モルツーの日々@競馬と本と日本史他

本が好きな書店員(出版社営業部から書店員に出戻りました)。史跡巡りの写真を素敵に撮りたい。馬も好き。

『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』

2014年06月22日 | 書籍紹介と読書記録
失って初めてそのありがたみが分かるのは世の常ですが、あの震災で「紙が無い!」という事態になり、勤務先版元の製作担当者が紙とインクの確保に奔走する姿に接してようやく、書籍の紙がどこでどれだけ作られているのかを知りました。
本書に登場する石巻工場長の言葉「客も今は同情で待ってくれるだろうが、あちらも商売だ。」が心にずしりと来ました。その「客」の構成員に自分も入っていたな、と。
「だから、半年で復活させる」としたこの工場長のリーダーシップと従業員の努力によって工場がこれほど早く復活していなかったら、日本の出版界はどうなっていただろうかと考えてしまいます。支えている人は、普段は目に留まらないところに居るものだな、と。

また、復興モノであると同時に「モノづくりJAPAN」を知ることができる内容でした。
製紙工場の信念やプライドが伝わってきます。
何気無く手にする紙には、とても工夫が込められています。
手に馴染む柔らかさの紙、本として綴じても重くならない紙、文字が読みやすい色の紙(本の紙って真っ白じゃないんですよ!)などなど…。
8号機リーダー佐藤憲昭氏から娘さんへの説明として、こんなセリフが出てきます。
「紙にはいろんな種類があるんだぞ。教科書は毎日めくっても、水に浸かっても、破れないように丈夫に作られているだろ?コミックにも工夫がいっぱいあるんだ。薄い紙で作ったら、文庫本の厚さぐらいしかなくなっちまう。それじゃあ子どもが喜ばない。手に取ってうれしくなるように、ゴージャスにぶわっと厚く作って、しかも友達の家に持っていくのにも重くないようにできてる。これな、結構すごい技術なんだぞ。」

そういえば、本作りの世界は、多分に「職人の技術」が関わっています。機械任せで均一なものが出来るわけではない。「人」がそこにいる。印刷会社や製本会社の見学をさせてもらったとき、そう思いました。
インクの調合では基本色を混ぜ合わせて常に同じ色を作るのは「勘」が必要ですし、印刷工程では気温や湿度の変化で微調整が必要です。製本工程でも、綴じる工程に加え、カバー巻き機械には力加減の微調整が必要なのだそうです。
そして本書によって、均一な紙の生産も、秘蔵レシピを元にした職人の勘によって支えられていることが良く分かりました。

「紙つなぎ」とは木材チップから紙となり巻取りの姿になるまでの製紙工程用語だそうですが、しかしそこで終わらず、本となって書店に並んで読者の本棚に並び、さらに後世に伝わるまでが「紙つなぎ」なのではないかという本書が提示するイメージに胸が熱くなりました。

今、私は、出版社という「本を作って売る」会社に勤務し、主に「売る」側として働いています。
「紙つなぎ」のタスキの一員であり、著者•編集者から渡されたタスキを、書店から読者へいかに繋いでもらうかを考えるのが仕事です。
せっかく作ってもらった紙を無駄にすることが無いよう(断裁の憂き目に遭う本が出ないよう)、もっと頑張らねばと思いました。

紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている
クリエーター情報なし
早川書房
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