07/12 私の音楽仲間 (511) ~ 私の室内楽仲間たち (484)
解釈より優先する事情
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
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解釈より優先する事情
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Beethoven の弦楽四重奏曲 ヘ短調 Op.95、その
第Ⅲ楽章は “Allegro assai vivace ma serioso” と指示
されています。
これを、取りあえず “硬く” 訳しておきましょう…。
「充分に快速に、生き生きと、しかし深刻に聞えるように」。
ではこの楽章を、どんなテンポで演奏すればいいのか?
「“生き生きと” は、速くすればいいのか?」
「“serioso” とは、本来どういう意味か?」
詳細は関連記事に譲り、先へ行きましょう。
『Vivace は速いのか』 『"Serioso" は "厳粛に" か?』
この楽章は、3/4拍子。 “スケルツォとトリオ” のアイディア
が、根本にはあります。
“scherzo” の元来の意味は、“滑稽な、諧謔的”。 演奏が
難しいので、私たちが苦闘している様子が、そう聞えるかも
しれません。
演奏者は、全員が “serie” (serio、まじめ) なのですが…。
[演奏例の音源]は、その “スケルツォ” に当る部分を、
編集で繋げたものです。 最後は “Più Allegro” (さらに速く)
へと追い立てられ、楽章は終ります。
お聞きのとおり、ここではリズムが命。 下の[譜例]
は冒頭部分で、Vn.Ⅰのパート譜です。
もっとも重要なのは、十六分音符でしょう。 これを
明確に、しかも、決められたとおりのタイミングで演奏
しなければなりません。
四分音符は、十六分音符にして4つ分。 この4つめを、
正確に第4コーナーの位置で演奏する…ことになります。
これが難しい。 四等分でなく、三等分の3つめ、つまり
本来より早いタイミングで鳴らしてしまいがちなのです。
室内楽に限らず、どんなアンサンブルでも、常に問題に
なりますね。
[譜例]の一段目の最後には、これが連続している小節が
ある。 ここをしっかり弾かないと、テンポ全体が “前のめり”
になってしまうのです。
頭では解っていても、いざ、演奏の現場では難しい…。
もう一つは、小節の最後の八分音符です。
まず一段目に現われ、三段目では、これにスラーが懸ります。
これは先ほどと逆に、“後ろへ寄ってしまいやすい”。 もし
付点四分音符で音が持たないと、逆の場合もあるでしょう。
本来の位置は第3コーナーですが。
一段目ではスラーがありません。 したがって、前後の音符
からは、はっきり分離する必要がある。 さもないと、リズムが
聞えません。
さて、これらを正確にコントロールしながら演奏するため
には、テンポが速過ぎないほうがいいですね。
そんなことは、頭では百も承知。 しかしどうしても速く
なりがちで、「リズムにしわ寄せが来る」…のです。
こうなってくると、「vivace とは? serioso とは?」…なんて、
考えている余裕はありません。
作曲者の指示を吟味するより、演奏者の “家庭の事情” が、
テンポを左右してしまうことが多い。 この曲に限ったことでは
ないのですが。
これまで、「リズム、リズム」と言ってきました。
でも、テンポが速いほうが、たとえリズムが不正確でも、
それが目立ちにくい。 そんな一面もあります。
悪い表現をすれば、「テンポの速さでごまかす」…。
この楽章でも、名演とされている演奏が数々あることでしょう。
そのすべてが、リズムにおいても、可能な限り厳格であって
ほしいと思います。
テンポが速くても、そうでなくても。
[音源ページ ①] [音源ページ ②]