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短編集『オリーブの実るころ』

2022年12月10日 23時00分00秒 | 書籍関係

 [書籍紹介] 

「小さいおうち」(2010)で直木賞を受賞した中島京子の短編集。
小説現代に掲載されたものを集めた。

収録されているのは、
「家猫」「ローゼンブルクで恋をして」「川端康成が死んだ日」
「ガリップ」「オリーブの実るころ」「春成と冴子とファンさん」
の6編。
それぞれ別の時期に書かれたもので、
古い作品も入っているが、
あえて共通項を探せば、「結婚」ということになろうか。

「ローゼンブルクで恋をして」

父が「終活をする」と宣言して失踪し、
メールで伝えて来た所在地は、
「ヒューゲルベルクとプライテンインゼルのあたり」という。
父はドイツにいるのか?
やがて、父がどこで何をしていのかが明らかになり、
父にとっての「終活」の意味も判明する。
地名は、全国の都道府県名をドイツ語にしたもので、
無駄にかっこいい。

「ガリップ」

ある夫婦とコハクチョウとの奇妙な三角関係の話。
水田蘭と結婚した時、古い民家の納屋には、
コハクチョウ、名前はガリップが住んでいた。
羽を傷ついていたのを治療してやったら、
「わたり」をやめて住み着いてしまったのだという。
ガリップはメスで、どうやら、自分を蘭の妻と思い込んでいるらしい。
そこから夫婦とコハクチョウの不思議な生活が始まる。
30年が経ち、その関係は意外な決着を迎える・・・

コハクチョウ・・・
鳥綱カモ目カモ科ハクチョウ属に分類される鳥類。
全長115―150cm。
翼開張180―225cm。
属内では頸部が太短い。
全身の羽衣は白い。

「オリーブの実るころ」

マンションの向かいに建つ一軒家に白髪頭の老人が引っ越して来る。
前庭にオリーブの木を2本植えてながめている。
あるきっかけで交流するようになった夫婦は、
老人の家で昔話をきく。
老人は50年ほど前に、このあたりで結婚生活をしていたのだという。
その昔話は、北の漁場での結婚を巡る、壮絶な体験だった。
老人は話を終わらせる前に、病気で亡くなってしまう。
その後で老人の正体と、
なぜオリーブの木を植えたのかが判明する・・・

「春成と冴子とファンさん」

宙生(そらお)とハツは、結婚報告のために
離婚した宙生の両親を訪ねることになった。
父親の春成は、腎臓透析をしながら放浪生活をしているという、
奇特な人物。
一方、母親の方は、中国人のファンさんと結婚生活をしている。
義父と義母の面会を巡る、奇妙な物語。

ハツが一人で義父に会いにいくのは、
宙生に出張が入ってしまったからだが、
その会話が面白い。

「ぼくが行くより、ハツがひとりで行った方が
親父は嬉しいと思うな」
「うれしくないでしょ。
知らない女がとつぜんやってきて、
あなたの孫を産みますとか言うわけだから」
「どうしてさ。
知らない女と知り合うのも楽しいし、
その彼女が自分の孫を産んでくれるんだよ。
シニアにとっては天使が降臨したくらいの話じゃないの?」

その父から「宙生のどこがいいと思ったの?」と訊かれると、
ハツは、こう答える。
「いばらないところ」

世にも奇妙な人たちと出会える6短編。
どの人物も魅力的で、かつ不思議な毒がある。
中島京子の引き出しの多さを感じさせる、多彩な物語集。

 



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