からだのままに 南木 佳士
南木 佳士 さんは、佐久綜合病院の呼吸器科の医師で私と同じ年齢です。医師であり且つ芥川賞を得た作家で、そして40歳ぐらいでパニック症候を患い、更にうつ病を抱えてという人生を送られてきました。
この方の文章から感じたことは、この方の気負いがなく地道な生活観を感じます。 それが却って、読んでいてその一文一文を味わうといった気持ちで読み進めていくようになります。
この方が、何故作文を書くようになったかというのは、医師として『死が身近にありすぎる日常は、自分のよって立つもの全ての根が、じつはとてつもなく脆いのだという冷徹な事実にのみを教えてくれた。』 『医者になって半年経ったころ、中略、人の死期に手を加える決断を迫られるこの仕事の剣呑さに気づき始めた。二年目あたりで、医業のみを一生続けるのは無理だと判断し、小説を書き出した。業の深さの自覚を書き記し、日々の行為を再確認しないと自分の居場所がわからなくなりそうで怖かった。』 といったところだそうだ。 これからこの南木さんという方が、実になみなみならない程の誠実な精神を持っておられたことが伺えられる。
この本の題が からだのままに であり、一般的にはこころのままに といったテーマが多い中で、 この作家がふわふわ世相によって浮遊し勝ちなこころ ではなく、衰え衰弱したか身体からの声というか欲求に素直なところも 精神の誠実さから出るところなのであろう。
実は、いま読み返している最中である、 味わいながら。