演出家、蜷川幸雄のインタビューより
ー俳優経験から学んだものは。
「配役」されるということの意味を考えさせられました。俳優というのは、いつもプロデューサーや演出家に選ばれる受動的な立場なんです。そのうちに「あの演出家は僕のことを嫌いなんだ」と思い始める。そう考えると好き嫌いの話ですから、自分は傷つかないですむんです。
そんなことを繰り返すうちに、自分の能力を問わない自分に気づきました。「僕の演技は他の人を説得する力がないのだから、うまくなる以外に脱出する方法はないのだ」と骨身に染みました。そして他の俳優より多く稽古も勉強もしようと思うようになりました。
何ヶ月も仕事が来ないところに突然、「仕事が決まった」と電話が入ると、その電話一本で、それまでの絶望的気分がさっと明るいものに変わるんです。同時に「おれはこんなちっぽけなことで喜ぶ人間だったのか」と情けなくなるんです。「僕は配役のこんなくらいのことで一喜一憂するようなつまらない人間なんだ、ということに目をそらすな」とノートに書き込みました。