モルツーの日々@競馬と本と日本史他

本が好きな書店員(出版社営業部から書店員に出戻りました)。史跡巡りの写真を素敵に撮りたい。馬も好き。

読了レビュー 『城主になった女 井伊直虎』

2016年09月15日 | 書籍紹介と読書記録
城主になった女 井伊直虎
梓澤 要
NHK出版

 

「大河ドラマ主人公、柴崎コウ氏主演」と聞いて、打ち震えた女子(おなご)は私だけではないはずだ。
そんなキャスティング、かっこよすぎるじゃないか、と。

その時に想像した直虎さんのイメージは「芯のしっかりとした女性」であって、男勝りで武器を振り回す「男に混ざる系」のイメージでは無かった。
本書を読んで、彼女がイメージ通りの「芯の強い系女子(じょし)」であるらしいと想像できて、とても嬉しく思っている。


特に、出家時のエピソードが揮っていた。
許婚・亀之丞の親が戦国の争いによって命を狙われ亀之丞自身も遠方に逃げ落ち延びるのだが、それを知った直虎は、「出家する」と言い張り、親にも相談せずに馴染みの寺へ行って出家してしまう。
この時、直虎はまだ8~9歳くらい。
9歳の女の子が許婚の状況を理解し、剃髪してしまう。
しかも、それを知った両親が嘆きに嘆いて「どうか名前だけは尼の名前ではなく今のままで」と言っても本人は頑として「どうか出家した者として尼の名前を付けてください」と、その馴染みの寺の和尚に懇願したとのこと。
困った和尚さんが付けた名前が、井伊家の嫡男に付けられる「次郎」という名と、僧侶であることを現す「法師」を合わせた「次郎法師」という名前だったというのだが、10歳未満の女の子が大人達を困らせながらも凛として己の主張を通しているあたり、今からドラマでこのシーンがどう描かれるのか楽しみで堪らない。

本書の作者は、2006年に井伊直虎の小説を出している。(『女にこそあれ次郎法師』*2016年に文庫化)
現地を訪れ、その地の史料も読み込んでいるようで、とても骨太な取材に基づいて「直虎像」を作り上げているようで信頼がおける。
井伊家といえば、ひこにゃんの彦根城のイメージがあるが、そもそもは浜松市、浜名湖の少し北側の「井伊野」あたりだったとのこと。
彦根と併せて、直虎巡りをしてみたくなった。

NHK出版から今年(2016年)8月に出版された本書。
当然ながら、2017年大河ドラマを意識して作られていると思われる。原案本では無いが、巻末には「ゆかりの地紹介」も掲載。毎週本編後に放送される「あの部分」を彷彿とさせる。

「真田丸」がいよいよ佳境にさしかかる中ではあるが、来年の大河ドラマが待ち遠しいかたへぜひお勧めしたい。


読了レビュー 『罪の声』

2016年09月15日 | 書籍紹介と読書記録
 罪の声
 塩田武士   
 講談社



犯人に「声」を利用された子供と同世代と思われる作者の「子供を事件に巻き込んだことへの憤り」が感じられた。
 
テレビで流されたグリコ・森永事件のあの脅迫テープは、当時子供だった私の記憶にも残っている。
事件の経緯や詳細をネットの解説サイトで復習し、その脅迫テープを動画サイトで聴いてから読み始めた。

作中では、企業名などは架空の名称に変更されている。しかし、物語を読み進めながらそれらの仮称を脳内で自然と変換してしまうほど、グリコ・森永事件の話として違和感無く読める。

主人公が、幼い頃の自分の声が吹き込まれたテープを親の遺品から見つけ、ネットの動画サイトにある「あの大事件の脅迫テープ」と全く同じものであると気付くシーンには鳥肌が立った。
また、作者の「キツネ目の男」についての考察はハッとさせられた。「なるほど真相はそうだったのかもしれない」と思え、その謎解きの要素に惹きつけられてイッキに読んでしまった。

ただし、この作品の目指すところは未解決事件の真相を暴き出すことではないのだと、事件を辿る「当事者」である主人公とともに読み手も気付かされていく。
たとえ時効後であっても、家族自身のために事件を「解決」させねばならない、と。

