轟見聞録

表現者・轟ひろたが、学んだことをメモ書きします。(毎週木・日曜更新)

長谷川伸 「瞼の母」

2008-05-29 | Weblog
長谷川伸という小説家、劇作家がいます。1884年生まれで、大正から昭和にかけて活躍した人。
わたくし轟ひろたは長谷川伸が描く、義理人情の厚い戯曲が大好きで、また今まで読んだ戯曲のなかでもっとも良かったのが長谷川伸の「瞼の母」でもあります。

初めて「瞼の母」を読んだのは9年前。
「ちくま文学の森」という短編アンソロジーの第5巻「心の洗われる話」で読んだのが最初。(いまでも図書館にあると思います)
あらすじは「幼いときに生き別れた母親の面影を胸に、無宿の渡世人となって西に東に母を捜し歩く忠太郎」の話。江戸時代の「母をたずねて三千里」みたいな作品です。

実は長谷川伸自身も3歳のときに母親と生き別れ、その想いをこの作品にぶつけたのです。
後日談で、昭和5年に書かれた「瞼の母」があまりに評判となり、長谷川伸が49歳のときに母親と再会することとなりました。それと同時にこの作品は、作者によって一旦上演を封印。しかし母の死後、その禁は解かれることとなります。
長谷川伸にとってそれぐらい切実な作品なのです。

私が9年前「瞼の母」を読んだとき「これこそが戯曲だ」と思いました。また表現者である以上、「瞼の母」ぐらい意味のあるものを作ろうと思えました。

しかし困ったことに長谷川伸の戯曲はほぼ絶版。ずっと図書館でしか読むことが出来ませんでした。

そんな昨今。嬉しいことが2つ。
世田谷パブリックシアターにて6/8まで「瞼の母」が上演されております。そして見てきました。立ち見当日券3000円で。
良かった。泣けました。大竹しのぶの渋み、篠井英介の女形がすごかったです。(ちなみに主役は草剛)
お時間ありましたら是非見に行ってください。

そして嬉しいこと2つめ。
ながらく絶版だった長谷川伸の戯曲集も出版されました。
長谷川伸傑作選「瞼の母」
国書刊行会 1945円

戯曲が7本入っています。長かった。9年待った。

みなさん。これを機会にぜひ「長谷川伸」の名前を覚えてください。
そして読んでみてください。これこそが切実さです。