不適切な表現に該当する恐れがある内容を一部非表示にしています

たそがれオヤジのクタクタ山ある記

主に北関東の山を方向音痴で歩いています。山行計画の参考にされても責任は負いかねます。深慮せず軽く読み流してください。

なぜか散々、鳥海山。

2016年09月13日 | 東北の山
◎2016年9月10日(土)

湯ノ台口……滝ノ小屋……河原宿小屋……あざみ坂……伏拝岳……行者岳……七高山……新山……(復路は往路戻り)……湯ノ台口  ※経過時刻は恥ずかしながら敢えて記しません。

 週末は久しぶりに東北に行くつもりでいた。真昼大滝か鳥海山。鳥海山は23年前に登ったことはあるが、最初から最後までガスに巻かれ、時たまに吹雪いたりと、鳥海山の景色の記憶はほとんどなく、ただの百名山○一つ追加で終わっている。最近、ハイトスさんや雪田爺さん、Yoshiさんの記事を拝見し、鳥海山とはこんな山だったのかと改めて認識した次第で、いずれ登り直ししないとなぁと思っていた。実は、これからは、鳥海山に限らず、これまで天候に恵まれずに登った山々を、別ルートで歩いてみたいと思っている。
 真昼大滝、鳥海山のいずれでもよかったが、遠方ゆえ、たまには賑やかに歩きたいと、つい気が緩んでS男さんとI男君に声をかけたら、鳥海山に行ってみたいとのこと。真昼大滝はそのうちに一人でゆっくり楽しもう。こちらとしては、I男君を連れて行けば、往復の車の運転を任せられるといった打算的な思いもあった。
 それはともかく、男三人の歩きとなったらゆっくりもしたい。I男君から山小屋に泊まりたいという希望があったので、余裕歩きにしようと、金曜日は皆さん休みにし、当日は遊佐町の旅館に泊まり、翌日は大物忌神社に泊まって帰るという行程にした。コースは雪田爺さんのいくつかの記事を参考に、<二ノ滝コース→万助道合流→鳥海山(泊)→笙ヶ岳→長坂道コース→一ノ滝駐車場>とする。滝を続けて見られる二ノ滝コースが楽しみなのだが、増水時は危険になるらしい。当然、雨になったらパスにして、通しの万助道歩きになる。
 気になったのは、二人から何ら異論やら意見がないこと。自分としても手強いコースかと思っているが、一泊なら無理はないだろう。S男さんはともかく、I男君には、過去にも何度か手痛い思いをさせられている。出発前にK女さんから「見捨てることも忘れずに」とアドバイスメールをいただいたが、自分から誘った以上、そんな人的な行動に出るわけにはいかない。結局は、あの二人の出方次第、歩き方次第だなと、一人で行っていればいいものを、余計な結末になりそうだなと、つい思いを巡らしてしまう。そうなったら、そうなったで、思い出に残る歩きになるだろうけどね。しかし、まさか、まさにそんな展開になるだろうとは思いもしなかった。

(胴腹滝)


(石仏)


 関越道を経由して遊佐町には2時過ぎに着いた。まだ早いので胴腹滝の見物がてら一ノ滝駐車場の下見。その時は晴れてはいたが、路面が濡れていて、ここ数日、ずっと雨だったようだ。この時点で二ノ滝コース予定は消えてしまった。
 胴腹滝はパワースポットらしく、一人で来たら憶してしまいそうな雰囲気が漂っていたが、その場にそぐわない真新しい手書きの「マムシ注意」の看板を見てしまってからは、何となくその辺の滝といったイメージになった。ただ、苔むした中にひっそりと置かれた石仏は、それだけでも存在感がある。左右の水の味の違いは微妙なところ。一ノ滝駐車場は舗装された広い駐車場だった。朝は雨だったらしく、車は一台もない。
 この山形県遊佐町、かの石原莞爾の墓所のある所で、できればそれを見てみたいと思っていたが、町の通りを車で走らせている間に墓所の案内板を見ることはなかった。次の機会にでも訪れよう。この石原莞爾、満州事変を首謀した張本人とされているが、自分にはえらく興味のある人物なのだ。二人は石原莞爾のことなんぞ知らないだろうから黙っていたが。

