森の空想ブログ

高千穂の神髄を語り尽くす/「神棲む森の思想」後藤俊彦(2005)[本に会う旅<51>]

高千穂神社宮司の後藤俊彦氏の著作群である。筆者ごときが多くを語るのは畏れ多いので、著作の「帯」の文章と著者の「まえがき」を要約して記すことにしよう。

『「神棲む森の思想」 山青き神の国・日向高千穂。文明のふるさとは〈鎮守の森〉にある―とする独自の神道的世界観や、重要無形文化財「高千穂の夜神楽」の解説を通して、神話の魅力や人間が自然と共生する思想の大切さを、やわらかな筆致で展開』

後藤宮司が、夜神楽の開始に先立つ神事で祝詞を奏上すると、まさしくそこには〈神が降りてきた〉という瞬間が現出する。その佇まいや所作、祝詞の声などが、当日の神楽宿となる民家やその家を取り巻く森、遠くにかすむ高千穂の峰々などと響き合い、同調して、森厳かつ崇高なる世界が眼前するのである。

ところが、本書の「まえがき」を読むと、後藤俊彦少年は、かなりやんちゃな文学少年であったらしい。そして、青年期は政治の世界も垣間見るが、神道学の道へと進み、郷里・高千穂へと帰って、高千穂神社に奉職する。したがって、その学識と教養と、少々ワイルドな人生経験等に裏打ちされた祭祀儀礼の執行は、謹厳かつ神への感謝の念に満ちたものとなった。高千穂の人々が、後藤宮司の祭祀に神の姿を重複させるのはこれによる。

『「山神の青き国」(角川春樹事務所/1999 )ー鎮守の森に息づく思想が、21世紀の人と文明を蘇らせる。自然の恵みと、悠久の歴史にはぐくまれてきた神道の叡智を現代に生かし、「こころの豊さ」をとりもどすために必要な知恵を、平易な言葉でつづった神道人のメッセージ』

後藤宮司の講演を何度か拝聴する機会があったが、これは絶品である。面白くて、時に軽妙な洒落が入って笑いを誘い、いつの間にか「神さま」の棲む神秘世界へと引き込まれてゆく。そして、徐々に、ソフトに現代社会のひずみや自然界との協調の原理とその必要性などへと言及してゆく。時折、挿入される批判は、さながら神楽の「荒神」の発する警句である。ここに「神」を体現する人がいると実感する場面である。

『「神と神楽の森に生きる」(春秋社/2009) ―ふるさとの〈神話〉を語ろう。山々に囲まれた、天孫降臨の原郷、日向高千穂。この地に生まれた神職ならではの人間味あふれる神々の物語/太陽は、昇ってくるときは神様なんです。だからかしわ手でご来光を仰ぐのです。ところが西に沈むときは仏様として合掌して拝めばいいんですね。日本という国は、神と仏を喧嘩をさせずにうまく取り入れて、自分たちの生活に取り込んでいる』

高千穂神楽は、現在、町内全域に20座を伝える。秋から冬へかけて、一晩中、神楽の音楽が高千穂の山々にこだまするのである。高千穂神社近隣の神楽のいくつかは、後藤宮司本人が、神社に伝わる神面を捧持して、神楽宿へ向かう。その神面とは高千穂の鎮守神である十社大明神・三毛入野命である。神面は御神屋正面の祭壇に安置され、マイ継がれる神楽を見つめ続ける。そして神楽のクライマックスの場面で、その面をつけた舞人(ほしゃどん)が、重厚な真珠神の舞を舞うのである。本書は高千穂神楽を熟知する後藤宮司による本格的な解説書であり、高千穂神楽論である。降臨する神々の性格や由緒、神楽を執行する村人と来客との交流、そして神楽そのものの歴史と由来などを限りない愛着を込めて語り尽くす。神と神楽とともにある高千穂の風物詩。


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