22日付の信濃毎日新聞 それも第一面に「中学部活の地域移行へ自治体支援」の記事が載りました。
一見すると前向きにも取れる記事でしたが、その背景には 深刻にもなりつつある部活動・学校運営の実態があることが窺(うかが)えました。
記事によると、少子化の影響で 学校単位での部活運営が困難になる中、スポーツ庁と文化庁の有識者会議はそれぞれ「2025年度末までに 公立中の休日の部活指導を地域に移行する」との改革案を提言したとのことです。
具体的には、公立中学校の部活動を地域団体や民間事業者に委ねる「地域移行」を実現するとのことです。
これ(地域移行)に向けて、文部科学省の外局であるスポーツ庁と文化庁は 関係者間の連絡・調整などを行なう「コーディネーター」を自治体に配置して体制整備を進めることを決めました。
各都道府県や市町村が「協議会」を設置したうえで「総括コーディネーター」を配置します。
部活の受け皿となる 総合型スポーツクラブ・民間事業者・文化芸術団体などと学校とをつなぐ「コーディネーター」を地域ごとに配置し、連絡・調整を担ってもらうことを想定しているそうです。
そのプランの具現化のためには「指導者の確保」が焦眉の急であることは論を待ちません。
国は、その(指導者確保)ための人材バンク設置・指導者育成のための講習会の開催などを支援(補助)するとのことです。
また、地域団体や民間団体が(部活動の)運営主体になった場合は 会費などの家計負担が重くなることも想定されることから、経済的に困窮する家庭の生徒が(財政的理由で)部活に参加できなくなる事態を避けるため、新たに必要が生じる会費などの支援も実施するとのことです。
さらに、教職員の(部活指導に際しての)負担を軽減するため、指導や大会引率を担う「部活指導員」を大幅に拡充する方針とのことです。
部活の地域移行については、自治体が今後 (部活の)休日への移行実現に向けて 具体的な取り組みやスケジュールを定めた「推進計画」を策定し、部活の運営や指導者確保のための費用など さまざまな課題や成果を検証するとのこと。
将来的には、平日の部活動についても 学校から切り離す検討を進めるとのことです。
これらの計画の実施に向け、文科省は2023年度予算の概算要求に80億円超を盛り込む方針であることが 併せ報じられていました。
この報道を見聞し、私(だけでなく)は 部活動の維持に向けた〝現場の切実な事情〟を感じ取りました。
今回の報道では、この〝部活の地域移行計画〟の主たる理由は「少子化に伴い~」となっていますが、実際のところは 今回の報道の後段に挙げられていた「教職員の負担の軽減」という面が大きいのではないか…と思わされたところです。
と いうのも、ここ数年来 部活動等の教務外の仕事を巡る教職員の、時間的・物理的 さらには精神的にも及ぶ「負担感」の増加が顕著であることが伝えられており、さらには かかる部活動以外でも、教職員の負担増に伴う〝弊害〟の発生が伝えられているからです。
教職員の〝多様な負担感〟については、他の報道でも伝えられています。
それによると、福井県内のA中学校に赴任したB教諭は、赴任1年目で 自身が学生時代に続けたスポーツとは違う競技の部活動の顧問となりましたが、いわゆる〝畑違い〟のジャンルのため上手(うま)く教えられないうえに、多感な女子部員の生活指導にも悩みを抱えることとなりました。
一方、日中には 通常のクラス担任や教科担任の勤務も(当然ながら)あり、また 専門職の向上心として専門教科の教材研究もしたい…これらが重なり合って 毎夜9時すぎまで残業し、さらに残って仕事を持ち帰っているそうです。
これに対する手当は 月給4%相当の「教職調整額」のみ。この「4%」は 時間外労働の8時間程度に過ぎないとのことです。
なお この学校では「私生活を犠牲にしてでも指導に熱いのが良い顧問」との〝空気〟があり、部活動の予定を書き込む職員室のホワイトボードは、競い合うように埋まっているそうです。
公私共に辛(つら)い毎日を送ることとなりましたが、いち教諭として耐えるしかないと述懐しているとのことでありました。
今、学校の部活の顧問業務は その過酷な勤務実態をもって「ブラック部活」と称されているとのこと。
福井県教委の過年の調査では、県内中学教職員の残業は平均74時間に及び それに部活動が占める割合は38%に達しているとのこと。
こうした実態を受け、週2日以上の休養日を設けるなど 部活の活動時間短縮を促す国のガイドラインが同年策定されました。
こうした改善策が講じられたものの「週休2日」の未達成は全国の中学で2割・高校では6割もあり(日本スポーツ協会調べ)、また 当該教諭が〝未経験競技〟の部活動の顧問となる「ミスマッチ」が、中学で27%あるそうです。
これらを踏まえつつ 前掲のB教諭は「私も含め 部活に関連する教諭の負担は増大するばかりで、残業も常態化しています。」と訴えておられました。
ところで、かかる〝現場の切実な事情〟は、部活とは全く違う場面でも「問題の要因」となることに。
「いじめ問題」への対応です。
別の報道によると、ある学校で「いじめ問題」が生じ それは被害⇔加害生徒間の問題に止(とど)まらず、保護者や周囲を巻き込んだ争議(裁判)に発展してしまったとのことです。
この顛末(判決)については然るべく下されたところですが、一連の経過の中で大きな問題(課題)となったのが「担任の(いじめに対する)目が行き届かず、早期発見・早期解決ができなかった」ことであり、その(早期解決できなかった)要因が「担任が 日々の業務に追われて、生徒と向き合う時間が少な過ぎた」ということでありました。
今 教育現場は、多様化の波・IT化の波など 新たな潮流の中にあり、教職員は あたかもその波に揉(も)まれる小舟の如(ごと)く、業務・立場・時間・さらには保護者も含んだ人間関係の中で生徒と向き合い 然るべく成果を求めて錯誤を重ねていると申せます。
こんな どうしようも無い過酷な環境の中で、さらに部活指導で成果を出すことは非常に至難とも申せ、そういった意味においても「部活の地域移行」は意味のある計画ではないかと思うところです。
但し…この壮大ともいえる計画は、一朝一夕には成し得ないものでもありましょう。
「協議会」の設置「コーディネーター」の配置など、言葉では易(やす)く述べることができても、文化・スポーツなど多様な部活を地域に移行するには 人材確保を主課題に難儀な作業となることが予想されます。
今後、私の立場でも 事(こと)の推移を見守りつつ、例えば「スポーツコミッション」のスキルをこの計画に反映できないか など、多面的に検証しながら 計画の推進の一助を為(な)してゆければ、と思うところであります。
但し、この〝部活の地域移行計画〟は、あくまで児童生徒のために実施されるべきことを申し添えます。
如何(いか)に教職員が多忙であることが主要因であるとしても、究極的には そのこと(地域移行)が、部活に励む子どもにとってメリットがあるものでなければ何の意味も無い。
ややもすると〝大人の事情〟で変えられる制度やシステム…こと 部活に関しては「主役は子ども」であることを再認識すべきと思うところです。