 宿の食堂には先客がお一人。今日は月山、明日は鳥海山とのこと。このオッサン、酒量が増すにつれ饒舌になり、やたらと「バカ」を連発し、我々をこき下ろし始めたので付き合いきれずに早々に部屋に戻った。その間、宿のおカミさんが「アザミ坂」を登って鳥海山に行ったら、かなりきつかったとおっしゃっていたが、アザミ坂というのはどのコースにある急坂なのだろうか。
 部屋に戻ってコースを再検討する。明日の天気はどうも芳しくない方向に向いている。やさしげな湯ノ台口コースも選択肢となりそうだ。その場合、時間もあることだし、すんなりと山頂に向かうより、途中から月山森に抜け、鳥海湖経由にした方がいいだろう。地図を見ると、湯ノ台口コースの上の方に「薊坂」があった。この坂のことか、きついのは。あのオッサンは祓川だったから歩くようなことを言っていたから、そこだけはやめておこう。またつかまりたくはない。それにしても祓川というのは、ここからかなり遠いんじゃないのか。一番楽なコースだと言ってはいたけど。もちろん、その後に「そんなことも知らないのかバカ」と続く。

 朝起きたら雨が降っていた。弱い雨ながらもこれでは万助道コースも難しかろう。それ以前に、すでに二人には短時間で登れそうな湯ノ台口コースしか頭にないようだ。自分とは趣向が違い過ぎる。ここは仕方ない。折れる。後で足を引っ張られる形になるのではやっかいだ。念のためGPV気象予報で雲の動き予想を確認。雨雲が11時過ぎまではかかるようだ。12時には消えている。宿で用意してもらった弁当をザックに入れて湯ノ台口の駐車場に向かう。オッサンの品川ナンバーの車はすでにない。

(駐車場から。右の山腹に滝が見える。現物はもっと大きく見える)


 湯ノ台口までは40分ほど。駐車場には車が12~13台ほどか。雨は上がり、青空も覗いている。周辺の沢水があふれ、駐車場はかなり濡れている。山腹に滝が見えた。結構な落差だ。準備中の方が数人いたが、天気を見極めている感じで、なかなか出発しない。こちらは登山届を投函してすぐに出発。7時ちょうどだ。単独のオッサンが先行する。

(うっすらと紅葉が始まっている)


(沢の流れは速い。量も多いのでは)


(石畳の登山道。滝ノ小屋まで続く)


(滝ノ小屋)


 今日のザックは重い。泊まり関係の荷物が半分はある。肩に食い込む。石畳の登山道は歩きやすいが、油断すると水濡れで滑ってしまう。この石畳の道にも、ところところで沢水が流れ込んでいる。昨夜から未明にかけて、かなりの雨だったのではないだろうか。やはり一ノ滝コースは無理だった。木漏れ日を浴びた木の葉がうっすらと色づきはじめている。紅葉も、もう一か月もしないうちに盛りになるだろう。
 沢には板が渡されている。水の流れは速い。ここの登山道は整備されている。空の青味は消え、雨が降り出す。そして、ほどなくして滝ノ小屋に着いた。中を覗くと無人だが、きれいに整理され、さっきまで人がいたような気配。泊まったハイカーがいたのかも。
 雨は一時的と思ったが、どうもそうでもないようだ。ここで合羽を着て、ザックカバーをつける。I男君が険しい顔をしているが大丈夫だろうか。気になった。歩き出してすぐに右脇腹が痛くなったそうだ。そのうちに治まるのではないか。

(小屋先の滝。滝ノ小屋の「滝」はこれだろう)


(滝ノ小屋を振り返って)


 登山道はグチャグチャになっている。石伝いながらもちょっとした渡渉もある。これを繰り返す。靴はたちまちのうちに濡れたが気にしてはいられない。右に大きな滝が見え、やがて左に「横堂」分岐。後で調べると、南の鳳来山経由のルートのようだ。これが本来のルートだったのではないか。車道が通って、この省略コースができたというところだろう。今歩いているところは八丁坂というらしい。真に受ければ870mほどの距離になるか。至ってなだらかだ。

(ガスが濃くなった)


(最初の石祠)


(道はグチャグチャ)


(河原宿小屋)


