[書籍紹介]
ちょっと風変わりな小説を書く彩瀬まるの短編集。
現実寄りの小説が2編、
ファンタジー色の濃い作品が4編。
「なめらかなくぼみ」
革張りの椅子に一目惚れする女。
自分を包み込むその感触がたまらず、
付き合っている恋人より愛してしまう。
「二十三センチの祝福」
同じアパートの上下の部屋に住む
家具店の店員と売れないグラビアアイドルとの、
靴直しを介した密やかな交流。
男は離婚経験があり、
5歳の娘と会わせてもらうが、
別れた妻の再婚で、新しいパパを迎えるらしく、
終わりを告げるのが近いのを予感している。
グラビアアイドルとの間は、孤独への共感のみで、
体の関係には進まない。
6編中、最も好きな作品。
「マイ、マイマイ」
同じゼミの女子に心変わりした恋人の体から、
白っぽいおはじきのようなものが落ちる。
カタツムリみたいな渦巻き模様をしているものだ。
拾って持ち帰った「私」も、
かゆくてかいた足首から10円玉サイズのおはじきが出てくる。
人の中にある暗い欲望がカタツムリの形になって体外に出たもののようだ。
2つのおはじきは自分の体に這って戻ろうとする。
「ふるえる」
体の中に石が発生する。
それは恋する気持が石と化したもの。
「石を交換してくれませんか」と申し出て、
受け入れてもらえれば良いが、
片思いの場合は、相手に取り出してもらい、飲み込んで引導を渡される。
中には石を沢山飲んで貯めこんだあまり、
体が石化して死んでしまった人もいる。
取り出された石は、恋する人が近づくと震える。
「マグノリアの夫」
舞台上で木蓮をを演じた夫が、
あまりの役の探求ぶりで、
公演の千秋楽後、木蓮になってしまう。
形の上は失踪だ。
夫が姿を消したあと、
妻は、妖しく高貴で美しい花と暮らしながら、自分の残酷さに気づく。
「花に眩(くら)む」
人の体から芽が出て花が咲く。
「私」からはセンニチコウが、同居する女の子からはツリガネニンジンが咲く。
好きな男はハトムギだ。
気になると歯でついばんで除去するが、根絶することはできない。
人は5年で成人し、花を咲かせ、やがて根に浸食されて土に近付いて、死ぬ。
生と愛と死が、植物と土の世界に還元されていく。
著者のデビュー作。
前に「くちなし」と「新しい星」で直木賞候補となったが、
本作は「くちなし」の系列の不思議な話が多い。
しかし、「二十三センチの祝福」のような
人間の孤独を描く作品も書けるのだから、
こういう傾向に進んだらどうか。
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