報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

情報統制がまねいた惨事

2005年09月03日 23時53分34秒 | ●アフガニスタン05
今回のアフガニスタンの取材の過程で、日本の外務省は、アフガニスタンの情報が日本で流れることを嫌っているという印象を受けた。アフガニスタンに関する情報や写真が一般的に流通すると、アフガニスタンに行ってみたいという人が増える、と考えているようだ。

現在のアフガニスタンの状況で、旅行者が増えれば、事件に巻き込まれる可能性は高くなる。もし、事件が頻発すれば、日本の行っている復興援助を中止し撤退せざる負えない事態も生じる。したがって外務省としては、できるだけアフガニスタンの情報を制限し、日本国民の目に触れないようにしておきたい。

外務省の方針は、まったく逆効果ではないのだろうか。行くな、と言えば人は行きたくなるものだ。情報がなければ、知りたくなるものだ。情報がなければ、”それは安全ということだ”と解釈する人もいるはずだ。本当はアフガニスタンの状況を正確に伝えるべきなのだ。正確な情報こそが、的確な判断をうながす。

また、アフガニスタン政府としては、アフガニスタンはもはや戦場ではない普通の状態であるという印象を海外に与えたい。いつまでも、戦闘状態であれば、政権の国家統治能力を疑われてしまう。平常であることを、装うために観光客の入国を制限しないということは考えられる。現実的には、アフガニスタンの観光ビザは乱発されてはいない。しかし、取得可能であることは事実だ。

『アフガニスタンの治安問題』で述べたように、現在のアフガニスタンは無法状態だ。観光などできる状態ではない。米軍、国際治安支援部隊、アフガン軍は、反政府勢力しか眼中にない。アフガニスタンの警察は犯罪組織を本気で取り締まることはない。タリバーン政権を倒した軍閥は、そのまま武装犯罪集団へと移行した。その軍閥はアフガニスタン全土に国家内国家を形成している。中央政府の権力は、カブール周辺までしか及んではいない。全土に存在する無法武装集団=軍閥を取り締まるものなどいないのだ。

米占領軍、国際治安組織、国連機関、援助国は公式にはこの事実を認めようとしない。復興の進捗状況や武装解除の成果ばかりを強調すれば、誰でも安全になったと勘違いしてしまう。復興は進むけれども、治安は悪化する一方だ。その原因は軍閥だ。国際機関は、この事実をはっきりと認めるべきだ。

今回の痛ましい事件は、不必要に情報を制限する日本外務省の方針と、アフガニスタンは平常だと見せかけたい政府、そしてアフガニスタンの根本的問題を認めない国際機関によって引き起こされた事件だと考えている。

重ねて強調するが、現在のアフガニスタンは無法状態なのだ。
アフガニスタンへの渡航を考えておられる方がいれば、中止することを強くお勧めする。

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2 コメント

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reiさんへ (中司)
2005-09-04 17:25:35
あらゆる国家の命題は「民は愚かに保て」に尽きると思います。すべてが白日の下に晒されると国家は成り立ちません。



特に現代社会では、情報操作は大規模で巧妙です。情報の蛇口は絞られ、細い糸のようにしか流れていません。一方では、ゴミのような情報が滝のように絶え間なく流れ落ちてきています。この状況の中で、事実や真実にたどり着くのは、容易なことではありません。また、それを見分けなくても生きていけるようになっています。人類が国家を形成するようになってから、この単純な原理は変わっていないように思います。



国家をよりよい状態に導くことができるのは、国民しかないです。

しかし、一部の人の抗議や圧力とういのは、ほとんど効果がないと思っています。国民ひとりひとりのこころの中に、何かがおかしいのではないか、という疑問の芽生えが必要だと思っています。ただ、それは人為的に起こせる類のものではないでしょう。



日本の社会システムは非常に綿密で安定しているように見えますが、結局、幻想のうえになりたっている空中楼閣でしかないように思います。このシステムの中で暮らす人々が、本当に自分は幸せな社会に住んでいると感じているようには見えないです。



人間のこころというのは、とても繊細で敏感です。

多くの日本人が、この日本というシステムに違和感を感じているように思います。社会全体がストレスに包まれているのも、そのためだと思います。

でも、いまはそこまでです。

国民ひとりひとりのこころに疑問が芽生えなければ、何も始まらないでしょう。しかしそれが、起こるのかどうかはわかりません。



いまのところ、暗いトンネルの中を歩いているように感じます。
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Unknown (rei)
2005-09-04 02:18:26
今回の事件に関しては不明な点が多く、推測になってしまいますが、少ない情報により生まれた過信がこのような惨事へと結びついたのなら、それは間違いなく私たちの社会の責任です。

そして、それに加え、私たちは世界の現実を見ようとしていないのかもしれません。

周りを海に囲まれ、平和で豊かな国にいる私たちはふとすると「この世の中は平和なんだ」という錯覚すら起こすことがあります。

そんな私たちにとって、今のアフガニスタンの現実を理解するのは困難なのかもしれません。



私は、無残にも命を奪われた二人を責めるつもりは全くありません。彼らは社会の犠牲者なのですから。

しかし、誤った情報と共に、私たちの中には足りないものがあることも事実です。これは国民全体の課題です。

私たち日本人はそろそろ自分達の「幻想」から覚め、「現実」を見つめる必要があるのではないでしょうか。
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