 前方はガスで見えず、滝ノ小屋を振り返ると消えつつある。道端に石祠があった。やはり、ここは古くからの登山道だ。
 たまに横殴りの雨になる。I男君はしきりに痛みを訴え、休みがちになる。トップで歩いていたのが、S男さんにどんどん離されていく。こちらはゆっくり歩きゆえ、至って快調。息切れすらしない。またグチャグチャを通り、増水した沢の脇を通って河原宿小屋に着いた。ここまで1時間25分。コースタイムは1時間20分だから、天候を考慮すれば順当だろう。
 小屋の中を覗くと、同時出発のオッサンと2人連れが休んでいた。この小屋、床が抜け、使い物にはならない。確か閉鎖のはず。半端な腰かけでの休憩も落ち着かない。外に出てタバコを吸う。火の付きが悪く、タバコもすでに湿気っている。
 ここでI男君がギブアップ。腹の痛みは治まらず、車に戻るとのこと。無理強いをするつもりはないので、ハイ了解。他のハイカーもいるし、一人で下れないこともあるまい。小屋に泊まりたがっていたのはI男君だ。これで日帰りに変更。こちらとすれば、無理に泊まらずともに日帰りできるのならそうしたいと思っていた。ある意味、I男君の脱落はむしろ歓迎だ。しかし、この泊まり用の荷物半分はどうすんだい。歩きはまだ触り部分だよ。ザックカバーを付けても、水を吸って、ザックはかなり重くなっている。ついでに泊まり用の荷物を持って帰ってくれないかと言いたいところだが、病人には酷だろう。山小屋のキャンセルだけを依頼して別れる。

(月山森分岐の標柱)


(また石祠)


(雪渓が出てくる)


(続いてこちらにも)


 前を淡々とS男さんが歩いて行く。周囲は白い世界だ。月山森の分岐に差しかかる。この天気の状態では、より早く山頂に向かった方が賢明だろう。迂回は下りで想定してもいいし、あるいは、一ノ滝駐車場に下るという手もある。幸いにも携帯はdocomoならつながるところだ。後で、I男君に一ノ滝駐車場に回って待機してもらうように連絡するか。そのうちに雨も上がるだろう。
 この辺からあざみ坂だろうか(その時はそう思ったが、地図をよく見ると、あざみ坂は外輪山と接する直下の一部分になっている)。また石祠があって、沢脇のゆったり斜面を登って行く。ペンキや赤テープを巻いた石があちこちにあって、見落とさない限りは視界が悪くても問題なく歩ける。やがて右下に雪渓が出てきた。そして左にも雪渓。南側なのに、この時期にこんな大きな雪渓が残るということは、相当な積雪なのだろう。

(登山道が川になっている)


 S男さんが遅れがちになってきた。一年ぶりの山歩きらしい。何やかやと用事で歩けなかったようだ。後ろを歩いているのがまだるっこしく、自然、先に行っては待っているスタイルになってしまった。自分にはこれが楽だ。そのうちに、単独氏2人に抜かれる。1人は出だし一緒のオッサン。上からも4人ほど下ってくる。泊まりだろうかと思ったら、雨で引き返し。ちょっとばかり賑やかになった。ところでこの雨、予報では後2時間弱の辛抱だが、風が強くなっているのはいったい何なのか。カメラレンズが濡れ、それを拭く手拭いも濡れているから、レンズ濡れのままに写真を撮るしかない。これではろくな写真が撮れない。

(まだ生き残っているアザミ)


(相変わらずの景色)


 次第に急になる。登山道はところどころで沢になり、水が流れ込む。小さな雪渓も残っている。そして、咲きが終わったアザミがそこかしこに。なるほど、だからアザミ坂なのか。
 また単独氏に抜かれた。S男さんを待つ時間が次第に長くなる。手持ち無沙汰に手袋と手拭いを絞ればかなりの水が落ちる。手拭いは合羽のポケットに入れているのに、この状態では合羽の役目も果たしていないようだ。

(こんなのも)


(ナナカマドの実)


(外輪山の稜線に出る)


 三つ目の石祠と赤くなったナナカマドの実。あたりは草紅葉に近づきつつある気配。晴れていたらなぁとつくづく思う。伏拝岳山頂の標識が見え、外輪山の稜線に出た。石祠があるし、これが伏拝岳だろう。標識には、右手方向に薄くなりかけた「行者岳 山頂」の文字が記されている。左は「七五三掛 御浜」となっている。正面にあるはずの新山すら見えていないので標識のみが頼りだ。ここまでのあざみ坂、S男さん待ちタイムが何度もあったため、たいした坂には感じなかった。一気に登ったらバテるだろうけど。

