曇、10度、64%
秋山ちえ子の「冬の薔薇」という随筆を読んだのは香港にいる時でした。 隣家の生け垣に真冬に一輪咲く赤いバラの花、その佇まいを思い浮かべながら読んだ記憶があります。
香港には薔薇は植えられていません。蒸し暑い亜熱帯の気候です。バラの栽培には適さないのかもしれません。香港にいた30年の間、薔薇との接点は切り花でした。九龍サイドの花市に行くと、昆明やオランダから送られてくる薔薇が1束10本、12本で売られています。50センチほどの丈があるその薔薇の束を抱えて帰って来ます。背の高いガラスの花瓶、時には土物の壺に投げ入れただけでその豪華さは部屋の雰囲気を変えました。今思えば贅沢なことです。
この家に戻って来てそろそろ2年を迎えます。一昨年の春はモモさんを亡くした春でした。本腰を入れて庭仕事に取り組んだのはこの春からです。近隣のお宅の庭先に薔薇が開くのを見ると取り憑かれたように薔薇の苗木を植えました。5本ほどでしょうか、香りの良い薔薇が夏にかけて庭を彩ってくれました。秋口から葉も落ち始め、四季咲きと呼ばれる品種でも春ほどの勢いのある花は咲かせません。ぐっと気温が下がり始めた昨日、庭に一輪薔薇が開きました。殺風景な庭に柔らかなオレンジの花です。「冬の薔薇」です。
秋山ちえ子の「冬の薔薇」を読んだ時、まさか自分の庭に「冬の薔薇」を見るとは思ってもいませんでた。20年近く前に読んだこの本、「冬の薔薇」の持つ意味がより一層私の身に寄って来ました。20年という時間の流れ、私自身の年齢もあります。
一輪咲いた「冬の薔薇」、春にはもっと濃いオレンジの大きな花でした。日本の薔薇、「万葉」という名前です。