報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

鷲と電通

2005年12月04日 19時06分18秒 | ■メディア・リテラシー
11月29日の記事『電通に頭の上がらないマスメディア』へ、”コルシカ”さんよりコメント欄へ情報をいただきました。「新聞・テレビ広告取引は透明性に欠ける、公取委報告書」というライブドアのニュースです。興味深いニュースなので、少し検討したいと思います。

<公取委 広告界へメス?>


ライブドア・ニュースの元ネタは、公正取引委員会による「広告業界の取引実態に関する調査報告書(概要)平成17年11月8日」である。

この報告書の目的は、「テレビ及び新聞などの広告取引において,有力な広告会社に取引が集中する構造,取引慣行の実態を明らかにし,競争政策上の考え方を提示」することである。

広告界の具体的な実態として、
① 電通をはじめとする有力な広告会社がCM枠の大部分を確保
② 既存の広告主が優先される原則
③ テレビ局による情報開示が少ない
という三点を挙げている。
あるいは、「口頭による取引が少なくなく,媒体社,広告会社及び広告主の広告取引の当事者に適切な情報が与えられなくなり,市場メカニズムが働きにくい状況」とも指摘している。

要するに広告業界とメディア、広告主との関係には、紙による契約書もなく、古い商習慣が維持され、自由競争原理も働いていない独占的状況であるということだ。その慣行を改め、新規参入のできる自由競争の環境を導入し、独占状態を改めよ、と公取委は述べているのだ。

さて、これだけを見ると、いいことではないか、という印象を受ける。確かに、いいことである。電通による独占体制もこれで崩壊するかもしれない。たいへんすばらしい。それだけを、取ってみれば。

しかし、ここで、ちょっと立ち止まって考えなければならない。
そもそも「公正取引委員会」とは何か、を。

<『年次改革要望書』を紐解く>

ここでも、われわれは『年次改革要望書』を紐解く必要がありそうだ。

「アメリカはほぼ毎年、具体的な人数まで指定して、公正取引委員会の職員数を増加するよう日本政府に要求している。(中略)それだけでなくアメリカは、公正取引委員会に国税庁並の捜査権限を与えよ、内部告発者との司法取引などの捜査手段を与えよ、摘発件数をもっと増やせ、など実にさまざまな注文を出している。
 また、独禁法そのものについても、違反者や捜査妨害者に対する禁固刑の長さや罰金の金額まで具体的に指定して罰則を強化するよう法改正を要求してきている。」

(『拒否できない日本』 関岡英之著 124p )

関岡氏は同書で、アメリカは1994年以来一貫して、『年次改革要望書』で公正取引委員会を問題にしてきた、と書いている。1998年度版の『年次改革要望書』を見てみると、公正取引委員会についてこと細かに記述されている。その分量と詳細さには驚かされる。
アメリカはなぜ公正取引委員会の権限を強化したいのだろうか?

「この報告書(『外国貿易障壁報告書』2003)のなかでアメリカは日本では談合がまだ広く横行しており、政治家、官僚、建設企業間の癒着構造が根強く残っていると主張している。さらに公共事業の発注者である役人自身が意識的に談合を幇助するような”官製談合”が存在すると非難し、公正取引委員会と日本政府に対し、談合の刑事摘発件数をもっと増やすことや、不正に加担した公務員を厳しく制裁することを要求している。」
(同、131~132p)

つまり、アメリカとしては、日本で行われている談合やカルテルなどを一掃したいという願望を持っている。なぜなら、アメリカが日本の規制撤廃や自由化を進めても、談合やカルテルが残っていれば、自国企業の参入する余地はないからだ。アメリカとしては、公正取引委員会を強化し、談合やカルテルを一掃する必要があるのだ。

そして、アメリカの望むところの公正取引委員会の改革強化は、おそらく完成しているはずだ。2001年の『年次改革要望書』以降は、もはや「公正取引委員会」の文字はないからだ。1994年から2000年の間に、アメリカの要求する公正取引委員会の改造は終わったということだろう。

近年、日本のメディア上で、「談合」や「カルテル」の文字がよく見られるのは、”新生”公正取引委員会の本格活動を受けた流れなのだろう。

もちろん、日本の社会から談合やカルテルがなくなるのは、いいことではある。しかし、それがアメリカの意向を受けて行われているということは、結局、アメリカが一番得をすると考えて間違いない。日本国民の利益とは、ほとんど関係ないだろう。外国企業が参入したあとに、公取委の役目は終わり、談合やカルテルが復活しないとは言いきれない。

公正取引委員会は、2003年に総務省から内閣府に移っているが、これさえもアメリカの要望なのである。内閣府とは文字通り「内閣総理大臣が担当することが相応しい事務」、を行うところである。つまり、総理大臣が直属管理できる機関だ。防衛庁、国家公安委員会、金融庁、そして公正取引委員会の四つだ。あと宮内庁があるが、これはまた別である。

なぜ、アメリカは公正取引委員会を内閣府に入れよ、と要望したのかを想像するのは、それほど難しいことではないだろう。

金融庁も大蔵省から内閣府に移ったのだが、それ以降金融庁は何を行ったか。竹中平蔵氏を大臣に戴き、不良債権処理と称して、日本の銀行を破綻に追いやり、多くの金融機関を外国資本の食うがままにまかせた。それを、規制改革、自由市場原理という表現するのは勝手だ。しかし、他にも方法があるにも関わらず、外国資本に有利な環境をつくった竹中氏の意図は、明らかなように思う。ジョージの意向は、内閣府に伝わり、それはすぐに内閣府の直属機関で実行される。内閣府の四機関というのは、ジョージにとって最も重要な機関ということだ。

広告配給によって日本のメディアを実質的に支配する電通。
その広告業界の体質にメスを入れ、「新規参入の促進」を奨励する公正取引委員会。
広告界に「新規参入」してくる者の背中には、おそらく鷲のマークがついている筈だ。
日本のテレビ局の株を外国資本が占める割合は20%以下と法律で定められている。
しかし、外国資本が日本の広告界を掌握したら、それは何の意味も持たない。


『拒否できない日本』関岡英之著
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4166603760/qid%3D1133688509/249-3066677-8749146
広告業界の取引実態に関する調査報告書(概要)
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/05.november/051108-1.pdf

広告業界の取引実態に関する調査報告書(本体)
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/05.november/051108-1.pdf

年次改革要望書1998 「競争政策および独占禁止法」項目参照
http://japan.usembassy.gov/e/p/tp-2505.html#_Toc433083745