 今10時45分。コースタイムの15分遅れ程度。S男さんの到着を待つ。雨は霧雨レベルになり、合羽のフードはもう不要。宿の弁当を取り出す。開けてがっかり。セロファンの巻かれたコンビニおにぎりが2個と一口の漬物と小粒の梅干し。これが税別600円。しぶしぶ食べていると、河原宿小屋で雨宿りをしていた2人連れが上がって来た。私の相方、見かけませんでした? 今、抜いたところですよ。自分の到着から20分後にS男さんが到着した。着くなり、石にぺたりと座り込んでしまった。相当に疲れ切っている。声をかけても無言。こちらも話しづらくなってしまった。
 実は、待っている間にI男君にメールで一ノ滝駐車場に回ってくれと依頼した。このS男さんの姿を見て、すぐにキャンセルを入れた。そのままで待機してくれと。もう仕方がない。湯ノ台口ピストンか。月山森迂回すら無理だろう。がっかりだ。

(少し明るくなったかな)


(視界も広がった感じ)


 先の行程の打ち合わせもしないままに出発した。これが失敗。新山は見えないので、当然、S男さんも稜線伝いに七高山に向かうと思っていた。たまに振り返ると、その姿も視界に入っている。七高山で待っていれば来るだろうと先に行く。
 また雨が降り出した。フードをかぶる。足場はガレだが歩きづらいわけでもない。ところどころに短いハシゴも設置されている。行者岳の標識を通過。単独のオッサンが下ってきた。交わす話題はやはり雨。

(そしてようやく晴れた)


(ケルンのモニュメント)


 突然、雨が上がって、薄日が差し込み、青空がぽっかりと覗いた。11時27分。GPV予報にほぼ合っている。先にうっすらと七高山が見え、先行の2人連れの姿もはっきり見える。やれやれだった。もう雨の心配はあるまい。大きなケルンのモニュメントを通過。山名板らしきものがはめ込んであるが、文字は消えている。ハイトスさんの記事で知ったが、ここは百宅口コースからの合流点のようだ。下って来るハイカーが数人。新山と大物忌神社の山小屋棟が見えてはすぐに消えた。

(あそこが七高山のピークだろう)


(七高山山頂)


(先のピークから七高山)


 新山への分岐を通過。ここでS男さんを待っていればよかったが、どうせ七高山に来るだろうと、さっさと先に行く。11時45分、七高山に到着。石碑やら三角点で賑やかな山頂だ。「先祖代々之霊位」というのがあったが、これは何だ?
 山頂には5~6人。長居する方はあまりいない。先ずは合羽を脱いで、ザックカバーを外す。ザックがさらに重くなった。ザックの中はかなり湿気っぽい。そして一服。タバコを吸っていたら、オニイチャンがやって来て、火をくれとのこと。100円ライターでは火が付かないようだ。自分のはターボライターだ。北側のピークが気になって行ってみた。こちらには石碑と那智山青岸渡寺のお札。七高山に戻る。S男さんはまだ来ていない。

(向かいの新山)


 北東のコースから何人か登って来た。まさかとは思ったが、こっちから登って来るはずの宿のオッサンの姿は見かけない。皆、合羽は着ていない。雨にあたらなかったのだろうか。3人連れのオバちゃんと雑談。向かいの新山ピークには人だかり。S男さんはいったいどうなってんだい。気が気でない。いらいらしてきた。I男君に電話をかけ、S男さんの捜索を依頼する。しばらく経ってから、S男さんは新山に向かっているとのこと。何だそりゃ。しかし、そうだろうな。初めての山なら、まずは標高の高いピークを目指すものだ。しっかりと打ち合わせをしなかったことを後悔した。オバちゃん達に見送られて新山に向かう。自分としては新山に行くつもりはなかった。七高山でつぶした時間は40分。

(新山、山小屋は右下)


(下って雪渓)


(新山を見上げる)


(新山山頂。S男さんは左の岩峰に攀じ登った気配がある)


 さっきの分岐に戻り、下って登ることになる。ガレやらザレで歩きづらい。ここにも雪渓。登りにかかる。角張った大石がゴロゴロして、雨なら極めて危険。ヨタヨタと下って来る年寄り夫婦。下でしばらく待っていると、アリガトウの挨拶もせずに脇を素通りして行った。怒鳴りたくなるのをこらえて舌打ちだけにした。
 危うげな山頂には空荷のハイカーが10人ほどいた。下に荷物を置いて登って来たのだろう。グループもいて、えらく騒々しい。我が物顔だ。だから自分は来たくなかったんだよなといっても仕方ない。S男さんの姿は見えない。もう下ったのだろうか。山頂で待つこと2分。自分が登った逆方向からS男さんが顔を出した。何でも、新山のピークを間違え、隣のだれも登らないような岩峰に登ってしまったらしい。それで遅くなったとのこと。まぁ、これで何とか合流できた。

