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森の空想ブログ

再生する森12

 小さな焼畑<12>
 中国四川省成都市の北方、揚子江の源流のひとつともいわれる「泯江」中流部に住む少数民族「羌(チャン)族」の村を訪ねた時のことである。川添いの道を遡上していて、ソバ畑を見つけた私は、思わず大声をあげて車を停車させ、走ってそこまで引き返し、畑の縁に立った。それは、日本ソバの純白の花とは違って淡紅色の花だったが、茎や葉は、まぎれもなくソバのものであった。標高二千メートルの山里に咲くソバの花と、その向こうを流れ下る泯江の水流、真っ青な空の色など、忘れがたい旅路の風景である。
 羌族は、古代中国では中原の北西に居住した遊牧民族で、中原で政変が起こるたび、亡命してきた貴族や武将を受け入れたり、歴代の王朝と婚儀を結んだりした。山岳に依拠し、男は精悍だが心やさしく、女は美女揃いであった。この羌族は、次第に漢族に圧迫され、西へと民族移動を繰り返し、現在地に住むようになったのである。彼らは、険しい山岳に石を積み上げて家を築き、その家と家は連結されていて、数百戸の家が城砦のような構造をなす。集落の中心に広場と高い石の望楼が築かれる。この美しい石の村で、二千年以上の歴史を彼らは刻んできたのだ。
 
 羌族の村を訪ね、村長の孫娘という端麗な美女に案内されて集落を巡った時、一軒の家の軒先に、石臼が置かれているのを見て、私はまた感動した。それは、私が子どもの頃、ソバ畑で収穫したソバを挽いて粉にした、あの石臼とまったく同じ構造のものであった。背後に聳える泯山山脈には野生のパンダが棲み、その泯山山脈に連なる山脈の一つから流れ出る大河・金沙江の流域は古代の黄金の産地で、黄金の仮面や四メートルもある青銅仮面の出土した古代の遺跡「三星堆」を擁する。
 この美しい羌族の村は、今年(2008)の四月、四川省を襲った大地震によっ壊滅状態となった。刻々と流されるテレビのニュースを見ながら、私はあの美しいソバ畑と石の村と、村長の娘を想い浮べた。もう、この世に、あの村は存在しないだろう。繰り返される自然災害が、人間による過度の浸食に怒った地の神の警告だとしても、それはなんと厳しく、容赦のない一撃であることだろう。

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