私も、あの脅迫テープの子供と同世代。作者がインタビューで語っていた「どこかですれ違っているかもしれない」という感覚にとても共感した。
「事件に利用された子供」についても、考えさせられる。

読書記録2016年6月

2016年09月12日 | 書籍紹介と読書記録

仕事を辞めて、有給休暇消化中だったのでけっこう読みました。

翼のある人生 SKY IS THE LIMIT
室屋義秀
ミライカナイ

レッドブルエアレースのパイロットによる自伝エッセイ。
私、エアレース大好きでして。今年(2016年)の千葉幕張大会、1日目の予選のチケットを取って行ってきたんです。
残念ながら強風のため中止になってしまったんですけどね。
本書は、会場での先行販売で買ったものです。
エアレースとは、「空のF1」とも言われるもので、決められたコースを小型プロペラ機で順番に飛んでタイムを競って順位を決めます。車のF1はクラッシュすることが要素の一つになっている雰囲気を感じますが、エアレースは事故に最大限の配慮がされており、安心して観戦できます。
その中で繰り広げられるレースは、飛行機の美しさにも実は注目されていて、大会映像で映し出される小型飛行機の姿はツバメのようであったり猛禽類のようであったり。あと、飛行機の「カオ」も注目だったりします。
そんなエアレースのパイロットだなんて、どんなイイトコの坊ちゃんがなるのさと思っていたら、この室屋選手、普通のサラリーマン家庭出身で、苦労してエアロバティック飛行を続けていたとのことです。
日本でバイトをしまくって稼いである程度貯まったところでアメリカへ行き、そこで飛行時間を得て技術を学び・・・ということを繰返し、スポンサーを得るために営業しまくったというハナシも。かつてテレビでやっていた「マネーの虎」にも出たとか。
アクティブな行動派なのだなぁと感心することしきりでした。
最も、そうでなければ「アジア人唯一のエアレースパイロット」なんて称号はなかなか得られないですもんね。
本書を読んで、またさらに室屋選手のことが好きになりました。
ふくしまスカイパークにも、遊びに行ってみたいです。



空飛ぶ広報室 (幻冬舎文庫)
有川浩
幻冬舎


エアレースの熱が冷めやらぬ頃、「空」モノが読みたくて。
ドラマを1話だけチラチラと観たことがあったので、ドラマキャストのイメージで読みました。ピッタリですね。
メソメソなく主人公、キライじゃないです。
しかしなんともこの有川浩という作者は、どんだけ取材してどんだけのメッセージを込めて作品を産んでいるのだろうと感服します。
本書も、東日本大震災直後に出版予定だったものを、震災を受けてラストシーンを入れたいがために予定を変更したとのこと。作者の取材対象への想いが現れていて、「小説家として、小説で出来ること」をとても真摯に考えている作者なのだと思わせられました。



女子の古本屋 (ちくま文庫)
岡崎武士
筑摩書房

古本屋を開業した女性店長たちへのインタビューレポート。
開業は、アイデア勝負なのだと思えました。


蛍の森
石井 光太       
新潮社

気になっていた本が文庫化されていたので即ゲット。
あの石井光太氏によるハンセン病を題材にした小説だというので。
「なぜ小説だったんだろう?」と、真っ先に思いましたが、現在もかつての病気と差別に苦しむかたが居る現状では、ノンフィクションは難しかったのだろうと思えました。
ノンフィクション作家が小説ってどうなのよとも思っていましたが、ちゃんと面白く読めました。
ただ、どうしても「差別」を考えることより、「事件はどうなっていくのだろう」という展開の方に気をとられてしまって・・・。
本書をきっかけに、ハンセン病・らい病というものの周辺事情を知ってもらえればよいのかなとも思いますが。


HAB本と流通
クリエーター情報なし
エイチアンドエスカンパニー

書籍業界の最新事情が分かる!
特に、直取引トランスビューの様子が良く分かって、とても参考になりました。


桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)
朝井リョウ
集英社

ブックカフェ「ソリッド&リキッド」にならぶ、著者誕生日ブックカバーのコーナーで、自分と同じ誕生日の本を買ってもらいました。
いつかは読んでみたいと思う本だったので嬉しい限り。
なるほど、文芸作品として話題になるだろうと思わされる作品でした。
桐島クンとやら、登場しないままに彼のウワサだけが触れられて、メインテーマは感受性豊かな高校生の気持ちの部分。
確かにこれは青春文芸です!



