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『コンビニオーナーぎりぎり日記』

2024年01月26日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介] 

三五館シンシャの職業日記シリーズ、
第18作目(多分)。
この日記シリーズ、
普通知らない職業のことを知ることが出来るのはいいが、
総じて筆者の文章がヘタなのが難。
ただ、本書はなかなか血の通った文章で、
気持ちが伝わって来る上出来な一冊。

以前、「コンビニオーナーになってはいけない」という本を紹介したが、

これは、それとは違う雰囲気の本。

筆者の仁科充乃(にしな・よしの) さんは、
1990年代に、
夫婦でファミリーハート(どう考えてもファミリーマート)のオーナーになり、
30年継続。
次の契約更改をするかどうか、迷っている。

テレビ番組などで、
コンビニ経営の大変さは
情報が入っているが、
30年の豊富な経験からの体験談は貴重だ。

何が大変かというと、
仕事が多すぎる
本部から送られて来る商品を
確認し、仕分けし、棚に並べ、売るだけでなく、
チキンを揚げたりの作業もしなければならない。
宅配便の受け付けもするし、
チケットや預かり荷物のお渡し、
公共料金やネット通販の送金もある。
廃棄物の処分、清掃、本の返品作業。
配送は日にトラックが何回も。
1便、2便、3便、
常温便、パン便、冷凍便・・・

コンビニが多くなり過ぎたために、
客の取り合いだけでなく、
従業員の奪い合いも起こる。
そのシフトの作成も大変だ。
パートやバイトは慢性的に不足。
シフトに空きが生じた時は、
オーナー自らが埋めなければならない。

従って、普通のサラリーマンのような家族の団欒など出来ない。
夫婦でやっている店は、
そのどちらかが店に出ていなければならないからだ。

仁科さんの店は、
夜9時から奥さんが店に入り、
10時からワンオペ(一人で店を回す)。
午前4時に夫と交代。
家に帰って寝る。
その間に子供の世話もしなければならないし、
近所の付き合いもしなければならない。

この夫婦の場合、
ご主人は9年休みなし
奥さんは連続1057連勤だ。

コンビニ1店舗あたりの平均売上は、
セブン・イレブン約65万5千円、
ローソン約43万6千円、
ファミリーマート約48万9千円。

契約形態には、2種類あり、
1FCは土地と店舗はオーナー持ち。
2FCは土地と店舗を本部から借りる。
ロイヤリティ(もうけの中から本部に支払う分)は前者36~49%、
後者は65~70%。
働いて稼いだ分の半分から3分の2は、本部に取られる。
契約期間は10年。
契約を継続すると、
改装費800万ほど、
10年間貯めた貯金を吐き出すはめになる。

大きな借金をして店を始め、
借金がなくなったころ、
契約が切れ、
再び借金をしてリニューアルオープンし、
やっと返済が終わったころ、
再契約の時期が来る・・・
を繰り返す。
これは、もしや昔の小作人と同じ?
と思うことがある。

店じまいを決めた人の言葉。

「蓄え? あるわけない。
うちは借金をして始めて、借金返して終わり。
20年やってマイナスにならなかっただけ良かったよ。
でも、もう経営者はコリゴリ」

本部が応援する開店3日間の売上は全部本部のもの、
というのも不思議。
そのことを知った親戚は、
「あんたたちのもうけになると思って、沢山買った。
知ってたら、4日目以降に買ったのに」と。
開店ご祝儀で、
オーナーにあげたらどうなのか。

始めてしばらくは、
人間不信に陥ったという。
客の見下した態度、暴言に傷ついたのだ。

コンビニの仕事を始めて、
私は心が確実に汚れていくのを感じた。

わがままな客は、
威張りちらし、無理難題を要求する。

もう一つの心痛は、
食品の廃棄
消費期限が近づいた食品は、売ってはならない決まり。
廃棄が辛くて、

きっと自分大量の食料を捨てた罰で、
飢え死にするだろうのではないかと考えた。

しかも、廃棄した分は、お店持ち。
独特の計算法で、
おにぎり10個仕入れて2個廃棄したら、店が損をする。
値引き販売は禁止だったが、
公正取引委員会の指導で、
ようやく値引き販売が出来るようになった。

商品の廃棄時間が来ると、
店内にそれを知らせる音楽が流れる、
ということを本書で始めて知った。

家の食事は、
全て廃棄でまかなえるという。

サラダ、肉料理、魚料理、
お惣菜、果物、そしてデザートまで、
毎食フルコースだ。
私たちはここ2年ほど、
ほぼ毎日廃棄を食べて生きている。

回って来るSV(スーパーバイザー)との確執もある。
良いSVは、店のためを思い、
草取りなどをしてくれる。
本部の方針が変わって、
SVが監視役になってしまったりする。
工夫して作ったポップを
「勝手なことをするな」と外されたこともあるという。
最初の頃は店舗経験のある人がSVになったが、
次第に店舗経験のない若造がするようになった。

(本部から)われわれがブラブラ遊んでいるとでもいうかのように、
次々と細かな指示が飛んできた。
「今だってこんなに忙しくてぎりぎりでやっているのに、
これ以上できない!」
現場を知らないで、
思いつくままに仕事を命じてくる本部に
怒りを覚えたこともある。

それでも次第に変化はある。
ある時の本部社長の訓辞。

「少しでも店の負担を軽減するよう、
さまざまなことを見直し、
細々としたことも変えていく」
という宣言があった。
そして実行に移してくれた。
以来、次々と出されていた細かい指示は
バタリと止んだ。

働いても働いても、本部に吸い上げられる。
読んでて辛くなるような記述が続く。
それでもやめないのは、
客との交流や従業員との信頼関係など、
日々の生活に歓びがあるからで、
そのあたりの機微がよく描かれている。

いろいろあっても、
それでも、世間にコンビニは増え続けている。
もう日本の社会になくてはならない存在だ。
そして、来店した外国人が驚き、
日本のコンビニは世界一という評価が定着している。
アメリカで始まったコンビニは、
日本で花開いたと言えよう。