(大切通し岩。自分は通っていない)


(くどいけど、さっきよりは青も強くなったので)


 さて、これからのことを伝える。来た道をそのまま下りますよ。S男さんがキョトンとしている。まさか小屋に泊まるおつもりでは? と思ったら、案の定それだった。小屋のキャンセルはI男君一人分と思っていたようだ。まさか、そういうわけにもいかないでしょう。車の中とはいえ、I男君が駐車場で一夜を明かすことになる。ましてまだ1時。順当に下れば4時には駐車場に下れる。S男さんには、このオレが鬼に見えたのではあるまいか。

(稜線に登り返す)


 外輪山の分岐に向かう。S男さんの歩きが一段と遅くなった。下って来る3人組がいた。S男さんを待ちながら眺めていると、その中の女性が足を踏み外して転倒。一瞬、ひやっとしたが、運よく、下の平たい岩の上に尻餅をついて転げ落ちから免れた。本当にラッキーだったとしか言いようがない。
 分岐に出て待つ。今日はとにかく待つ、待つ、待つだ。K女さんの「見捨てることも忘れずに」の言葉が脳裏をかすめる。できるならそうしたい。登って来たS男さん、かなりヘロヘロになっている。泣きっ面にハチで、新山からの下りでヒザを痛めてしまったそうだ。これはまずいなぁ。小屋泊まりなしのショックもあったのだろう。いよいよ見捨てられなくなってしまった。だが、小屋に泊まるわけにもいかない。下りに厳しい所はない。ここはがんばってもらおう。

(雲海の下に里が見える。日本海も雲の下か)


(新山と山小屋)


(外輪山の一角。向こうは日本海)


 ストックを持っているのに出しもしないから、ストックで下るように促す。ようやく気づいたようにストックを出す。意識も朦朧か? 分岐までかなりの距離のように感じる。S男さんの歩きの様子を後ろから見ていると、ちょっとでも石があるとへたってしまう。ヒザの屈伸ができない状態らしい。本人が一番わかっていることだろうし、なんやかやとアドバイスじみたことは言うまい。ましてや初心者ではないのだし。明るいうちに下れればいい。

(分岐から下る。ここで気づいたが、河原宿小屋が見えている)


(団体さん)


 ようやくアザミ坂の分岐に着いた。オニイチャンが2人いた。御浜に下るところだ。S男さんがまたペタリと座り込む。その間にオニイチャンたちの写真を撮ったり、例の2人連れがアザミ坂を下るのを見送った。
 御浜の方から13人のグループが登って来る。確実に小屋泊りだろう。それを見てほっとした。グループの方々との小屋泊まりはゴメンだ。ましてオバちゃんがほとんどだった。

(下りの左手)


(振り返る。ここがあざみ坂であることは間違いない)


(下から3基目の石祠)


(登山道も乾きだした)


 S男さんにはそんな気分にはなれないだろうが、青空の下、いい気分の景色を味わった。続く外輪山、雲海、裾野を広げる山肌。やはり着実に色付き始めている。なかなか雄大な景色が広がっている。だが、雲はまだ多く、日本海も月山も見えない。これが朝からだったらなぁ。残念。
 後続にどんどん抜かれては遠ざかる。こちらは病人の付添いだ。あせらずゆっくり。どうも人の倍以上の時間をかけ、あるいは、往路時よりも時間が相当にかかっているのではないのか。明るいうちに下り着くのが不安になってくる。駆け下りたい気分に衝動的にかられる。やはり、先に行って待っているスタイルのがいいのではないのか。真後ろをヒタヒタとくっついて歩かれたのでは、S男さんも気も休まるまい。たまに距離を開けようと、タバコを吸って時間稼ぎをしても、すぐに追いついてしまう。

(石に赤テープを巻いたのがあちこちに置かれて目印になっている)


(ネエちゃん2人)


(雪渓。どうしてもガスがかかっているようになってしまう)


(こちらははっきり)