以上、6月は6冊でした。


読書記録2016年5月

2016年09月09日 | 引退馬と乗馬のこと

本屋さんに戻りたくて戻りたくて仕方なかった頃。
本屋さんにまつわる2冊を読みました。

崖っぷち社員たちの逆襲-お金と客を引き寄せる革命──「セレンディップ思考」-
小島俊一
WAVE出版

経済誌でも取り上げられていました。
本屋さんを舞台(題材)とした、企業再生ビジネス書。
小説仕立てで、とある地方チェーン書店の経営再建を描いています。
実体験を元にしているそうで、とてもリアリティがありました。
主人公は、著者をモデルとしている雰囲気の、出向してきた「デキる人」。でも、現場の女性に「掃除のしかたがなってない!」等の指摘をされて殊勝に反省して改善していく様子など主人公の成長も描いてあり、好感が持てましたし、小説として違和感なく読んでいけるのでオススメです。
再生企業の社長さんへのレクチャーという形で決算書の読み方も登場するので、本書を読んだだけで読めるようになれる気がします。
「特殊な業界だからウチの業界の決算書って難しいんだよね」って、どの業界の人も言うそうです。それを言い訳にして読もうとしていないと指摘された気がします。
時々読み返したいなと思える1冊です。


『これからの本屋』 北田博宏
amazonに取り扱いが無いようなので、独自リンクで。
出版社である「HAB」のページへ跳びます。
独立系書店経営者へのインタビューや、空想の本屋さんのことや、実際の取り組みなどを紹介してあります。
「空想本屋のことなんて読んで何になるんだ」と思いきや、気付いたのですが、「本屋に求めている事柄」が浮き彫りになった気がしました。
「本が買えれば良い」という以外に、人々は本屋に何を求めているのだろうかと考えさせられます。
これも、時々読み返して、「本屋」について考えたいと思います。


以上、2冊でした。


読書記録2016年4月

2016年09月06日 | 書籍紹介と読書記録

桜の季節に、桜な本を読みたくて。
ずっと横目で見ながら通りすぎていた宮部みゆきの小説を、やっと読みました。

桜ほうさら(上) (PHP文芸文庫)
宮部みゆき
PHP研究所
桜ほうさら(下) (PHP文芸文庫)
宮部みゆき
PHP研究所

桜の雰囲気に彩られた世界にどっぷりとひたることが出来ました。
この著者らしく、人間の「気持ち」に光を当てた小説。


以上、2冊でした。


読書記録2016年3月

2016年09月02日 | 書籍紹介と読書記録

2016年3月は、2冊。
個人的な変化がいろいろあった月なのだけど、気持ちが忙しかった割りに意外にもゼロ冊じゃなかったな。


文庫版 小説 土佐堀川 広岡浅子の生涯 (潮文庫)
古川智映子
潮出版社


朝ドラ、録画して観てました。めっちゃ面白くてハマったので、原案本も読まなくちゃと思って。
五代サマは完全に脳内でフジオカ的なカンジになっておりました。
小説ですが、ドラマ性はやはり朝ドラの方が高くて面白かったのですが、しかし明治期の女性実業家。
実物もとても面白かったです(・・・とはいえコチラも「小説」ですが)
カッコイイ女性、好きです。


どうしよう
壇蜜
マガジンハウス

けっこう壇蜜さんのこと、好きです。
淡々としていながら、人間の裏側をしっかりと見据えているのだけど、それを悲観していない雰囲気が。
クラスにこんなコがいたら、ゼッタイお友達になってもらいにいくなーと。


以上、2冊でした。