京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

『長いお別れ』

2019年06月04日 | 映画・観劇

随分シンプルに原作は映画化されたと感じた。

『長いお別れ』(中島京子)を取り出して開いてみると、ティッシュペーパーにはさまれたままのモミジの葉っぱが3枚出てきた。読んでいたのは17年の10月頃だった。帯には「認知症の父と家族の温かくて切ない十年の日々」とある。
「少しずつ記憶を失くして、ゆっくりゆっくり遠ざかっていくから、認知症のことを英語でロンググッドバイ(『長いお別れ』)と呼ぶんだよ」

     
「遠からず訪れる永遠の別れのその先にも、自分は何度も母の言葉を思い出すだろう。いつも、何度出会いなおしても、母が好いてくれたという確かさに、自分はきっと勇気づけられるだろう」

「母」を「父」に置き換えてもいい。一つの命とこのように関わり合う生があって、(母の)いのちは輝きを放つ。
そして、再度「人間は思い出の器」という言葉を思い出している。
この言葉を引いて、福島泰樹氏は「だから大切に葬ってあげなければいけないんです」と言われていた。

老々介護の母は娘たちに愚痴って愚痴って、怒って、揺れて。介護の壮絶さ…。でも、介護される側の生だって壮絶だ…。全ての人生は、壮絶であると…。あれこれ原作を振り返ってみた。


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鹿ケ谷安楽寺

2019年06月02日 | こんなところ訪ねて
    秋ならば名におふ声を聞かましを山ほととぎす今日は鳴くなり  
「花洛名勝図会」の安楽寺(左京区鹿ケ谷)に掲げられた国学者・堀尾三子の歌。


秋なら、名に負う鈴虫と松虫の声を聞きたいところだが…。と歌われる安楽寺は、法然上人の弟子の十蓮と安楽が「鹿ケ谷草庵」を結んだことで始まっている。


二人が勤める声明は、まことに美しく、魅かれて出家する者が出るほどだったとか。“五木親鸞”連載中もそのような個所は印象に残った。
その中には、後鳥羽上皇からことさら寵愛を受けていた女官の松虫と鈴虫の二人がいて、夜中に密かに庵を訪れ剃髪出家し、尼僧となっている。

これを知った上皇は激怒した。ここから専修念仏教団への弾圧が始まり、十蓮・安楽両上人は斬首、法然上人は讃岐国に、親鸞聖人は越後国に流罪に処せられていく。流罪地から戻られた法然上人が、弟子の二人の菩提を弔うために荒廃していた草庵を復興し、「十蓮山安楽寺」と名付け追善の寺とした…。


そんな由来のある安楽寺への道すがら、ほととぎすが「ほーー」と声を引きながら鳴き交わしていた。
お地蔵さんの日ですからと、受付ではパンフレットに飴玉が二つ入った小袋を添えてくれた。普段は公開されていないので、いつ通っても拝観はかなわないというタイミングの悪さ、今日が初めての参拝になった。

本堂の中、正面に低い木の台を据え、わざわざヒールの靴を履いて上がった女性によってメキシコの歌だとかが歌われ出した。靴など脱いだらいいのにと思ったものだ。若い人たちが集い、なかには外国人の顔も見え、大きな笑い声が上がっていた。寺は町ののりしろ。人と人とをつなぐ場へと様々な取り組みがなされているが、お地蔵さんの日でもあり、その一つの企画なのだろう。

受付にいた黒い作務衣を着たかわいい女性が出てこられて「ようお参りでした」と笑顔で送られた。嬉しや嬉しや。一番あたたかく心に響いた。

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怠らず、息長く

2019年06月01日 | 日々の暮らしの中で

原稿用紙を前にして机にかじりついていても何ら進展を見ないここのところ…。持ち越して、月替わりとなってしまった。日常生活に一つの折り目を付ける候。衣替え。衣服も、家屋も、ついでに心の内も。

 

怠らず、一つ、ひとっつと咲き上がるタチアオイの花に学ぶとしよう、か。
夏日のような日差しを浴びて、息長く咲く花。

 
人間とは思い出の器だとか。
「自分が生きることと他人が生きることを結び合っているから生きることが楽しくなる」(むのたけじ)
恩師を中心にしてかかわりができ、共有する思い出が積み重ねられてきた。つながり合う人がそこにいた。
意外だった同窓生との縁を一つ掬い取った。
高校の同窓生との付き合いは今ほとんどなく、関東と関西に遠く離れて暮らしているし、会うこともない。
それでも人が生きるということには実に様々な関係が密につながっているんだなあ……、と思ったりした。

名もなき人生と世界を大切に生きていくしかないね。


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