 上り時のように、登山道が水をかぶっているところはない。あっという間のものだ。雪渓で出てきて、ネエチャンが2人登って来る。すでに3時半は回っている。ゆっくり写真なんか撮っているけど、山小屋泊まりだとは思うが、遅すぎではないのか。
 一時的にガスがかかったりするが、すぐに消える。ただ、確実に暗くなりつつある。雪渓でスキーを滑っていたオッサンが帰り支度をしている。あの雪渓、石ころだらけで板を痛めるのではないだろうか。

(結構、目に付く)


(河原宿小屋。薄暗くなってしまった)


(小屋の中)


 さっきからずっと見えてて、ちっとも近づかなかった河原宿小屋に着いた。4時40分。分岐から2時間近くかかっている。小屋の前で休んでいると、さっきのスキーのオッサンにいろいろ聞かれた。後ろの方はお連れ? どうも気にされているようだ。事情を話すとご苦労さま。地元の山岳協会の関係者ではあるまいか。見捨てはしませんよ。
 I男君からひっきりなしにメールが届く。S男さんのことを気にかけている。一時は行方不明をメールしているから余計だ。今朝、ここの河原宿小屋から引き返す際、ゆっくり歩いて40分だったそうだ。S男さんがやってきてまた座り込む。後ろから3人組。ここから駐車場まで40分かぁと言っている。

(ようやく日本海)


(広々。とうとう月山は見られなかった)


 日本海が見えてきた。ここに至って夕暮れ時の日本海か。振り返ると、雲が次第に低くなっていて、上は見えない。日没と雲に追いかけられているようで、気分はあせり気味。心の中で、S男さん、走れませんか?と急かしている。S男さんはこける回数も多くなってきている。もう一時間、がんばってよ。

(滝ノ小屋に着く。もう夜になってしまった)


(これだもんな)


 やはりこれもまた遠くに見えたまんまの滝ノ小屋がようやく近づいた。ここで最後の単独氏に越される。後ろにハイカーはもういない。このハイカーとて、この時間に歩いているのが不思議なくらいだ。滝ノ小屋では電気が点いている。泊まりがいるようだ。ここで百名山バッチを売っているようだが、どうもそんな気分にはなれない。
 さて、ここからは石畳の道だ。S男さんのヒザには、さほどの負担もかかるまい。ここまで、石がゴロゴロしていた。S男さんが休みかけたので、我慢していただき、先に進む。と、S男さんはあらぬ方向に歩き出した。さっきもそうだったが、下りでは鳳来山のルートについ引き込まれてしまうようだ。この先は分岐もないので、大丈夫だろう。
 石畳道に入ると、もう暗くなった。月夜だったらヘッデンも不要だろうが、足元は暗い。だが、ザックからヘッデンを出すのさえ、自分も含めて億劫になっている。そもそもこの暗闇で、パンパンのザックの中からヘッデンを取り出すのは至難の技だ。間違えば、取り出した拍子に、他の物が転げ出てなくしてしまう可能性もある。無灯のまま下る。暗くとも何とか下れるが、この期に及んで、その辺からクマが出てきたらどうしようといった思いも出てくる。S男さんとの会話がなくなって久しく、音を出すのは、S男さんのザックに付けたチャリン、チャリンだけだ。

(何とか帰還)


 なかなか、車道に出ない。道を間違えたのではないかとも思った。もしかして、S男さんが行きかけた道が正解? 沢に渡された板を見てほっとした。間違ってはいない。もう少しだ。I男君に迎えに来てもらおうか。S男さんを闇の世界に置き去りにし、さっさと駐車場向かう。駐車場ではI男君が外で待っていた。もう真っ暗だ。S男さんを迎えに行ってよと依頼したが、彼とて、暗がりに入り込むのは嫌と見え、登山口で突っ立って待っている。その間、こちらは一服つけていた。車が3台ほど置かれたまま。やれやれ、とんだストレス山行だったわい。
 今、6時35分。河原宿小屋からは40分どころか1時間40分もかかってしまった。暗がりの登山口から腑抜け状態になったS男さんが足を引きずってようやく現れた。
 朝、この駐車場に向かいながら、帰りに「鶴間池」でも寄って行こうかと話をしていた。これから行ったのでは手探りで何も見えやしない。月はおぼろで、星もまたキラキラ状態ではない。

 I男君は、車に戻ってから、ずっと寝ていたとのこと。陽が出てから、合羽を乾したようだが、それほどの日照時間でもなく、山頂方面が覗いたのはほんの一瞬だったらしい。
 下に出て、今夜の宿探し。運よく鳥海温泉の素泊まりが見つかった。そこに着くまで、饒舌なI男君とは違って、S男さんは終始無言だった。オレのこと、怒ってんじゃないのかと気になったが、ただの疲労と痛みに由るらしい。

