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たとえば君 四十年の恋歌 河野裕子・永田和宏
先ずは 気に入った短歌を
・たとえば君 ガサッと落葉すくふように私をさらって行ってはくれぬか (河)
・夕闇の櫻花の記憶と重なりて初めて聴きし君が血の音 (河)
・ブラウスの中まで明るき初夏の日にけぶれるごときわが乳房あり (河)
・貧しさのいまはればれと炎天の積乱雲下をゆく乳母車 (永)9
・背後より触るればあわれてのひらの大きさに乳房は創られたりき (永)
・しっかりと飯を食はせて陽にあてしふとんにくるみて寝かす仕合せ (河)
・良妻であること何で悪かろうか日向の赤まま扱きて歩む (河)
・立った一度のこの世の家族寄りあいて雨の廂に雨を見ており (永)
・もうすこしあなたの傍に眠りたい、死ぬまへに蛍みたいに私は言
はう (河)
・やわらかな縫い目見ゆると思ふまでこの人の無言心地良きなり (河)
・あるいは泣いているのかもしれぬ向こうむきにいつまでも鍋を洗いつづけて (永)
・歯茎腫れてまた童顔となりし妻頬づえをついて選歌しており (永)
・ちょっとだけ私にくれていい筈のじかんがあらぬ君が日程表 (河)
・あなただけ私の傍に残りたり白い牡丹だよと振り向いて言う (河)
・歌集『家』をかなしみて読む君が病気をまだ知らざりしあの頃の家族 (永)
・粋がって傘もささずに歩いてた若かったあなた、私は追いかけて (河)
・良き妻であったと思う扇風機の風量弱の風に髪揺れ (河)
・病むまへの身体が欲しい 雨あがりの土の匂ひしてゐた女のからだ (河)
・あなたらの気持ちがこんなにわかるのに言ひ残すことの何ぞ少なき (河)
・さみしくてあたたかかりきこの世にて会い得しことを幸せと思う (河)
・手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が (河)
・一日が過ぎれば一日減ってゆく君との時間 もうすぐ夏至だ (永)
・たったひとり君だけが抜けし秋の日のコスモスに射すこの世の光 (永)
・あほやなあと笑のけぞりまた笑ふあなたの椅子にあなたがいない (永)
・みほとけよ祈らせたまへあまりにも短きこの世を過ぎゆくわれに (河)
・ひらく手の指のほそさよわが妻の指を継げるや亡き妻の爪に似るとや (永)
この夫婦似た者同士かな 感情を素直にストレートに表現している 詩の上だけでなく日常の生活においてもそうであったのか。 うらやましい性格であり、お二人の暮らし、人生であるよな。 NHKの番組を観て。