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第18回300文字小説、最優秀賞「先生」 

2016-08-31 | Weblog

地下鉄に乗った。

運良くドア近くの端っこの席が空いたので、手すりに傘を引っかけ、通勤かばんを膝の上において座った。

ふと前を見ると、見覚えのある男性が座っている。誰だったかなあ? …そうだ、中学二年のときの担任の鈴木先生だ。

 挨拶(あいさつ)をした方がいいかなあ? いやいや、僕のことなんか覚えてるはずがない。

 成績は良くなかったし、特にこれといった取り柄(え)もなかったしなあ。

 よく忘れ物をして「山田、また宿題忘れたのか。後ろで立ってろ!」って怒られたなあ…。

じきに降車駅に着いた。立ち上がって、開いたドアから降りようとした。

その時、後ろから大きな声がした。

 「山田、傘忘れてるぞ!」

 

(名古屋市天白区・英語講師・61歳)

【評】東京新聞掲載七十五篇の中から、今回、最優秀賞に輝いたのは、事前投票でも最多の支持を集めた、加藤敦子さん「先生」でした。誰もが自然にシチュエーションを思い浮かべてニタリとする共感性の高さが文句なしの評価につながりました。

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