(翌日の鳥海山)


 翌日、日本海沿いにしばらく車を走らせる。海の上にぽっかりと浮かんだ鳥海山。今日だったら最高の気分での歩きができたろう。もっとも、二人に何もなかったらの話だ。いずれまた来直しだな。一人で。

 鶴岡に入ると、やたらと警官と日の丸の小旗を持った市民の姿が目についた。若い私服警官に聞くと、天皇、皇后ご一行が通過するとのこと。たいした興味もなく先に行くと、老舗風のホテルの前に人だかり。また聞くと、ご一行はこのホテルから10時にご出立だそうだ。日本国の象徴を目の当たりに拝謁したことはないので、駐車場に車を置き、小旗を持たされて市民の群れに加わった。警備は厳しいものではなく、鋭い目つきの方にも気づかなかったが、山形県警の警官が旗の振り方を指導したり、カウントダウンするのには笑ってしまった。象徴さんは絶えずニコニコした、小柄なかわいい感じのおじいちゃんだった。好々爺と言ったら失礼か。
 ここまで来たついでにクラゲ水族館に寄って帰途につく。S男さんは、I男君からロキソニンをもらって飲んだら一発で痛みが消えたとかで、しゃきっとして、終始にこやかでいらした。

※内容的に「いくら何でも…」「そこまで記して…」といった箇所があるかとは思いますが、ご当人たちの了解を得ての記述です。自分には「これでも…」といった気分があるのは確かです。

コメント (20)    この記事についてブログを書く
« やはり大小山は暑かった | トップ | 吉見町ぶらぶら歩き。ヤブ蚊... »

20 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (でん)
2016-09-14 01:01:06
「たそがれオヤジの珍道中」、失礼とは思いながらも楽しく読ませていただきました(笑)
いいですね~鳥海山。
予想していた通りに思い出に残る山歩きになりましたね。
返信する
鳥海山 (ハイトス)
2016-09-14 01:28:41
タイトル画像を見て好天だったとおもったのですが。
前半は雨にたたられたのですね。
それにしても同行者のアクシデントはしょうがないとはいえ運が悪かったとしか。
S男さんのつらさは身に染みてわかります。
T-ファミのときの私の立ち位置ですから。
見捨てないでくださいな。(笑)
3度目の鳥海は散々でしたが4度目は紅葉の時期にでも。
でもそろそろその時期ですね。
返信する
同情しますので (サクラマス)
2016-09-14 03:07:49
1人なら何てことはないでしょうがブランクが長く体力的に問題あれば、これも致し方ないです。私も60過ぎの方との山行が多いのでお気持ち察します。それでもどうにか降りれたので勘弁ですね。宿泊準備が無駄になってしまいましたね。
返信する
でんさん (たそがれオヤジ)
2016-09-14 05:44:23
でんさん、こんにちは。
珍道中なら、おもしろおかしくのイメージでそれなりに楽しいものでしょうが、苦痛、ストレスといった言葉をつい思い浮かべるような道中でしたよ。
今度、こんな歩きだけをまとめて特集を組んでみたいものです。登場人物がいつも同じといった形になるような気がしますが。
鳥海山は素晴らしい山だと再認識いたしました。できれば、あの広い斜面の紅葉を見たいなと思っております。
返信する
ハイトスさん (たそがれオヤジ)
2016-09-14 05:51:56
ハイトスさん。こんにちは。
冒頭の写真を見れば、だれでも好天の鳥海山歩きとなるでしょうが、しかし、雨の中の歩きというのはみじめな気分になって嫌なものですね。まして、荷物もどんどん重くなるし。
歩きにながら、ヒザ痛のハイトスさんを思い出したりしましたが、やはり、日頃歩いている方と、そうでない方とのアクシデント時の歩きというのはまったく違うものですね。
ハイトスさんの場合は、多少の遅れといったレベルだし、今回の場合は40分が1時間40分のパターンですよ。
もう9月の半ばで。見事なすっきり紅葉をまた東北の山に求めようと思っております。
返信する
サクラマスさん (たそがれオヤジ)
2016-09-14 05:56:37
サクラマスさん、こんにちは。
サクラマスさんも、引率構成ではこういったパターンがあるだろうなとはお察しいたします。
ここで、君、さん付け区分にはなっていますが、実は2人ともに私よりも若手なんですよ。
確かに一年ブランクの鳥海山はきついでしょうね。
まあ、勘弁も容赦もないのですがね。
荷物が半分だったら、おおらかにがんばってよでいけたかもしれないのですが(笑)。
返信する
ドタバタ・いらいら登山 (K女)
2016-09-14 09:45:34
やってくれましたね、お二人さん。
いつも、情報準備万端なS男さんなのに、どうしたのでしょうか?事前準備登山もしたりしていたのに、慣れてきたからなのかな。山小屋までと思っていて、帰ると言われた時のショックは分かる様な気がします、腰も砕けるよね。
I男君、お~い、遊びすぎで体力なくなっているのでは、まだ40代でしょ、リタイアは悲しいね。いつも言っている山小屋泊まり、言い出しの人が車で昼寝では、しょうがないよ。

