晴れ、28度、78% シグナル1
私の実家の近くに「ふるさと」という和菓子屋がありました。ご夫婦二人だけでやっている店でした。小さな店構えでしたが、お菓子の種類もあり、その和菓子自体が品のいいものでした。予め頼んであった菓子を取りにお使いで行きました。ガラスの引き戸を開けると、店の奥から真っ白なのれんをくぐって、真っ白なエプロンをかけ、真っ白な手ぬぐいで手を拭きながら、おじさんかおばさんが出て来ます。小さな私にまで「いらっしゃいませ。」と頭を下げてくれました。
亡くなった父は、この店の水ようかんが大好きでした。夏には、ちょっと回り道をしてこの店の前の車を止めると、包みをふたつほどもって出て来ます。決まって、水ようかんは12個。葛桜は母にでした。お酒も好きでしたが、甘いものも大好きな父でした。「ふるさと」の水ようかんは、さっぱりとして12個なんてすぐになくなりました。
缶入りの水ようかんが、お中元などで出回るようになったのはいつごろからでしょうか。あの量の少なさ、べっとりと手に付くような甘さ、買ってまで食べようとは思いません。私の味覚の記憶の底には、「ふるさと」の水ようかんがデンと居座っています。
さて、それならばと作ってみると、大方のレシピはあのべっとりな水ようかんに仕上がります。寒天液に入れる砂糖の量が半端ではありません。先日、京都のある店の青竹に入っている水ようかんのレシピを見ることがありました。随分と砂糖の量が少なめです。そこで、思い切っていつもの半分の砂糖にしました。砂糖を半量にするには勇気がいります。 出来上がった水ようかんは、はい、「ふるさと」のあの味です。固さはすっとスプーンが入るくらい、口当たりを考えて、葛を溶いていれました。15センチ角の流し型で作った水ようかん、あっという間に私のお腹に入ってしまいました。