森の空想ブログ

ウナギ三匹図手付鉢のこと[小鹿田焼ミュージアム溪聲館から<96>]8月11日西日本新聞記事です



*本文です。

 英彦山山系を源流とし、小鹿田の里を経由して流れ下る小野川の岸辺に小さな水車小屋があった。それは水力を利用して籾を搗く唐臼式の搗き臼で、近年まで現役で使われていた。昨年(2017)、大規模な山崩れが起き、巨大な岩や土砂がその水車小屋のあった地点まで到達して、川は大きく姿を変えた。
 高校三年の夏(今から53年前のこと)。私と同級生二人の三人組は、その水車小屋の下の淵に釣り糸を垂れ、ウナギを狙った。首謀者の発案によれば、そこはウナギの巣というべきポイントであり、我々釣り師たちは夜猟によって大量のウナギを釣り上げ、それを売って九州一周旅行の費用にあてるという算段であった。が、一晩中釣り糸を垂れてもウナギは一匹もかからず、したがって旅行費用は捻出できなかったが、計画は決行された。この夏の愉快で間抜けでかつ真剣そのものであった自転車旅行のことを、三匹のウナギが描かれた手付き鉢を見ると鮮やかに思い出すのである。
 この鉢は、文人好みの飄逸と、手練の技による仕上げの妙と、画技の確かさなどを備えた逸品といえよう。達人によるウナギ料理と、それを賞味したであろう数寄者たちの会席風景も、目に浮かぶ。大きな川が町の中心部を貫流する日田の町には、ウナギ料理の名店があり、他所では見かけることもないウナギの刺身や、年月を経ても変わることのない味付けなどが常連客に喜ばれている。今はこのような器を見ることもないが、掲出の一点は、「食」と「器」と「見者(けんじゃ)の眼」が見事に響き合った幸福な時代の遺品といえよう。


ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「Weblog」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事