私の流した、「見捨てることも忘れずに」は、無理そうなら引き返させてあげてと言う意味です。S男さんも、山小屋まで行けば楽になると思っていたから、無理をしてしまったのでしょう、でも、後遺症にならなくて良かった。読んでいて私の本音は、参加は無理だったなと、じみじみ感じているところです。
返信する
途中下山 (I男)
2016-09-14 10:12:35
たそがれおやじさん…本当にお疲れ様でした。
久しぶりのたそがれおやじさんとの山登りかなり楽しみにしていたのですが。。。歩き始めた途端あれ?腹が痛い!少し歩けば治るだろうと思っていたのですが…いつもは辛い時はたそがれおやじさんの励ましで、どうにか持ち堪えるのですが今回は痛みがますばかり…ここで引き返さないとヤバイと感じて苦渋の決断を…
ただ下山して薬を飲んで痛みが治まった時は、駐車場で1人で待ってる時は暇だし寂しいし…ちょっと下山した事を後悔しましたが良い経験になりました。
少し修行をして…リベンジです!
とにかく今回も本当にいろいろとありがとうございました。
これに懲りずに…また誘って下さいm(_ _)m
返信する
K女さん (たそがれオヤジ)
2016-09-14 10:52:26
K女さん、こんにちは。
結果的にあのコースでの往復なら、K女さんにも無理はないと思いましたけどね。当初予定のコースならかなりきついですけど。
「見捨てることも忘れずに」はそんな意味深長なお言葉でしたか。私には「=置き去り」と聞こえましたがね。引き返しにしても、一方はいさぎよしすぎるし、もう一方は限界ライン上をずっと歩いていて、引き返しの概念というものが沸いてこない。まして、今日の最終目的は山小屋だと考えれば、嫌が上でも先に行きますよ。それを考慮すれば、私の日帰り変更は、鬼の断罪に思えても仕方がないでしょうね。ある面では、大変失礼なことをしてしまったとも思っています。でも、いさぎよい男のことを考えると、どうにもならなかったというところになるのですが。
下山後に、私、母から聞いた話ですが、母の友達の甥御さんが高校生だったかの時、友達グループで鳥海山に登り、ガスに巻かれて散り散りになり、結果的に甥御さんだけ下山できずに亡くなったとのことです。
この話を聞き、まさに置き去りにせずに良かったなとは思っているのですが。まさか、そんな気分は起きませんでしたけどね。
返信する
I男君 (たそがれオヤジ)
2016-09-14 11:08:29
I男君、こんにちは。
先日はご苦労さま。さらに中継基地のサポートまでしていただいて助かりました。
もはや、自分もまた他人様にアドバイスをしたり、励ましの言葉を与えるといった立場でもないので、体調が悪いと知った時、何らいたわりの言葉一つも出ずに失礼しました。
歩き出しから雨では、気分もすっきりしないし、そんなことが体調にも響いたのではと思っているのですが。
あれが、もっと上でのことなら、「今日の登山はもうやめましょう」となり、鶴間池の探索やら、猛禽類保護センター見学にでも変更になったでしょう。その意味では、I男君の早い決断は正解だったのではないでしょうか。
まぁ、その後の展開がこういったところなのですが、今回の歩きほど、時間との闘い、つまりは日没を迎える怖さというものを意識したものはなかったですね。
「懲りずに」は、現時点では、つまりはI男君次第ということになるでしょうね。
返信する

コメントを投稿

東北の山」カテゴリの最新記事