そんな具合で、6~7分の楽章が、一度、二度と、辛うじて
通りました。 私に何度も "駄目" を出され、止りながら。

 ただし、さらい込まねば弾けないような難所については、
一言も触れていませんよ。 アンサンブルの勘どころや、
テンポの一貫性についてはうるさく言いましたが。



 僕の声が大きくて、怖かった? もしそうなら、こちらも興奮
していたからかな。

 本気にさせたのはあなた方です。 箸にも棒にもかからない
ようなら、諦め半分になったでしょう。 寝た方がマシです。



 でも、それに めげない元気な若者たち。 よほど
"ブラームスがお好き" なんでしょう。 三度目の "通し"
にも応じてくれたほどですから! (嫌いやながら?)




 何はともあれ、40分があっというまに過ぎました。 私に
ガーガー言われながら。 本来は6人の室内楽なのに、
14人もかき集められて。



 物好きな人たち。 本当にありがとう。



 そのお礼に、3回目を通したときの録音を、以下にアップ
させてもらいます。

 と言っても再編集したものです。 滅茶苦茶に、切れ切れに。
楽章全体をお聞かせ出来ず、残念ですが。




 でも、私はちゃんと言ったでしょ?

 「音楽は、ちゃんと伝わってきたよ」…って。


             演奏例の音源]






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                  敵か味方か?





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