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イスラエルによるガザ、レバノン攻撃とは何だったのか

2006年08月20日 01時17分25秒 | ■時事・評論
イスラエル軍によるレバノン攻撃で、1000人以上の犠牲者が出た。その3分の1は12歳未満の子供だと報告されている。

頻繁に誤爆を繰り返すほど、イスラエル軍は無能な軍隊ではないはずだ。イスラエル軍は、明らかに住宅地区や戦闘員でない人々をわざと攻撃した。

そこには明確な理由があるはずだ。

6月10日、ガザ北部でパレスチナ人の家族連れの海水浴客のいる海岸に、イスラエル軍の発射した砲弾が着弾した。子供や女性を含め8人が殺害された。

この事件に対してハマスは停戦を破棄し、イスラエル側に向けて攻撃を開始した。6月25日、秘密裏に掘られたトンネルを通って、パレスチナの戦闘員がイスラエル軍の基地を攻撃し、イスラエル軍兵士1人を拉致した。イスラエル軍は、ガザ地区に対して無差別的攻撃をはじめた。

7月12日、今度はレバノン南部において、ヒズボラによってイスラエル軍兵士2人が拉致された。これに対して、イスラエル軍はレバノンの空港、道路、港湾、発電所、携帯電話塔などのインフラを爆撃した。イスラエル軍は、先に住民の逃げ道を塞いだ。そして、ヒズボラとは関係のない住宅地域まで爆撃した。この1ヵ月でレバノンでの犠牲者は、1000人を越えた。

8月14日、イスラエルは、国連の停戦決議を受け入れ、1ヵ月に及ぶレバノン攻撃はひとまず終わった。

イスラエルは、ガザとレバノン攻撃でいったい何を望んでいたのか。

一般的な予測としては、ヒズボラはイラン、シリアに支援されているため、アメリカのイラン攻撃に備えた先制攻撃ではないか、と言われている。したがって、アメリカのイラン攻撃が近いとも言われた。

しかし、アメリカのイラン攻撃は現実的ではない。イラクとアフガニスタンの混乱に対応するだけでも米軍は手いっぱいだ。そこへイランまで加わると、もはや米軍の展開能力を越えてしまうだろう。アメリカによるイラン攻撃があるとすれば、イランが石油取引所を開設し、決済通貨をユーロとしたときだけだ。

また、ヒズボラはイランから経済援助と武器援助を得ているが、主従関係にはなく、ヒズボラはイランの指揮命令下にあるわけではないようだ。

イスラエルによるレバノン攻撃が、イラン攻撃に備えたヒズボラの弱体化が目的でないとしたら、本当の理由はいったい何だろうか。


19日付けの東京新聞電子版に、興味深い記事が載っていた。
オルメルト内閣窮地 イスラエル西岸撤収困難
イスラエルのオルメルト首相が最大の公約に掲げていたパレスチナ自治区・ヨルダン川西岸から一方的に撤収し、国境を画定する計画が見直しを余儀なくされている。
一方、閣僚らのスキャンダルが続出。西岸からの撤収計画は、風前のともしびだ。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kok/20060819/mng_____kok_____001.shtml

興味深いのは、閣僚のスキャンダルだ。どこの国でもそうだが、政府要人の「セクハラ・スキャンダル」や「インサイダー取引」などが露見する場合、それはほぼ間違いなく政争だ。

イスラエル北部地区は、ヒズボラのロケット攻撃で53億ドル相当の被害を受けた。オルメト首相は、その責任を取らねばならないが、首相を支えるべき側近は、スキャンダルで無力化されている。

その結果、パレスチナ自治区・ヨルダン川西岸からの撤収というオルメルト首相の公約はつぶれる公算が高くなった。ここにすべての答えがあるように思う。

昨年おこなわれたガザ地区からのイスラエル人入植者の強制撤収は、イスラエル世論を二分した。イスラエル政界には、オルメルト首相の政策に反発する勢力が存在することは間違いない。ガザに続いて、ヨルダン川西岸からの撤収が強行されれば、さらにイスラエル国内が分裂するだろう。

今回のレバノン攻撃にいたる一連の出来事は、オルメルト首相の入植地撤収政策をつぶすための右派勢力の計略であったと考えられる。右派勢力は、イスラエル軍に強い影響力を持っている。イスラエル軍は、首相や国防相ではなく、右派勢力にコントロールされていたようだ。今回のガザ攻撃とレバノン攻撃は、イスラエル政界の内紛によって引き起こされたと言える。

合計3人の拉致兵士奪還のために、1000人以上のパレスチナ人とレバノン人の命が奪われた。拉致兵士奪還など、無差別攻撃のための言い訳にすぎない。無差別攻撃は、イスラエルに対する激しい反撃を生む。イスラエル北部は多大な損害を受け、民間人も多数命を落している。右派勢力は、ハマスやヒズボラに反撃させ、イスラエルに甚大な損害を与えて欲しかったのだ。そうすれば、オルメルト首相の政治生命を絶つことができる。そしてそれは達成されたと言えるだろう。


すべては、海水浴客の中に撃ち込まれた一発の砲弾からはじまった。
その砲弾が意図的に撃ち込まれたことは間違いなかった。
しかし、なぜ海水浴に来た家族を殺さなければならないのか。
その時は理解できず、行き場のない憤りだけが残された。
二ヶ月たって、真相は理解できたが、憤りはつのるばかりだ。





ヒズボラとは何か
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/
オルメルト内閣窮地 イスラエル西岸撤収困難
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kok/20060819/mng_____kok_____001.shtml
イスラエルのレバノン侵攻における軍事広報戦
http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2006/08/post_9798.html
レバノン、犠牲者1000人超に
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060807NT002Y65007082006.html
アメリカvsイラン=ドルvsユーロ
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo/e/abbd497f5acb5294a7cd3fb2bb75655d